頭ポンポン
チェっとロニーは舌打ちした。
「なんか僕、誘拐されにサリューに来たみたいじゃない?」
「そんなことないわよ、拗ねてないで早くご飯食べなさい」
はい、と取り皿を渡す。宿屋の食堂は美味しいけど量がすごい。けど、シュー様とリード様が居るとまるで魔法のようにするすると無くなっていくので不思議だ。
「ロニーはご苦労様だったな、調書をとりにきた担当者が褒めていたぞ、証言を取るのも時間がかからなかったし説明がわかりやすかったってな」
リード様はロニーの頭をポンポンと叩いた。
「リードさん、それは是非僕じゃなく姉ちゃんにやってあげてください」
リード様はん?と不思議そうにしたり顔のロニーを見た。
「イケメンによる頭ポンポンは乙女の夢なんです、姉ちゃんも友達とよく語って…」
私はロニーの唇を引っ張った。
「姉ちゃん、いたひ…」
「あんたに話したことはないでしょう?もしかして盗み聞きしてたの?」
ロニーは口を痛そうにさすりながら言った。
「姉ちゃんたちの声が大きいのが悪いんだよ、隣の部屋なんだし盗み聞きっていうか普通に聞こえてきたんだよ」
「それは聞こえない振りするのがマナーでしょ」
「聞こえないふりなんて無理だよ。それに姉ちゃんがして欲しいのは頭ポンポンよりも…」
私はもう一度口を引っ張った。
「いたいいたい、姉ちゃんごめんなさい。もう言いません」
「よろしい」
私は手を離した。
クスクス、とシュー様が笑いながら話しかける。
「仲良いね。良いなあ、僕も加わりたいよ」
「獣化してくれるのなら認めましょう」
私は犬好きのロニーの耳を引っ張った。いたいいたいと言うロニーに嬉しそうにシュー様は言った。
「え?良いの?じゃあ今から加わろうかな」
「また服がダメになるぞ、やめとけ、シューマス」
「え?獣化しちゃうと服がダメになっちゃうんですか?」
私はシュー様が獣化した黒い犬のサイズを思い浮かべた。小さくはないがそこまで大きいこともない。服が破けるようなことはないと思うのだけど。
干物を噛みちぎりながらリード様は言った。
「犬と人はだいぶ骨格が違うからな、破れたりすることはあまりないが伸びたり継ぎ目が切れてダメになったりはするな」
そういえば、と私はリード様に尋ねた。
「リード様の髪の毛の色って変わってますね。獣化した時もその色の毛皮なんですか?」
「ああ。そうだな、それに俺は犬ではなく狼だからシューマスよりも一回り大きい」
「あ、狼なんです…ね?」
銀色の犬なんて見たことがないなって思ってたけどやっぱり種族自体が違うようだ、銀狼、ということなのかしら。
「俺と同じ色の狼の獣人は少ないんだ、こんな色の毛皮だからな、昔よく狩られたりしたらしい」
狼が狩られるなんて変な話だけどな、とリード様は苦笑した。
「リード様はご兄弟は…?」
「弟が1人居るな。この国で騎士をしている、結構偉いぞ」
ふむふむ、この面倒見の良さは絶対下の兄弟が居ると思った。
「良かったら会ってみるか?シューマスの次兄のエクレールにもまだ会えてないだろう。弟は彼の副長だから訪ねて行けば会えるはずだ」
「お会いしたいです」
私は即答した。シュー様のお兄様にも会えてまだ見ぬイケメンにも会える。役得でしかない。内緒話をこそこそとしているシュー様とロニーを横目に私はうきうきとした。




