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 第一章 こうして冒険者は誕生した

プロローグはあっさり終えて、いよいよ本編突入です。

 真野原リン、彼女は県立倉吉南高校の一年生で16歳。


 少しだけタレていることで本人の本性とは無関係に初対面の相手に「一見優しそうな印象」を与える黒目がちな瞳、CGを使わなくてもシャンプーのCMに使えそうなまっすぐに伸びたツヤのある髪、リップやグロスなどとは縁のないハズなのにほどよい薄紅色の光を反射する唇。


 その唇は笑うと意図ぜずして醜くないアヒルの子のように愛嬌のあるカーブを描く。つまり可愛い。彼女が可愛いかどうかはこれからのストーリー展開にほとんど影響しないので、彼女の外見にどれほどの説明がいるか否かは議論のあるところかもしれないが。せっかくだがらこの場を借りて紹介しておいた。


 通常、世の中の美人は二通りに分かれる。飾りが似合う美人か、飾らない方が似合う美人か。お菓子に例えるなら前者は「キルフェボンのフルーツタルト」で、後者は「まんばやの桜餅」だ。ちなみに戦車に例えるなら前者は米国製M4シャーマンで後者が日本製の九五式軽戦車といったところだろうか。


 例えをもってきたことで余計にわからなくなった感もあるが。つまりリンは一見地味で目立たない風にみえて、その実クラスの男子からは

 「他の奴らは気づいていないが、オレだけはアイツの可愛さに気づいている。」

と思わせるタイプだった。ちなみに眼鏡はかけていない。


 そしてリンは目下、県立倉吉南高校冒険部(生徒会申請中)の初代部長(予定)でもある。思うところあって、この倉吉南高校に冒険部というあまり聞き覚えのない団体を設立しようとしていた。そもそも、なぜリンは冒険部を作ろうなどと思い立ったのか。理由はシンプルだ。


 リン曰く「おもってたより高校がつまらなかったんだもん。」


 こんなはずじゃなかった。高校に入れば、もっと自分のやりたい事ができるはずだった。

彼氏の一人や二人もできると思ってた。なぜなら私はモテるから。目立たない系譜の顔立ちではあるけれど、顔はかなり整っている。毎日、鏡をみて確認している私自身が言うのだから間違いない。客観的なデータもそれを証明していた。中学の卒業式から高校入学式までの春休み中に、二人の男子に告白された。二人のうち、一人はそこそこイケメンだったけれど、とりあえず交際はお断りした。そこそこのイケメンではなく、できれば校内イチのイケメンと付き合いたい。私は自分の将来性ポテンシャルに賭けてみた。春休みの二週間で二人の男子に告白されたのだから、毎週一人、一年間で50人以上、高校三年間で150人以上の男子に告白される計算だった。男子150人といえば、この高校の1年生の男子全員の数とほぼ同数である。


 「学年の男子全員に告白されてちゃうなんて、魔法少女ならぬ、魔性少女じゃんか」

 

 高校入学まではそう思っていた。しかし、現実はどうやら違っていた。俗にいう捕らぬ狸の皮算用というものを、私もやらかしていたらしい。四月二日に入学して以来、すでに一ヶ月以上が経過したというのに男子からの告白は皆無だった。


 「下駄場のラブレター」も「放課後、体育館裏の呼び出し」も挨拶がわりのライン交換すらない。一体、何か起きたのか。いや正確には何も起きていないのだが。男子からの告白がないという事実を除いても、高校生活は予想外につまらない状況だった。


 例えば中学ではできなかったヘアカラーを入れてみた。しかし私は髪の色を軽くしたら、心も軽くなるというような安易な精神構造を私は持ち合わせていなかったようだ。髪の色を変えるということは「髪の毛の色が変わる」ということ以上でも以下でもなかった。そして祖父母、親戚からもらった3万5千円の入学祝いのうち、貴重な八千円が消えた。


 新しくできた女子の友達と放課後のカラオケにも行ってみた。私はアニソンを歌いたかったのだが、彼女たちにとってのアニソンはエヴァと流行り映画の主題歌であるところのRADWINPS程度で、あのfripSideですら超マイナージャンルだった。別に高校にはいってやりたい事が「友達とカラオケでエゴイストを唄う」ことではなかったのだけれど。カラオケの過去履歴は私の虚しさに拍車をかけていた。

 このころになると、賢い私は気付きはじめていた。このつまらない状況の原因は私自身にあるということを。

 「高校にはいったら、中学の時にできなかった、やりたい事ができる」

と思っていたのだが、その前提が間違っていた。なぜなら私には「やりたい事がなかった」のだ。


 いや実際のところ髪の色を変えるのも、カラオケで歌いまくるのも、そのあとマックで夜までおしゃべりするのも楽しかった。でもそれだけのことだった。ゴールデンウイークが終わるころには、早くもこの楽しい高校生活既に飽きて来ていた。


 5月も終わりに近づいたその日。学校から帰宅した私は夕食の準備しながら一歳年上の姉にボヤいていた。彼女も同じ倉吉南高校に通う高校二年である。


 「高校へはいってはみたものの、最近人生が楽しくないのよねー」 

 「高校入るだけで人生が楽しくなるんだったら、誰も苦労しないわよ」

ダイエット中のサラダ用のトマトをつまみ食いしながら相手をする。

 「でもさ、高校生活ってもっとキラキラしてるっていうか、いやむしろギラギラしてるモンなんじゃないの?」

 「キラキラもギラギラもしてません。アンタ高校になに期待してるのよ」

 「私は高校生ならではの、いかにも青春ってカンジのやつが欲しい訳よ」

 「リンのいうことはいつも抽象度が高すぎて、まったく意味不明だよね。」


なぜアタシの姉はこうも理解力がないのだろうか。いかにも青春といえば、世界共通のいかにも青春ってカンジのヤツにきまっている。つまりリアルな青春。今の私は青春ラノベ業界の中心的な人物である比企谷八幡と同様「アタシは本物が欲しい。」と言った心境なのだ。


 「例えばさ、ありがちな発想なんだけど。人生ってたまにあり得ないような展開ってあると思うわけですよ。たとえばジブリや新海監督の映画みたいな、そういうのが私の人生にも欲しいの」

 「あのね、リンさん」

 「なんでしょう、サツキ姉さま」

 「あなたの通う高校には、空から突然落ちてくるお姫様も、天気を操れる謎の少女も。バイオリン職人を目指す金持ちイケメン男子もいないの。もちろん異世界の温泉街に続くトンネルもないわ。そして桜の花びらが落ちる速度は秒速5センチではなく200センチメートルよ」


 さすが来年、国立理系を目指す才女。説明もどこか理屈っぽい。

 「サツキ姉さまの話は夢がないわぁ。それにイケメン男子なら何人かいるでしょ。もしかしたら巨大隕石とかも落ちてくるかもしれないじゃんか」

 「巨大隕石が落ちてきたら、イケメン男子もアナタのいう青春もいきなり最終回よ」

そこは確かに姉の言う通りだ。たしかに隕石はいらない。

 「じゃあどうすればいいのよ」

 「とりあえずやりたい事をでもみつけてみれば。いまアンタがやってることは単にいままで出来なかったことの埋め合わせなんじゃない?」

 

図星だな。さすが血を分けた姉妹。もしかしてこやつ、去年私と同じ経験をしてるんじゃないのか?さらにサツキが続ける。


 「私にいわせれば、髪にカラー入れたのも、夜遅くまでカラオケ行ってるのも。リンが本当にやりたくてやってるようには見えないのよね。中学時代にできなかったこと、とりあえず惰性で試してるみたいな」


 図星すぎるぜ、我が姉よ。

 「リンは何かやりたいってとないの。部活とか恋愛とかさ」

 「うーん」

 「夢とかないわけ?」

 「いきなり夢とか言われても、普通ないっしょ」

 「私の話には夢がないって言っておきながら。夢がないのはリンの方じゃん」


 夢がないと言われて自分の中に返す言葉が見つからなかった。将来の夢なんで小六の時に書いた卒業文集以来、ご無沙汰のお題だ。中学の時は地元で唯一の進学校、倉吉南に入ることが目標だったけれど、夢というほどではなかったし。


 「ねえ、サツキ姉さま。私がしたいことってなんなんだろ」

 「そんなの知らないわよ」

 「だよね」

 「リンのしたいこと。私に尋ねるんじゃなくてまずは自分と向き合って考えてみたら」

いつもながら我が姉はシンプルで深いことをおっしゃる。私のしたいことって何だろう。


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