追いかけてきた
「リィナ、まだ怒ってる?」
パカパカと歩く黒毛の馬に乗っていると後ろからシュー様が顔を覗き込んでくる。
ええ、怒ってますとも。宿屋の食堂で夕食が一緒だったということは、翌朝の朝食も一緒だったってことだ。生温かい周りの目が一般庶民の羞恥心を持つ私には辛かった。
「姉ちゃんは大げさなんだよ。シューマスさんも困ってるじゃないか」
隣を歩くリード様の栗毛馬に乗っているロニーが口出しする。完全に面白がっている顔だ。今に見てろ。
「ん?」
その時私は後ろから急ぐ馬車の音を聞いた。かなり急がせているのか車輪の音が軋んでいる。危ない。
「シューマス、ナッシュ、道脇に寄ろう。かなり急いでいるようだ」
リード様は2人に声をかけた。この道は狭く、馬車と行き交うには幅が足りず苦しい。
3人が馬の歩みを止めて馬車とすれ違う、と思った時、キキィっと音を立てて紋章付きの馬車が停まった。バンっと音を立てて扉が開く。
「ナッシュ様!」
「エリゼ」
いきなりの金髪美少女の登場にも無表情のナッシュさん。
「急ぎました!」
「そうか」
驚く私たちを尻目に淡々と答える。
「なんでいきなり婚約を解消されたんですか?」
「番になりたい女性を見つけた。その上で君と婚約しているのは不誠実ではないか」
ポロポロっと美少女は大きめ緑の目から涙をこぼす。
「私は同意していません」
「家同士の婚約に君自身の同意は必要ないはずだが」
「そんなっ…式の準備だって…してたのに」
「すまない」
ナッシュさんはさらっと答えた。ますます美少女は泣いた。
えーと、何これ。私は事情を知っていそうなリード様をこっそり伺った。あ、死んだ魚の目してる。
私は見なかったことにして後ろのシュー様にこっそり言った。
「ええっと、ナッシュさんの婚約者さんみたいですね」
「元、婚約者だ。リィナ。もう既に解消している」
耳ざとく淡々と語るナッシュさんに私は聞いた。
「あの、大丈夫なんですか。泣いてらっしゃいますけど」
「先日彼女との関係は解消しているしその際に要求された慰謝料は支払い済みだ。俺にはどうしようもない」
そりゃ、そうだけどさ。どうするのこの状況。
金髪緑目のエリゼさんは私をキっと睨みつけた。
「貴方がナッシュ様をたぶらかしたのね。絶対負けないんだから」
ええ。ひどい濡れ衣。




