偶然
「よ」
「ナッシュさん、こんにちは。お久しぶりです」
サリューから戻ってからの買い物帰り、私は久しぶりに見るナッシュさんに微笑んだ。騎士服がシュー様達と同じ紺地に白のものになっている。サリュー騎士団服は緑だったからこちらの騎士団に正式に入団したのだろう。
「本当に久しぶりだ」
「お仕事どうですか?慣れました?」
「エクレールにこき使われるよりは楽勝だな」
肩をすくめてにやりと笑う。本当に兄弟なんだなぁ。こう笑うとお兄さんであるリード様によく似てる。
「エクレール様、きっとナッシュさんがいなくて困ってますよ」
「それはないな」
「どうしてそう思うんですか?」
「エクレールが俺を取り立てたのは兄貴の弟だからだ。気心知れてて楽だったんだろ」
「…そんなことないと思いますけど」
私は首を傾げた。謙遜しているようだけど、ナッシュさんは本当に優秀みたいなのだ。リード様やシュー様がナッシュさんの仕事ぶりを話題にしていたのを何度か聞いたことがある。
「どこに行くんだ?」
「市場で買い物してから今帰る途中です」
「そうか」
短く言って私が持っていた荷物を持ってくれた。
「ええっと…ありがとうございます」
「礼を言われることでもない」
2人で並んで歩き出す。
夕暮れが近くて薄紫色の空気が辺りを包む。風が気持ち良くて思わず目を閉じた。
「リィナ」
「はい?」
「どこかに一緒に出かけたい」
見上げると真剣な青い目だ。
「…えっと、ごめんなさい」
大きな銀色の耳が垂れる。顔は無表情なのにそこは正直なんだな、と笑ってしまった。
「みんなと一緒なら良いですよ」
「兄貴とシューマスか…それで構わない」
「行きたいところ、あるんですか?」
ああ、と頷いた。
「同僚に聞いた。森に湖があるらしいな」
この辺では有名な観光スポットだ。そういえばナッシュさんは本格的にこちらに来たばかりなんだから色々案内するのも良いな。
「とっても綺麗なんですよ。天候によって色が変わるんです」
「綺麗だろうな」
「景色の良いところが好きなんですか?」
「…いや、何処でも良いが」
「じゃあお弁当作って行きましょう」
「お前が作るのか?」
「え?意外ですか?」
夕暮れの中、ふっと笑う。
「いや、嬉しい」
「…言っておきますけどナッシュさんはついでですからね」
「構わない」
「美味しくないかもしれませんよ」
「絶対美味しい」
「ほんとに…期待しないでくださいね」
その日の夜、窓から銀色の狼を見た気がした。リード様かナッシュさんかな、また聞いてみようって、思ってから眠った。




