妹は天使で幼なじみは考察する
第3話です。
「で、どうだった? 演劇部は?」
帰りがけに京太郎が聞いてくる。部活のせいで遅くなって、アホのリア充どもと帰らなくて済んだのはある意味、運が良かったといえるだろう。
「どうって言われてもな。少なくとも、俺が普段付き合ってる奴らとは、いい意味でも悪い意味でも違ってたな」
「まあ、付き合いが浅いからねぇ。今さらだけど、見殺しにしたのは悪かったよ」
「気にするな、とは言い難いな。俺は危うく犯されるところだったからな。でも、お前はなぜ俺をあの部に誘ったんだ?」
これはあの部室に入る前から思っていたことだ。俺を誘うことで何かメリットがあるというのか。
「そうだねぇ。俺は少し見てみたかったんだよ。柊があの二人と同じ部活になって、どのくらい変化していくのかをね」
そんな人がそうそう変われる訳がないだろう。
「人を化学薬品みたいに言うなよ。俺の変化を見ていて楽しいか?」
俺が呆れて聞くと、彼は笑い返した。
「そりゃもちろんだよ。柊は思ったことはないかもしれないけど、人の変わっていく様は見ていて飽きないよ。まあ、これも非リアでボッチならではの趣味だね」
「ったく、変な趣味を持つんじゃねぇよ」
この京太郎という男、自ら非リアでボッチというのを自覚している分、他の人の(主に俺の)本質や気持ちというものを理解できているのではないだろうか。不思議な男である。
俺が分析を終えたところで、彼は声をかけた。
「それじゃあな、柊。また明日もちゃんと部活来いよ」
そう言うと、彼は街の雑踏に姿を消した。俺も珍しく一人で家へと帰る。普段ならば、他の女子がくっついてくるのである。そんな家まで送ってもらわなくても、不審者に襲われたりはしないといつも思う。
「ただいまー」
数分ほど歩いて帰りついた家に俺は間延びした返事とともに入る。
「おかえり、お兄ちゃん」
リビングから妹の由衣の声が聞こえた。両親が日を跨いでからしか帰ってこないため、夕飯を作ってくれているのだろう。
「おう、遅くなったな」
「ご飯、ちょうどできたから、さっさと食べよ」
食卓に手際よく皿を並べてくれる。本当に出来た妹だ。
ちなみに、俺の妹はラノベでよくあるようなツンデレでもブラコンでもヤンデレでもなく、普通に俺に優しくしてくれる妹である。その上、家事までしっかりこなしてくれるのだから、非の打ち所のない妹だ。ちょっと、そこ、シスコンとか言わない。
「お疲れ、お兄ちゃん。今日も大変だったでしょう」
その上、アホの塊とも言える女子に囲まれる俺に気を使ってくれるのだから、ありがたい。
「まあ、今日は普段とは違う意味で疲れたな」
「どういうこと?」
「部活に入ることになってな」
俺は演劇部について話した。キャラの濃い二人について話すと、由衣は爆笑していた。
「へぇー、お兄ちゃん、良かったじゃん。これでまともな女子と付き合えるね」
「いや、どこがまともなんだよ。十六年の人生で初対面の人に犯されかかったのは初めてだわ。あ、でも、比奈は少し可愛かったな」
「お兄ちゃん、その経験は今後二度とないと思うよ。でも、ストーカーはちょっとヤバいけど、ルックスだけでお兄ちゃんを選んでいない女子なんて初めてなんじゃない?」
「まあ、そこは評価できるな。という訳で、しばらく部活に通うことにするわ」
由衣は頷いて答えた。
「それはいいけど、お兄ちゃんのグループはどうするの?」
目を背けていたが、その問題が残っていた。正直、新しく出来た居場所がアホに壊されるのは嫌だからな。対策を考えておくべきだろう。
「まあ、理由をつけてしばらく休むさ。適当なこと言っておけば、どうにかなるだろ。あいつらアホだし」
「……お兄ちゃん、いつか男女関係なく刺されるよ。そんなこと言ってると」
確かにごもっとも。男が言っていいセリフじゃないしな。
「まあ、いいや。ごちそうさま。今日も旨かったぞ」
由衣はにっこり笑って答える。
「なら、良かったわ。それじゃ、お風呂入る? 入るなら、洗ってくるけど」
「いや、いいよ。今日は俺が洗っておくよ。それより、ありがとうな。お疲れ様」
ここまで尽くしてくれる妹も珍しいだろう。それに性的な目で俺を見てこない数少ない人なんだから、本当に頭が上がらない。
本当にありがとうな。俺は心の中で再び呟いた。本当に俺にとっては神とも言うべき、妹だ。
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