順番待ち
目を覚ました時は昼過ぎで村も当たり前だけど昨日の活気はなく窓から見下ろす人通りも少なくなっていた。
山賊達は捕らえられて朝来た騎士団にそのまま渡されたらしい。私とロニー以外の3人は結局そのまま夜を明かしたみたいだ。
「リィナ」
水場で顔を洗ってから私は背後から話しかけられて振り向いた。
「ナッシュさん、お疲れ様です。昨日は大変でしたね」
短い銀髪に光が跳ねてる。眩しい日の光にすこし目を細めた。
「…怪我は大丈夫なのか」
「大げさに包帯を巻いてもらっているだけなんです。ほとんどかすり傷ですよ。自分で転んじゃっただけです」
恥ずかしくなって包帯の巻かれた手足をさする。血が止まったらもう外してしまった方が良いのかもしれない。
「心配した」
「…ありがとうございます」
短く言われて私はどう反応して良いかわからなくて曖昧に微笑んだ。
「失うかと思った」
「? 何をですか?」
「リィナだ」
「私は大丈夫ですよ。ロニーが一緒に居て助けてもらいましたし、ナッシュさんにも、助けてもらいました」
俯いたナッシュさんにいつもの押せ押せの勢いはない。いつもこうなら話しやすいのにな。
「…俺が原因でこんなことになってすまない」
そんなことを思ってたのか、と私はビックリした。
「ナッシュさんのせいでも…ましてやエリゼさんのせいでもありません。山賊に襲われた件は山賊が悪いですし、ナッシュさんがここに来ているのもただの偶然です。悪いのは山賊だけです」
「一度エリゼを王都に連れて帰る」
「そうなんですか、エリゼさんも不安だと思いますしそうしてあげてください」
微笑んだ私にナッシュさんは辛そうに言った。
「…会いに行って良いか?」
ふっと私は笑った。
「番にするんじゃなかったんですか?」
「リィナを失うかと思った時に、同時にあいつ、シューマスを失った君も悲しむんじゃないかと思った。リィナが笑っているのが一番良いと思った」
「ナッシュさん…」
え、なんかまともなこと言ってるから今までと別人みたいです…!ナッシュさん!どうしちゃったの?
「俺は君を困らせたい訳じゃない。獣人の本能としてはあいつから奪いたい気持ちが強いが、君を泣かせてまでやる意味はないと思った」
「わかりました。会いに来てください」
「リィナ」
「でも、あんまり距離が近すぎたり、無理に給餌しようとするのはダメです」
「わかった。善処する」
何がどうなったか、わからないけど、言ってることがすごい進歩してる。
「俺はそちらでの駐在任務を受けている。しばらくは一緒に居れるな」
「え?」
「無理矢理はダメだからな。シューマスがしくじるのを順番待ちすることにするよ」
今までのしおらしい態度が一変した。
「待ってろ、すぐに会いに行ってやる」
リード様に似た、にやっとした笑顔でナッシュさんは言った。
…騙された?