出会い
君と初めて出会ったのは高校2年の夏だっけ?
あの時の俺はやりたい事も好きな事も面白い事も何も無くて、ただずっと毎日をダラダラ過ごしてるだけの日々...
ずっと、人生なんて退屈だって思ってた。
でも、君と出会えて沢山の思いを知って、自分の中で何かが変わってるのに気づけたよ。
確か、君と始めて会ったあの日、俺は担任の先生から言われて放課後に授業で使った資材の片付けをしてたんだ。
「はぁ...何で俺が?」
ため息混じりに俺は今日あった授業で使った資材を運んでいた。
これって絶対ラクだよな?って思って入った係だったけど、いざやってみると、全然ラクじゃない...
授業でなにか使う度に呼び出しだし、そのせいで休み時間も無くなるしで最悪だった。
「わー!!どいてどいて!!」
考え事をしていると突然、大声で叫びながら廊下をすごい勢いで女の人が走ってくる。
彼女は止まれないのか俺の方に一直線に向かってきているけど、俺も資材を抱えてるし急に言われてもすぐには反応できない...
そんなこんなで彼女はまるでダンプカーの様に俺の身体へ突っ込んできた。
その勢いで俺の身体が勢いよく後ろに飛んで抱えていた資材がガラガラと壮大な音と共に廊下に散乱する。
「いってぇ...」
「あぁ!!ごめんなさい!!!」
そう言って俺を覗き込んでくる彼女は意外と小柄だった。
顔は化粧とかはしてないけどキレイに整っていて、赤茶色の長い髪をポニーテールに束ねている。
彼女は必死に俺の身体を揺さぶったり「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」と声をはりあげてる。
「大丈夫、大丈夫...そっちは怪我とかない?」
「は、はい!私は大丈夫です!」
「そ、じゃあ俺行くから」
立ち上がろうとして左手を地面につけると肘の辺りに激痛が走る。
思わず手を地面から離すと彼女は目を大きく開いて俺の腕を掴んできた。
「もしかして痛みが!?」
「少しだけだから大丈夫...」
「ダメ!!今すぐ保健室行こ!!」
強引に俺の腕を引っ張ると彼女は俺を保健室まで連れいこうとする。
「いや、ホントに大丈夫だから、資材もあるし」
「ダメ!何かあったら危ないから!!それに資材の事は私から先生に言っておくよ!!」
「はぁ...分かった」
渋々返事をして立ち上がると彼女に連れられて保健室へ行く。
保健室には先生が居なくて俺の腕の治療は彼女がしてくれている。
「よし!これで大丈夫なはず!」
「はずって...ホントに大丈夫かよ」
彼女は俺の腕に豪快に湿布を貼るとその上から包帯をグルグルに巻きつけている。
「た、多分大丈夫だよ!もし何か変な感じがしたら病院で見てもらって?」
自信なさげにニコッと俺に向かって微笑む。
「それより...さっきすごい勢いで廊下を走ってたけど急いでたんじゃないの?」
俺の言葉に対して彼女は何かを考えると「あぁーー!!!」と耳を突き刺す様な叫び声を上げる
「そうだった!!バイトの時間に遅刻するから急いでたんだ!!」
「はぁ!?こんな事してる場合じゃないじゃん!」
「うぅ...どうしよう、今から走っても遅刻だよ」
さっきまでの元気な顔と違って彼女は今にも泣き出しそうに涙を堪えている。
「バイト先...どこだよ」
「えっ...駅前のコンビニだけど」
「あぁ、あそこか」
「何?どうしたの!?」
「俺、自転車だから送るよ、それならすぐ着くだろ?」
彼女はポカーンと口を開けてしばらくボーッとすると急に俺の右手を両手で掴む。
「いいの!?ありがとー!怪我をさせたの私なのに...キミっていい人だね!」
「あ、そうか?まぁいいや...早く行くぞ」
「ホントにありがと!!そうだ私は小牧 春!君は?」
「如月...秋人」
「秋人くん...よろしくね!!」
放課後の駐輪場は朝のゴチャゴチャした駐輪場と全く違って俺の自転車がポツンッとひとつ停めてあるだけだった。
「これが秋人くんの自転車?」
春は珍しい物があるかの様に俺の自転車を食い入る様に見ている。
「自転車がそんなに珍しい?」
「うん!私、自転車、持ってないから何だか感動した!」
俺の方へ振り返る彼女の顔は何だか子供みたいに無邪気な顔をしていた。
「へぇ、そうなんだ」
素っ気なく言うと春はホッペタを膨らませて睨んでくる。
「もしかして、自転車も持ってないのかってバカにした?」
「そんな訳あるかよ...人それぞれ理由があるだろうし...つか、バイトに行かなくて良いのかよ?早くしないと間に合わないぞ」
「あー、ホントだ急ごう!!」
俺が自転車の鍵を外して動かすと春は静かに後ろの補助席へ座る。
「しっかり掴まっとけよ」
「うん!」
俺がペダルをこぎはじめると彼女は俺の腰に手を回してをギュッと掴んでくる。
「わぁ、速いね!これなら間に合いそう!」
「そういえば...バイト、何でやってんの?」
「私の家ね、母子家庭なんだけど下に弟と妹がいてお母さんだけじゃ大変だから私もバイトしてるんだ!!」
「へぇ〜偉いじゃん!」
「そんな事ないよ!家族が大変だったら助けるのは当たり前でしょ?」
「そうだな...」
俺とは大違いだ...
彼女の笑顔を見ながら俺は心の中で素直にそう思っていた。
自転車でしばらく学校のすぐ側にある住宅街を進んでいくと目の前にショッピングモールが見えた。この街の駅はこのショッピングモールの裏にあって駅前のコンビニもここの近くだ。
俺がショッピングモールの駐輪場に自転車を止めると春はピョンっと自転車から飛び降りた。
「ありがとー!ホントに助かった!」
「いいよ、俺の家この近くだし」
「えっ?そうなの?」
不思議そうに首を傾げる春に俺はコクっと頭を縦に振る。
「それじゃあ、バイト頑張れよ」
「うん!それじゃあね!」
手を振って駅の方へ走っていく春を見送るともう1度自転車に腰掛けた。