誘拐する?
「ロニー!帰ったよー!」
私は宿屋に入り部屋の扉を開けると呼びかけた。シュー様の家で夕食を誘われたので迎えに来たのだ。
人の気配のない、しーん、とした部屋。トイレかな?と覗いてみても誰もいない。
ひやっと背筋に寒気が走る。
部屋の中にあるテーブルに目が止まる。上には白い便箋の手紙だ。
ロニーを誘拐したこと、無事に助けたければシュー様が獣化せずに一人で指定の場所に来ることなどが記されている。
そんな…
「リィナ、どうした?」
シュー様が怪訝な顔をして部屋に入ってくる。ロニーを連れてすぐにここを出るつもりだったのだ。
私は震える手で手紙を渡した。
「これは…」
シュー様は手紙の内容をサッと目を通すと、私を抱きしめて言った。
「リィナ、大丈夫だ。心配しないで。きみがまた泣くようなことにはならない」
ポンポンと背中を叩く。
頭の上の黒い耳はピョコピョコと動いている。どういう反応なんだろう…。
「シューマス、女狐が尻尾を出すのは予想より早かったな」
リード様はいつものにやり、とした顔だ。
「誘拐は犯罪行為だからな、取り締まり要件だ。ご丁寧に証拠まで残してくれている」
2人はいきいきとこれからのことを相談しているようだ。
私は訳が分からなくて唖然とする。
「ロニーのことは心配いらないよ。こういうこともあるかと思ってカリンの元に兄さんの部下が入り込んでいるんだ。何かあればすぐに知らせがくるはずだし、万が一命が関わるような事態になれば連れて逃げるはずだ」
「それじゃあ、ええとこういう事態は予想済みだったっていうこと?」
私は混乱しながら言った。
そうだ、とシュー様は頷きながら言う。
「リィナが誘拐されるかもしれない前提で動いていたんだ。ロニーに手を出すのは想定外ではあったけど、問題ないと思う。…この前の時に何の備えもなかったからね、リードさんや兄さん達にも相談して出来るだけ不測の事態には備えていたんだ」
「あの女狐は後悔することになるだろうな。心配しなくて良い」
リード様も肩をポン、と叩いた。
「僕もいつまでもやられっぱなしじゃない。この前の礼はしないとね?」
シュー様が良い笑顔で言った。




