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冒険王に!アタシはなる!

姉のサツキからの「リンのしたいこと。まずはそこから考えてみたら」という一言。6月になってもリンはその答えを見つけられないまま、日々紋々と過ごしていた。「私のしたいこと。それって何?」

 それからあっというまに10日が立ち、いつの間にか6月になっていた。この前まで桜の季節だったのが、早くも梅雨入り直前である。高一の時間経過とはものは恐ろしく早いようだ。そしてこの10日間、ずっと考えている。私のやりたいことって一体何なのよ。登下校のときも、授業中も、スーパーのバイトに入ってもヒマがあればいつも考えてしまう。そして答えの糸口すら見えないまま今日も一日が終わろうとしていた。


 家に帰り、晩ゴハン食べ、自分の部屋に戻った。宿題もやる気が起きずベッドに寝転がり天井を眺める。今夜も頭の中では10日前にサツキ姉にいわれた言葉が繰り返していた。

 「リンのしたいこと。まずはそこから考えてみたら」


 寝転がった視線の先には天井の木目がグルグルと見えるだけだ。眺めていてもそこに「私のやりたいこと」が浮かび上がって来る訳はないのだけれど。どうすればいいのか解らない。どこから考えていいのかも解らない。

「私のしたいこと。それって何?」将来したいこと。仕事とか、行きたい大学とか。その前にまず高校でやりたいこと。もう全然、わかんない。わからな過ぎてどうしようもない。今日のところはギブアップだ。


 とりあえず気分を切り替えよう。そう思い本棚からラノベをとってみる。連休前に本屋で買ってそのまま放置してたヤツだ。アニメ化もきまってる人気の異世界ファンタジー。交通事故で死んだ高校生がいきなり、何の脈絡もなく異世界に放り込まれストーリー。主人公は異世界の冒険者として生まれかわり魔王軍と戦うのだ。お約束のお色気女神やドジっ子魔法使いのオマケもついている。

 まだ最後まで読んでいないけれど、適度な絶望と挫折を繰り返しつつ成長した主人公が最後に大魔王を倒してあちらの世界を救ってしまうのだろう。この素晴らしき予定調和の世界。ここ数年のラノベ界隈とアニメ業界はこのご都合主義的な異世界ファンタジーと魔法少女的なキャラクターにほぼ100%席巻されている。

 そして主人公の99%は高校生だ。こういう安易なラノベが出回ってるせいで、私を含めて世の中の高校生(およびオタク全般)たちも自分のリアル人生でご都合主義的な展開を想像してしまうのだ。とはいえ、そんなご都合主義の原因を作っているのも、ラノベの売り上げに貢献にせっせと励む私たち読者なのだけれど。それでいいのか高校生どもよ。


 だが現実世界では、ある日突然、異世界に送り込まれたり、転校生が魔法使いだったり、未来の自分が現在の自分を訪ねてきたりすることはない。姉にいわれずとも私の高校生活にそんな展開は起こらない。でももしかしたら、私、真野原リンの身には奇跡の一つくらいは起こるかもしれない。そうなってくれたらご都合主義も上等。


「知らない世界に連れ出され冒険者になる。そんな高校生に私はなりたい」

リンは天井を眺めながらそう独りつぶやいた。

 その瞬間、天井の木目から光がはじけ、気づいたら異世界の草原に寝転がっていた…なんてことはやはり起きなかった。鬱屈した梅雨の雨音を背景にベッドに寝そべりながらラノベを読んでいると、ついそんな妄想の一つも発動したくなるのだ。


 いやちょっと待て、私。いまなんって言った?


「知らない世界に連れ出され冒険者になる。そんな高校生に私はなりたい」

そう言ったよね。その瞬間、今度は本当に天井の木目から光がはじけたように見えた。


「もしかして、わたし見つけたかもしんない」

 それだよ、それだったんだよ、私のやりたいことは冒険で、なりたいものは冒険者だ。知らない世界に誰も連れ出してくれないんなら、自分で自分を連れ出せばいい。知らない世界はなにも異世界ファンタジーの中だけじゃない。この世界にも私の知らないことや、行ったことのない場所にあふれてる。だったらそこへ行けばいい。冒険者になって、知らない世界に足をふみだせばいいんじゃないの?


 「冒険王に、アタシはなる!」


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