第壱話 惨殺事件
令和6年(2025年)、5月東京文京区。残虐な事件が起こった。
「暴力団組員が公園で数人惨殺された?」警視庁捜査一課に連絡が入った。
木藤刑事と相棒の後輩・白城刑事、課長が詳細を話し合っていた。「マル暴を呼びますか?」「彼らは組に直行する。木藤、白城は現場に向かえ!」車で現場へと向かった。鑑識の御手洗も居た。
マル暴とは警視庁組織犯罪対策部第4課。組織暴力団抗争が専門だ。木藤たちは警視庁捜査一課。殺人、強盗、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火から詐欺、企業犯罪など、凶悪犯罪を扱う課である。
「木藤さん、組同士の闘争ですかね?」
「ミタさん、どうも不可思議なんだよ。鑑識も困ると思うよ」
「不可思議?」
そのまま木藤は黙って考え込んでしまった。
現場はすでに所轄警官たちが現場をテントシートとブルーシートで覆って外部からは見えないよう配慮し、テープで通行止にしてあった。
「ご苦労さん、殺人課の木藤と白城だ」
「これは木藤刑事。こちらです」
殺された人数は5人。「うう!」死体はどれもバラバラだ。首や手、足が捥げて、転がっていた。辺りは血みどろで肉片が散らばっていた。
「ズタズタだな・・・目撃者は?何かわかったことはないか?」
「目撃者はまだわかりませんが、叫び声を聞いたと近所の市民たちが云っています」
「叫び声だけか?」
「男が1人怯えて悲鳴をあげながら逃げた行く所を見た者がおります」
「組員か?」
「だと思います」
「すると組に報告しているだろうな。白城、組に行ってるマル暴に電話だ」
「わかりました」
既に組本部はビル周りから中まで刑事と警官でごった返していた。厳戒態勢だ。
「東雲だ。うん、白城か」白城は、マル暴の東雲刑事に携帯で電話した。
「うむ・・・逃げ切った組員がこちらに居るかも?か。わかった」
天馬組組長・天馬に聞いた。
「天馬さん、殺人現場から逃げ切った者がこっちにいるでしょう?」
「知らん・・・」
「こいつら、何か隠している・・・」東雲は感じた。
「東雲さん、そんなことより此処で油売ってんと早よ、犯人捕まえてくれよ」
「捕まえるさ。殺人の専門たちがな。お前さんたちが余計なことを仕出かさねば俺も署に帰れるんだ。ところで・・・」
「何ですか?」
「若頭の佐藤は何処だい?」
「仕事で出掛けてますよ」
「ほう?2時間前に佐藤を見たと云う者が居るんだが?」
「事件の報告が入る少し前に出たんでさ」
「そんなに重要な仕事か?組員が5人も殺されたってのに?引き返させなくて良いのかい?」
「重要な仕事なんで、仕方なくそっちを優先させたんでさ」
「どこかの対抗している組にでも行ったのかい?」
「まさか!もしやったとしても、もう旦那たちの耳に入っているでしょう?」
対抗組織の大森組には既に別のマル暴と警官隊を配備した。其処からは何も云って来ない。
鑑識の御手洗は考え込んでいた。
「どうやって殺したんだろう?」
「ミタさん、どうした?」
「いやね、この肉片ですよ。綺麗でしょう?こうなるってことは何か破裂が起きたんでしょう。火薬を身体に仕掛けるとかですよ。しかし、それじゃ肉片が焦げるはず。これは皆、綺麗だ・・・」
「火薬を仕掛ける?5人にかい?」
「新式の銃弾かもしれない。散弾のようなね。ところが銃弾の痕跡も無い・・・銃声も聞いていないし、格闘すらしていない。見てください。これを」
「これは・・・小便か?」
「そう、小便を漏らしたんですよ。余程の恐怖だったんでしょう」
「綺麗な破裂死体・・・・まさか・・・」
木藤は明治時代の事件を思い出していた。
「木藤さん」
「何だ?白城。逃げた組員はわかったのか?」
「いえ、まだですが、あそこ・・・」
横目で見るよう促した。
野次馬の中にサングラスをかけた怪しげな者が目に入った。
「あいつ、天馬組の佐藤じゃないですか?」
「似てるな。何をしているんだ?」
その怪しげな男はその場を離れた。
「白城、後を追え」
「はい」
木藤はすぐさま東雲に連絡した。
「木藤か。何?佐藤が殺人現場に?」
白城はそのまま後を追った。
「何処に行く気だ?」
本郷4丁目の看板が目に入った。
角を曲がった。「何処に行く気だ?」
ズシャ!
何か鈍い音がした。「何の音だ?」
白城が角を曲がると・・・「あ!!」
佐藤が銃を握りしめたまま、塀に俯して倒れていた。腹に大きな穴が空き臓物が散っていた。
「佐藤!佐藤!・・・ダメだ」
「や・・・野郎・・・」死んだ。辺りを見渡したが人の気配など無い。
「何が起きた?!!」