転生したら雑草だった
ついさっき、トラックに轢かれた。学校帰りに突然トラックが突っ込んできて、気づいたら地面に倒れていて、周りは血だらけだった。それなのにどこも痛みはなくて、だけど体は動かせなくて、アスファルトを割いて小さな花を咲かせる雑草を見たのが最後の記憶だった。
そして、死んだと思ったのに意識があるのが不思議で目を開けたら、目の前に大草原が広がり、空は清々しいほど晴れ渡っていた。草原にはゲームで見るようなモンスターが闊歩している。
「は? どういうことだ……」
ひとまず落ち着こう。最初にすべきは情報整理だ。恐らく俺はあそこで死んだ。目が覚めてゲーム風な世界にいる。ここはどこだ? あれか、天国的なやつか? もしくは今漫画やラノベで流行りの異世界転生? まあ、それが現実で起こるとは考えられないけど……。あ、もしかして俺は奇跡的に死なず、現実では意識不明の重体とかでこれは夢?
んー、よく分からない。というか、俺今どうなってるんだろう。首はかろうじて動かせるけど体とか基本動かないし、そもそも視点が変な気がする。めっちゃ低い。目線を下にやれば地面が目と鼻の先にある。
「……え。いや、ちょ……は!?」
下を見て気がついた。自分には手も足も生えてない。あるのは葉っぱと茎。そう、葉っぱと茎。人間的な手足や胴体ではなく、葉っぱと茎。
「待って……どういうこと? 葉っぱと茎……?」
ここが天国でも夢でも異世界でも、ありえないだろう。葉っぱと茎って考えられるのはもう草しかない。良くて花だ。どちらにしろ植物だ。せめてそこは動物にして欲しかった。欲を言えば人間が良かった。流石に植物はないだろう、植物は。
「きゅー? きゅっきゅっきゅー!!」
急に熱く生臭い風が体にかかる。目を上げたらさっき見たモンスターが目の前にいた。モンスターの瞳に青い花の咲いた雑草が映っている。……多分これ俺だよね。やっぱり俺雑草なの? 嘘でしょ? しかもこれ絶対絶命のピンチじゃん。もうこれ食べられるじゃん、俺の人生ジ・エンドじゃん。やだやだやだ死にたくないって!
「待て待て待て! やめろ、食べるな!」
俺は必死に命乞いした。いや、植物なのに何で喋れるのかは俺も分からない。というか俺喋れてんの? これ俺が心の中で思っているだけじゃない? そもそもなんで植物に目なんてないのに景色が見れてるんだ? 謎が多すぎるだろ。こんな何も分からないまま死にたくない。
「……うぎゃあーっ! 花が喋ったーーーっ!!」
「うわ、モンスターが喋った!?」
「ぎゃーっ! 化け物の花だーっ!」
「違っ!? え、待ってこれどういう状況!?」
「それは僕が知りたいよ!」
やばい混乱してきた。してきたっていうか、目が覚めてから混乱しっぱなしなんだけど、本当にちょっと待って。落ち着いて考えよう。トラックに轢かれる→目が覚める→雑草になってる→モンスターと会話中。いやいやいや、展開がおかしいだろ!? 何があったら雑草になってモンスターと会話できるんだ!? そもそもここはどこなんだ!?
「……はっ! もしかして君、転生者ってやつ?」
「え、転生者?」
「転生者っていうのはね、この世界に前触れなく現れる人間のことだよ。この世界のことを何一つ知らずに現れるから別世界の人間って言われてる」
「な、なるほど。でも俺人間じゃないぞ?」
「う、うーん……転生者自体、不思議な存在だから花になってもおかしくないんじゃないかな?」
「え、そんなのあり?」
「そんなこと僕に聞かないでよ……」
まじで異世界転生なの? 夢じゃない? あー、もういいや、よく分かんないから異世界転生ってことにしておこう。異世界転生した夢って考えてもいいし、それなら多少の変なことは受け入れられる。
「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど」
「ん、なに?」
「なんでお前、当然のように喋ってんの?」
「え! 分かんない!」
「分かんないのかよ!?」
「だって食べれるかなーって思って近づいたら花が喋って命乞いしてくるし、驚いて叫んだら言葉通じたんだもん! 僕だってびっくりしてるよ!」
「そう言われると確かにそうだな!?」
俺がこのモンスターの立場だったらそりゃ驚くわ。人間で例えれば、牛や豚に命乞いされて、色々質問されてるみたいなものだもんな。うん、俺ならまず逃げる。むしろ会話をしてくれることがありがたく思えてきた。というかやっぱり俺食べられそうになってたんだ。良かった、言葉が通じて。何も分からないまま食べられて死ぬのは嫌だ。
「……あの、お願いだから食べないでください」
「えっ、急にどうしたの?」
「だって、さっき食べようとして近づいたら……って言ってたから……食われんのかと思って」
「えー、流石にもう食べないよ。だって喋る草なんて気味悪くて食べられたものじゃないもん」
「いや、確かにそうなんだけど……言い方……」
「でも君、面白いね!」
「お、面白い?」
「うん! 反応も面白いし、それに転生者? なら僕色々聞きたいことがあるから、良かったら教えてよ!」
「ま、まぁ、俺で答えられることならなんでも答えるけど……その代わり絶対俺の事を食べないと誓ってくれ」
「もちろん! なんなら、他のモンスターから守ってあげるよ。こう見えて僕は強いんだよ?」
「ははっ、それは頼もしいな」
ウサギのようでもネコのようでもある変なモンスターだが、白くてもふもふしてる毛とくりくりの目が愛嬌があって可愛らしい。あと、俺の事食べないって約束してくれたから多分良い奴なんだと思う。しかも守ってくれるって。俺は雑草だから何も出来ないし、守ってくれるという言葉が頼もしくて仕方がないよ。
「あ、そうだ!」
「なんだ?」
「僕からもお願いがあるんだけどいい?」
「もちろんいいぞ。なんだ?」
「守ってあげる代わりに、毎日僕とお話して欲しい」
「それくらいなら全然いいぞ。むしろ動けないから暇だし」
「やったぁっ! 僕、人間にもモンスターにも嫌われててひとりぼっちだったから……嬉しいな!」
「えっ……そ、そうか」
「うん! あ、これが友達ってやつかな?」
「ま、まあな。うん、俺達は友達だ」
「本当!? 友達! 嬉しいなー!」
ネコウサギは目をキラキラさせて、本当に嬉しそうにしている。なんとなく釣られて俺まで嬉しくなってきた。
「あ、じゃあ友達の印に名前教えてよ!」
「名前か……俺はソウマだ」
「ソウマね! 僕はラフテルだよ!」
「わかった、じゃあラフテル。これからよろしくな」
「うん! よろしくソウマ」
こうして俺の奇妙な異世界生活が始まった。トラックに轢かれ、雑草に転生し、ラフテルの友達として話し相手となり、植物の俺はここから動けることもなく、ひたすらに同じ日々を繰り返し、ただ枯れるのを待つ。そんな不思議な生活だ。
お読みいただきありがとうございました。異世界転生ものを書いてみたいと思い、初めて書いてみましたが完全なギャグになりました。
不思議な異世界生活が始まってますが、小説は続きません。
よろしければ、一言でもいいので感想等あると大変嬉しいです。