運命の番(シューマス)
「いらっしゃい。シューマス」
手紙に書かれていた場所に時間通りに行くと高い声が響いた。その声を聞くと僕は自分の意思とは無関係に胸が高鳴り、尻尾がパタパタと動く。
「僕のことはリィナにあげたんじゃなかったの」
僕はなるべくその姿を視界に入れないようにして言う。
あら、と笑いながらカツカツと僕に近づく。
「私は自分のものにならない番は要らない、と言ったのよ、私だけのものになるのなら、要るわ」
ふんわりと甘く濃い香りがする。
「僕はカリンのものじゃないよ」
「どうかしら?こんなに可愛く尻尾を振っているのに?」
ふわっと揺れる尻尾を触られる。不快に思う気持ちの方が大きいが、どこかでそれを嬉しく思う自分も居るのも感じる。
どうしても惹かれてしまう。嫌悪しているのに愛してしまう。相反する気持ちが揺れ動き、胸が痛い。彼女が傍にいるといつもこうなる。
でもそれももう終わりだ。
ポケットから薬の入った小瓶を取り出した。
もう僕はカリンの運命の番ではなくなる。
見せるように中身を揺らして見せ、すぐに飲んだ。
「…どうしてそれを?」
中身に心当たりがあるらしいカリンは一歩後退った。
僕は唇を拭いながら言う。ここで飲む必要はないが、どうしても彼女に見せておきたかった。
僕がもう彼女の運命の番ではないことを。
「きみが今犯罪者だからだよ。カリン。僕がいつまでも何も知らない18のままだと思っていたのか」
そう、運命の番には不幸な関係が多い。
僕が彼女にはじめて会った時、既婚者相手に一目惚れに近い状態だった。
番のいる雌に手を出すのは獣人においてご法度だ。とても重い罪に問われる。
だがこれは良くあるケースなのだ。片割れの番のいない僕さえ我慢していれば丸く収まるのだから。
さっき飲んだ薬は運悪く犯罪者等に運命の番が居て、番のいないもの同士なのに、決して結ばれることがないという状況により、より強い感情に振り回される者にのみ支給される。思い余っての自傷行為などを防ぐためだ。
薬に使われている原料はとても珍しいもので数が圧倒的に少ないため、逆にそういうケースでしか支給されない。
「ロニーは返してもらうよ。カリン」
「どうして?」
栗毛のカリンは震えているようだ。でも僕はそれを見ても何も思わなくなっている。薬の効果だ。
泣いているのを見てももう胸は苦しくならない。
「運命の番だからと無条件で愛されてると思ったのか、何をしても許してもらえると?やりすぎたよ、カリン。もう僕は君を愛することは二度とない」
誘拐犯の実刑は重いだろう。しかも相手は隣国の国民だ。貴族だからと言って刑を軽くしていたら示しがつかない。
何年かは会わなくて済むだろう。その時には僕はリィナと結婚しているはずだ。
こうなるということはある程度、予想出来ていたけどね。執着の強い彼女のことだから、きっとリィナやリィナの家族を使って僕を動かそうとすると思った。
さよならだ。カリン。




