11 夢の中で
その夜の、夢の中で。
何故か幼く小さくなったシュー様が、ごめんねごめんねと私の体に縋り付くようにして泣くから、私は良いよって笑った。私は大丈夫だよ。だからそんなふうに泣かないで。というと、彼は一層泣いて困った。
恋が始まったような気がして、一瞬のことだったけど何も後悔してない。
ダンダンと扉を叩く乱暴な音と甲高い非難するような声が聞こえて来て、私は目を覚ました。
一緒に眠ってしまっていた黒い犬も目を開けていて、私の腕の中でうずくまるようにして、じっとしている。
「……何かしら?」
私が何気なく階段を下りると、お父さんとお母さんが困っっている声と、高い声を出す女性の叫び声が耳についた。
「シューマスを出しなさいよ! この家に居るのは、私にはわかっているわ」
真っ直ぐな栗毛で可愛らしい大きな猫目をしているけど、頭には犬耳が付いている女性の獣人だった。
その言葉から想像するしかないけど彼女がシュー様の運命の番で、カリンという人なのではだろうか。シュー様は、ここには居ない。私は、彼とあれから会ってもいないのに。
「あの……何か誤解されていませんか? シューマス様とは、この一週間全く会っていません。彼は、この家の中には居ません」
カリンさんは私を目に留めるとわざとらしく鼻をすんすんと動かした。
「信じられない。良く、そんなあからさまな嘘が言えるわね」
カリンさんは目をまんまるにして、口から私を非難する言葉をこぼした。
「嘘じゃありません。正直言うと、こんな深夜に迷惑ですし……早く帰って貰えますか?」
「シューマスは私のものよ。返しなさい」
彼女が噛みつくように吠えたので、カチンときた私は負けずに同じくらいの音量の声で言い返した。
「シュー様は、借りたり返したりするような存在ではありません! それにこんな深夜になんなんですか、失礼な。誰かの家を訪ねるのなら、もっと相応しい時間とやり方があるんじゃないですか!」
今までになく興奮して言い返した私に、やりとりを見守っていたお父さんとお母さんはびっくりした顔をして私の背中を撫でた。
多分、すぐに言うことを聞くだろうと思っていた私の、思ってもいなかった勢いに怯んだのか。
一度口をつぐみ、フンっと鼻息荒く、負け惜しみを言うかのように捨て台詞を吐くとカリンさんは去っていった。
「シューマスの運命の番は……私よ。それは、もう決まっている事実なんだから。今に……思い知ると良いわ」
そんな……そんな、こと。今だって十分に思い知ってるわ。
彼女が扉を閉めたのを見届けた私は階段を駆け上がると、部屋に入り泣きながらベッドの中へと潜り込んだ。
一緒に毛布の中にいる黒い犬は、ペロペロと涙を舐めてくれるけど、それではとても間に合わないくらい、子どもみたいにわんわんと泣いてしまった。