08 帰り道
抱き合っている男女二人が、飲み屋で注目されない訳もない。
お店の中でヒューヒューと囃し立てられ、恥ずかしくなった私はすぐにでもお店を出たかった。でも、求婚を受け入れて貰ったと、すごく嬉しそうなシュー様の笑顔や揺れる尻尾を見ていたら、彼の喜びが伝わって来て顔を熱くしつつなりながらお水でお相伴した。
お店を出たら、とても自然にシュー様は手を繋いだ。
今日は週末だから、王都の大通りは人が多い。私とはぐれないようにするためかなと、理由を推測しつつ体温の高い大きな手を握った。
「あの……シュー様とお兄様たちって、お顔は似てますか?」
格好良い人のお兄さんは、やっぱり格好良いのだろうか。私は興味津々で、彼の家族について聞いてみた。
シュー様はなぜか、苦笑しながら言った。
「気になる?」
「はい」
私は素直に頷いた。年頃の女性として、気になる。気になる。とても気になる。
彼は手をギュッと握ると、言った。
「では、近く会いに行こうか。そんなに、遠くないよ。王都はサリューにも近いし。馬で行けば、リィナを連れていても三日程度で着くんじゃないかな」
ええっと……それは、それはですね。お泊まりありの旅行ってことで……。
求婚を受け入れた私と彼。二人で旅行するとなるとどうなるものかと、顔を熱くして俯いて歩いた。隣を歩く私に、シュー様は優しく言った。
「いずれ、僕たちは結婚するんだし。早めに連れていくよ。リィナのことを言えば、兄たちも一度挨拶に来いって。きっとうるさいだろうから」
「あ。シュー様。すみません」
大事なことを言い忘れていたと彼の手を引くと、背の高いシュー様は私の顔を見下ろして瞬きをした。今気がついたけど、睫毛が長い。どうなってるの。
「私。まだ十七歳なんです。ええっとですね……アティプト国での成人まで、誕生日まであと数ヶ月はかかるんです。だから、結婚するならそれからになると思います」
説明不足は後々の不和の原因になるものだ。これは先に言っておかねば誤解を招くと神妙な顔をした私に、彼はにこっとして微笑んだ。
「もちろん。待つよ。まだまだ、僕のこと知ってほしいし、リィナのことも知りたい。結婚するまで、ゆっくりと仲を深めて行こう」
特に気にする素振りもなく、優しい彼はにこにこと優しい顔で笑ってくれる。
よかったと、私は胸を撫で下ろした。
あの時あの場所で、偶然荷物を持っていてくれて、私が偶然お菓子屋さんのアルバイトを引き受けて。彼と出会えて本当に良かった、と思った。
そうそう。こうして彼とお話が出来るなら、まだまだ聞きたいことがあった。
「あのっ。シュー様は、なんでアティプトで、騎士になったんですか? 貴族ですし、ご実家のあるサリューで騎士になった方が良かったのでは?」
私の素直な疑問を聞いて、シュー様は困ったようにして笑うと明るく言った。
「うん。サリューで、若い時に色々とあってね。アディプトで先に騎士になった兄の友達のリードさんを頼って、僕が後から来たんだ。リィナにも会えたし、本当にこの国に来て良かったよ」
どうやら彼も、同じことを思っていたみたいだ。二人して照れて、笑い合う。繋いだ手を振って、歩き出す。
周囲の冷やかしの視線なんて、特に支障ないし見て見ぬふりだ。
———この時。色々あったの色々を、もっと踏み込んで尋ねていたなら、あんなことにはならなかったのかもしれない。
なんて。すべては結局は何かが起こってからの、後付けになるんだけど。