第六話 GOD OF SUSA NOTE 後編
フェラーズの記述
天皇
私は須佐との関わり、正体を会議で話したが誰も信用しなかった。「確かに得体の知れない力を持っているようだ。だが、我々は連合軍だぞ。戦勝国だ。敗戦国日本の生き残り武人、もしくは現人だろうが、現世では国家間の法と云うものがある。・・・其れと、今回の事を天皇の指図か?」
私はわからないと答えた。
本部を横浜から日比谷に移した。皇居の正面だ。皇居を睨み据える。見張る。それが目的だ。
須佐の拠点は出雲の山中だと答えた。岩国基地から偵察機が出され発見された。マッカサーは現地に特殊訓練兵を派遣した。戦いではない。須佐部落の詳細を記録するためだが、場合によっては交戦も辞さない。須佐は特殊訓練部隊を襲った。あっと云う間に全滅した。3人を捕虜にし、連合軍の出方を拷問して聞こうとした。1人は首を斬られた。残った2人を土中に埋め、その周りを一晩中、人喰い虫が見張った。1人の兵は気が触れた。次の日、解放された。
連合軍は1万の兵を導入した。出雲には亜米利加軍を主体として四国、中国に進駐していたイギリス、インド軍が参戦した。表向きは日本軍敗残兵の決起殲滅だ。
私は束縛中の佐助に会った。国際問題になると。しかし、彼は云い張った。
火力に頼っていては、あなた方は負ける。須佐は戦い方が違う。
私は須佐との交戦は反対だったが、その言葉に腹が立った。しかし、その言葉は本当だった。連合軍は負けた。それは最新兵器と物の怪軍団との戦い。ミサイルは空中で信管を抜かれ、空中戦は直角に曲がる大鴉、白狐軍、天狗との戦い。天狗が気流を起こし、戦闘機は墜落。3000の兵と戦車、戦闘機、大砲を失った。しかも岩国基地も白狐軍に空から攻められ全滅。
「国内のどこかにまた原爆を落とすかしれないぞ」佐助への脅しだったが彼は平然と、こう云った。「最初の2発、核爆弾を知らなかった。しかし、今はどういうものかわかった。もし投下したら空中で空間移動させ、亜米利加のどこかに落とすだろう」私は悟った。須佐は武器を使わずとも亜米利加を壊滅できるのだ・・・と。
此処では詳細は書かないがフェラーズは失った武器やらの数を細かくリストアップしていた。
「こんな大掛かりな戦闘の話は聞いたことが無い!隠しに隠したのか」百目野は驚きの連続だ。
マッカーサー元帥は項垂れた。この現実をどうトルーマン大統領に説明したのか?私は知らない。
私は天皇に会いたかった。真意を聞きたかった。日本はどこまでも軍事国家なのか?容認しているのか?日本の王は何を考えているのか?
私などが天皇に会えるわけが無い。私の本業は「天皇に戦争責任はあるのか?」を調査することである。その結果が日本の運命を左右する。しかし、天皇の影の軍隊が出てきて、しかも連合軍を殲滅した。天皇の側近は全てを否定した。「須佐は勝手でしたこと。お上は政治や軍部に口を挟まない」と云う。「しかし、戦争を止めたではないか?」この国は摩訶不思議の誤魔化しだらけだ。
フェラーズの記述
天皇とマッカーサー元帥の対談
一向に調査も進まず、ついにマッカーサー元帥は天皇を本部に呼ぶと云った。「来るわけがない。どう逃げるか?助かろうか?今も思案中だろう」そう思った。歴史上の王と云う者はそういうものだったからだ。しかし、天皇は自ら会見を望んできた。
「どうせ、命乞いだろう」
会見は9月27日アメリカ大使館内と決まった。
当日、天皇は側近を連れてやってきた。車から降りてきたのは只の小柄な紳士だった。「これが天皇?」私は玄関で最上の例を尽くし敬礼をした。するとニコッとして「ありがとう。あなたがたに感謝します」と英語で話した。「天皇は英語が話せる!」しかし、震えている・・・天皇は震えていた。
マッカーサー元帥の部屋に通すと2人と通訳、筆記記録係以外は退席した。マッカーサー元帥は明らかに天皇を見下していた。約30分後、会談が終わると「え?」マッカーサー元帥の態度が明らかに違って出てきた。まるで天皇の僕のように寄り添ってそのまま玄関まで見送ったのである。「何が起きたんだ?」
佐助も会見後、解放された。
ここからはマッカーサー元帥本人から聞いた会談内容だ。
2人の会談内容は本来は機密とした。
マッカーサー元帥はまず、須佐のことを話した。国際法違反だと。日本は世界から叩かれますぞと。すると天皇は「族長・武角の首を用意した」と云ってのけた。日本武士は間違いを認めたとき、自ら腹を切って首を落とす。「マッカーサー元帥、あなたがた連合軍への陳謝の意味で首謀者・武角以下腹心たちは責任を取り、自ら命を絶ちました。ご検証をお願いしたい」「What?!」「首を用意してあります。連合国全域に公開してください」「く、首?・・・では、須佐一族は?・・・」「壊滅寸前です」
「これは嘘だ。僕は岩手で数年前、武角に会った。天皇は賭けをしたんだ」百目野は思った。
2人の会談は駆け引きの連続だ。天皇はアメリカを敵に回したくない。が、屈服もしない。マッカーサーは須佐が怖い。
「首など要らない!須佐の首で3000人の兵の魂が報われるとお思いか?」「思いません」「あなたを裁いたら日本国民が一斉決起するだろう。その先導に残った須佐を出すのですか?何故?今頃?須佐を出せば我々は負けていた。陛下、あなただ!あなたの真意を知りたい!」
「彼等の本来の敵は魔です」
「が、彼等の存在は脅威です。世界を征服する力を持っているのですか?」
「はい」
「あなたはそのような部下を持ちながら命を差し出すのですか?納得出来ません。何をお考えですか?」」
「確かに須佐の力は強大です。ですが須佐を要しても出来ないことがあります」「それは何ですか?」「私は、國民が戦争遂行にあたって政治、軍事両面で行った全ての決定と行動に対する全責任を負う者として、私自身をあなたの代表する諸国の決裁に委ねるためにお訪ねした」
「?」思いも由らぬことを天皇が口走った。マッカーサーは面食らった。
「須佐の行動に関しても同じです。わたしの首も差し出します」
「何を企たくらんでいる?」マッカーサーは思った。
「喰えんな・・・」
「國民が餓えているのです」「餓え?」
「わたしに如何に強大な力があろうと、餓えている國民を救うことは出来ない」「・・・・・・」
「戦争責任は自分にあります。自分はどのような処置を取られても異存はない。しかし、今回の戦争のために現在、國民たちが飢餓に瀕している。多数の餓死者が出るやもしれない。國民に何も罪は無い。で、あるから米国に食料援助をお願いしたい。此処に皇室財産の有価証券をお持ちする。費用の一部にあてて頂ければ仕合せです」
日本人筆記者は焦った。「まずい!こんな発言を残したら天皇が戦争犯罪人だと自白したことになるではないか。死刑は免れない」記録に残さなかった。
マッカーサー元帥は、立ち上がって天皇に握手を求めた。「両國の弱みを分かち合えるではないか!」
「解りました。早急に手配したしましょう」
マッカーサー元帥は、天皇の真意を理解したのだ。
マッカーサー元帥が決めたからと、すんなりアメリカ議会、GHQ内でさえ通るわけではない。しかし、この2人の会談は両國を前向きにしたことは事実である。その後の処理は政治家たちに任せようと思う。
マッカーサー元帥は須佐に勝てる方法はないか?と聞いた。須佐と戦って勝つ方法は無いと答えた。火力に頼っていては、勝てない。それが答えだ。数千年前から存在する忍者に現代でも勝てないのだ。
「ならば天皇を利用しよう」
「日本の王をですか?」
「天子の座を降りてもらう。が、國民は納得しないだろう。それを天皇自らやってもらう。それが日本への罰だ」
「それだけですか?」
「天皇の國民の支持率はいかほどだったかな?」
「支持97%です」
「恐ろしい支持率だな。世界の何処を探してもこんな國はない。素晴らしくもあり、恐ろしくもある。我々の統治の目的は?」
「天皇を裁くか?否か?それと日本をアメリカの協力國とすること」
「奴隷化、支配など初めから考えてはいない」
「はい」
「ボナー」
「はい」
「日本を救ったのは何だと思う?」
「閣下と天皇の会談でしょう?」
「違うな。國民だよ。國民の天皇へのフィーリング。そして須佐の豪鬼。最後に天皇の勇気。その先は日本の政治家の度量が如何程か?で決まる」
「これが日本統治時の闇歴史なのか・・・」百目野はこれは大変な記述ではないか?と思った。
フェラーズは須佐の謎にも着目していた。
「須佐は長寿であると云う。彼らの拠点、出雲部落周辺は時間がゆっくり流れるためだと云う。しかし、須佐佐助は80年も人間社会に身を置いているのに、全く老けていなかった。これはどういうことなのか?」
その通りだ。
「何時か科学が解明してくれることを望む」
この記録が書かれてから更に80年経った。
「科学が解明・・・か」
一方、警視庁本庁は連続殺人事件として捜査本部を設立した。
木藤は思った。「この事件は如何に人を集めようが科学捜査だのと云っても解決はしないのではないか?」
特にあの「サイン」を気にしていた。
「そうだ!白城!地図だ」
「どうしたんですか?木藤さん?」
「閃いた。いいから持って来い」
地図を広げた。
「見ろ!殺人現場の位置を」
「本郷、神田猿楽町、四谷・・・あ!一直線に並ぶ!」「3点目が少し飛ぶだろう?あのサインと同じだ」
「しかし、実際には4件です」
「場所を示しているんじゃないか?」
「直線で結ぶ線は?」
「わからん・・・」
「皇居を飛び越えてますね」
「東京のど真ん中での犯行。皇居を見下した犯行?」
「天皇殺害予告ですか?!」
「わからん・・・」
「2点目と3点目の間を次に埋める計画ですかね?・・・た、大変だ!」
「・・・捜査本部に提案しよう」