05 女は度胸
一晩悩んだ後、私は腹を決めた。
世間体も良く身入りの良い職業を持った、見目麗しい男性。世の女性が、求婚者に求めるものを全て持っている。それに、やたら私に仕事を辞めて貢ぎたがっていたことから、金銭的にも余裕がありそう。
シュー様と……結婚を前提にお付き合いしよう!
そうしよう。絶対に、それが良いじゃない。
何がダメなの。むしろシュー様と結婚するにあたって、ダメなところが見つからない。落ち着いて考えたら、どうしてもその結論にたどり着く。
父の店がそこそこうまく行っている以外は、すべて平々凡々の私にとっては、願うべくもない相手との縁談だ。
ただ、ひとつだけ問題があるとするなら、彼の種族だ。獣人の習性について、あまりに私は無知すぎる。
敵を知ることは、勝利の近道だ。
いや……シュー様は敵じゃないけど、特に勝つ必要もないけど。
などと仕事中にもだもだと考えながら、大通りを毎度のバスケットを腕にかけてうろうろしていた。
「おい」
声を掛けられて振り向くと、いつぞやの銀髪青目の獣人騎士様だ。シュー様の上司か同僚の人かしら。
感じよく笑顔になって会釈して私が近寄ると、もう一人居た茶髪の騎士様(頭に耳もないし獣人ではなさそう)に手で合図して、彼を先に行かせた。
「シューマスが……迷惑をかけているようだな。すまない。あいつは少し思い込みが激しいところがある」
ええ。そうなんです。と、私は頷こうとして留まり、軽く首を振った。
いけないいけない、私は腹を括ったんだった。決めたのは昨晩なのに、完全に忘れるところだった。
「いえ。そんなことはありません」
とっておきの営業スマイルを、披露する。お付き合いすると決めた以上、シュー様繋がりの方に好印象を与えておくに限る。
「そうか……困っているようなら、助けてやるつもりだったが」
軽く眉を上げて、私を見下ろした。
私が背が低いのも多分あるんだけど、騎士様ってみんな背が高くて筋肉質だ。お仕事柄、体を鍛えてらっしゃるのもあるんだろうけど。
「あの、お願いがあるんですけど」
私は彼と偶然会えたのは、チャンスだと右手をギュッと握った。
「騎士様。私に獣人について、教えて頂けませんか?」
私の言葉が意外だったのか。ほうと目を見張ると、銀髪の騎士様は言った。
「リードで良い。あれと、結婚する気がある、と言うことで良いか?」
私が躊躇なく頷くと、リード様は今はお互い仕事中だろうということで、双方の仕事終わりに夕食を共にする約束をすると、颯爽と去って行った。
あ、常識的な人なんだな。同僚みたいに、仕事中に求婚したりするような人じゃないんだなと、つい思ってしまった。
当たり前だけど。