02 家族会議①
「それでは、これより家族会議を始める」
お父さんが、神妙な面持ちで厳かに告げた。
ちなみに、今は夕飯前。詳しく言うと、あとはスープが煮えるのを待つばかりの時間だ。
今日も、一生懸命定時まで働いてきた。とても、えらい私。お腹すいた。
「それで……リィナが騎士様に求婚されたというのは、本当なのか?」
「本当です。僕も見ました」
すかさず真面目な顔をして、弟のロニーが挙手して答える。
見られたんだ……あの収拾つかない、どうしようもない、良くわからない現場を。
身内にあれを見られたのかと思うと、私は一気に死んだ魚の目になってしまった。これ……何年、揶揄われるネタになる?
「じゃあ、結婚したら良いんじゃない?」
昔から友達多めで、お金に不自由したことのないお嬢様育ちのお母さんが、おっとりと答えた。この人みたいな人生を生きたい人は、多いと思う。
「ちょっと! 待って待って。出逢って十分もしないうちに、求婚する人だよ?」
慌てて、当の本人である私が遮る。
これで四人。この会議の、全メンバーである。
「リィナは、何が不満なんだ。職業欄、騎士なんだぞ?」
お父さんが本当に、とても不思議そうに答える。じゃあ、自分が結婚したら良くないです?
「確かに……職業は騎士様であることは、相違ないわ。騎士団服を着ていたし、お仲間の騎士様に無理矢理連れられて、何処かに去って行ったもの」
そう。あの後、騒ぎを聞きつけたのか三人の騎士様に連れられてシューマス・ラングレーさんは去っていった。
というか、無理やり連れて行かれた。
荷物もその中の一人が、慌てて抱えて持って行った。
忘れられてなかった。良かったね、荷物。
そんな中で、不本意な注目を浴びてしまった私も、出来る限り気配を最大限に消して、そそくさとお店に帰った。
「まあ……そうなの? 騎士を騙る詐欺師ってことは、なさそうね。良いじゃない。何の問題もないわ。結婚しましょうよ」
育ちの良いお母さんが、頬を染めて言った。
いや、騎士と結婚するのは、あなたの娘だからね? あなたじゃないからね?
「そうだ、何が不満なんだ」
「会って十分で求婚する人とは結婚したくない」
お父さんの質問に対し、私は素直に本当の気持ちを言った。
普通に嫌だ。
「他に結婚する宛もないくせに、贅沢言ってら」
私の拒否を聞き、ロニーが生意気に鼻で笑った。
「それは、騎士様と結婚することに何の関係なくない?」
私はむくれて言った。
巷では適齢期寸前の、花の十七歳ですけど? 自慢でないけど、求婚どころか、求愛自体が初めてなんですけど?
「あら。だけど、お相手は、犬の獣人なんでしょう? これから結婚したら、とても大切にしてくれそうじゃない」
獣人は一度番だと認めると浮気しないし、この上なく大切にしてくれる。らしい。
何故らしいと伝聞なのかと言うと、獣人があまり身近にいないためだ。
隣の国サリューでは獣人は珍しくないけど、私たちの住む国アティプトでは人族が多くあまり獣人は見ない。
「とにかく、何かを判断するには情報不足だな」
お父さんが顎に手を置いて、ふむと頷いた。
「リィナに求婚した騎士様とやらの情報も不足しているし、犬獣人の情報だって、ほとんどわからない。少し情報収集をしてみるとするか」
お父さんはとりあえず、常識的な判断をすることにしたらしい。
このままなし崩しに、騎士なら間違いないって結婚をさせられるのかと思った。
ちなみに、私の父の職業は日用品などを扱う店を持つ商人だ。
私もたまに店番したり、帳簿付けなどを手伝ったりすることもある。
という訳で、情報収集はお手の物だろう。
「それでは、家族会議を終わる。夕飯にしようか」
出来上がるのを待っていたスープはいつの間にかぐつぐつ煮えてるし、とにかくお腹すいた。