序
拙作、『裏野ドリームランド』で生き残った彼らが出てきます←
「――なぁ、肝試ししねぇか?」
そんな言葉に、その場に居た全員が発言者を見る。
発言者は、バイクに背中をもたせかけて煙草を吹かしている丸刃曽世次だ。集まるときは大体、彼が声かけをして集まる。今回こうして深夜に集まったのも、彼がツーリングをしよう、と声をかけたからだ。そうして集まったのはいつものツーリングメンバーの七人だった。
「……肝試し?」
首を傾げながら呟くように鸚鵡返しをしたのは百舌鳥雲出だ。頭は金髪で短髪と派手だが、口数少なく性格は大人しく、先程までスマホでゲームをしていた。
「えー? でも、どこで?」
中途半端な乗り気を見せたのは追至いこめ。茶色に染めた髪を無造作に後ろでまとめている。
「この辺にそんなスポットあったっけ?」
クールにこの辺りの地図地理を確認したのは無水先舞で、脳内でそれらしき場所を検索し始めたのか、少しだけ眉間にしわを寄せた。
「あるんだな、これが。お前らも知ってる場所だ」
にやり、として言う曽世次。
「俺らも知ってる場所って……いや、マジでどこだよ」
焦らされて苛立ったのか、手羽元が少し突っかかるようにして場所の明言を迫る。
「ついてこればわかるって」
軽くあしらうようにそう言って、曽世次は煙草を足元に落とすとそれを踏みにじって火を消し、その空いた手でヘルメットを掴み取った。
今から行こう、という意思表示らしい。
「わ……私はパス! 怖いところイヤだし!」
首を振って髪を乱しながら嫌がったのは冷七夕夏だ。その抵抗の様子から、相当に嫌らしい。
「え、なんでだよ、行こうぜ」
夕夏の肩に空いている方の腕をまわし、誘いかける曽世次。
「や、ホント、私、怖いの嫌いだから」
「そういうなよ、みんな行くっつってるのに。なぁ?」
尚も夕夏を誘おうと言いくるめる曽世次は、語尾を皆に向ける。
しかし。
「――止めといた方がいいッスよ」
先程から黙ってこの場を見ていた斬物きりが、行く行かないの応答をするのではなく、話の成り行きそれ自体を止めた。
「んだよ、しらけるなぁ。なに? お前、怖いの?」
挑発するように曽世次はきりに向かって言う。
「怖いからとか言う話じゃ無いッス」
「そうやって話を逸らすってことはマジで怖いんだろ? 見かけによらずビビリなんだな、お前」
曽世次のけしかけるような態度に、きりは一つ呼吸を置いて、
「……ビビリでもなんでもいいッスよ。アタシは行かないんで」
そう言って徐に踵を返すと、きりは自分のバイクが置いてある場所まで行き、左ハンドルに掛けてあったグローブを装着し始める。
「え……ちょっと、きり?」
バイクに跨がる様子を見て、いこめが声を掛ける。
そんないこめをチラリと見てから、
「ツーリングしないなら自分は帰るッス」
と言い置いて、右ハンドルに掛けてあったフルフェイスのヘルメットを手に取り、そのベルトを直しながら、今度は夕夏を見る。
「夕夏さんは――」
「帰るならさっさと帰れよ」
夕夏を気遣って言ったきりの言葉を遮って、曽世次が言う。夕夏は夕夏で曽世次には拒否の意志を強く言えないようだ。
「…………」
呆れたような目できりは曽世次を一瞥すると、黙ったままヘルメットを装着し、別れの挨拶もせずにバイクを走らせてその場から去ってしまった。
「ったくガキが。年下のくせに大人に意見してんじゃねーよ」
吐き捨てるように曽世次が言う。
「年下って言っても一つか二つくらいだけどね」
茶化すように言ったのはいこめだ。
「うるせぇ。俺らの方が年上なのは間違いねぇだろうが」
「んまぁ、確かに」
両肩をすくめて舞は応じる。
「じゃ、行こうぜ。俺が先導するから付いて来いよ」
手に持っていたヘルメットを隣に立つ夕夏に渡す。曽世次はもう一つのヘルメットを手に取って自分も装着した。
二人乗りで一台、あとは各々一台ずつで――計五台のバイクが連なって走り出した。
自分たちが何を経験するのかなど――彼らは知らない。
(……“あの人”に連絡しといた方がいいッスかね――)
バイクを走らせながら、きりは心中で独り言を落とす。
見限るように見切りをつけるように彼らと別れてしまったけれど、彼らがどうなるのかは心配でもあった。
一度、本物を体験しているだけに、それは気掛かりで――特に、嫌がっていた夕夏の事は大いに気になっている所為か――後ろ髪を引かれている気持ちだった。
そんなきりが思い浮かべている人物はその時に知り合った人物の一人である。
(ハッキリ言って、気が進まないッスけど)
“あの人”の、あの飄々とした態度はどことなく気に入らない。
危険性を分かっていながらも、平然と手を出すところも気に入らない。
そんな人物に直接連絡など、出来ればしたくない。
連絡したところで、会話が成り立たないのも目に見えている。
けれど。
こういった案件を相談できそうな人は他に思い当たらない。
(どうしたもんッスかね――あ)
ふと、もう一人の人物が思い浮かぶ。
そうだ。
彼を、“あの人”と自分の間に挟んで緩衝材にしよう。
きりはバイクを路肩に止めると、スマホに登録してある彼の番号を表示させた。タップして、呼び出し音を耳元で聞く。暫くして、彼の声が応じた。
「あ、もしもし、『東門古濾紙』の先輩。ちょっと頼みがあるんスけど――」