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嘘つきは、俺の始まり  作者: ミナル
1/1

嘘つき

短いです。

約10話ほどで完結予定です。

基本うじうじしています。きっとこの主人公は好かれないですね。

良ければ読んでいってください。


「ハルトー、今日も飯行こうぜ」


「あ?今日?昨日も行っただろ?俺金欠だし、悪いけどパス」


ああ、今日も僕は嘘をつく


「なんだよー、ノリ悪いなぁ」

そう一言こぼして離れていった人、僕は苦手だ。

馴れ馴れしい。怖い。


昔から俺は人当たりがよく友達が多い人間だと周りから評価される。だからこそこうやって毎日のように友人のヨシユキに食事に誘われる。ヨシユキとはこの今通っている大学に入学したときからの付き合いであり、かれこれ2年ほどの付き合いになるだろうか。2年も一緒にいるとその人となりがよくわかり、とにかく明るく向こう見ずな性格であると俺は判断した。そのため心を許し今日もまた大学へ赴き無駄な時間を浪費する。


「ハルトくん、こっち空いてるよ」


ふと講義室に入って着席する席をさがしていると声がかかる

すると三人ほどのグループが見えその中にはさっき話したヨシユキもいる。


「ありがとう、ユミ」

俺を呼んでくれた女性に対しお礼を言う。彼女は俺の文字道理の彼女であり付き合ってから1年ほどだ。当然俺たちは成人しているため青春ドラマのような甘酸っぱい恋ではなくやることは済ませている。


「遅いわね、何してたのよ」

席に着いた俺にそう問いかけるのはユミの友達でありヨシユキの彼女であるカナコである。つまり俺たち4人組はカップル同士というわけだ。問いかけに対しては適当に返し、ヨシユキたちが講義中にもかかわらずGWの連休にどこに行こうかなどを話し合っている。


俺たち4人は講義など受ける気もなく最後尾に近い席を陣取って教壇で話している教授の言葉を受け流していく。前に座っているグループも作らず髪などファッションすら今どきではないような、言ってしまえば地味目の男子どもを見て嫌気がさす。


僕みたいだ


あんな奴らみたいなのを好きになる人がいるのかと、講義そっちのけで思考に潜る。意味のない思考を続けるとふと記憶が蘇る。ああ嫌だ、周りの目を気にしない馬鹿どもには戻りたくない。


「好き」

目の前で突然ユミが言い出した。ユミは悪戯が成功したような顔で僕を笑っている。

きもち悪い。嫌いだ。


「なんだよ、いきなり。びっくりしたじゃないか」

突然ユミが言った言葉に反応が遅れ、ユミの顔を見て俺の顔が赤くなるのを感じる。


「えへへ、びっくりした?ハルトくんは?」


「好きだよ、もちろん。昨日も言ったじゃないか。俺はユミのことしか見えてないって。」


ああ、また僕は嘘をつく




今日の講義も終わり、自宅へ着く。母親には一目もくれず自室へと戻る。

俺はこの部屋が嫌いだ。昔を思い出す。あの子を思い出す。

だからこそ実家から離れた大学を志望したかったが、直前でやめた。あの子を忘れるのが怖いから。


俺は僕が僕のことが嫌になったから生まれた。モテたいから。人気者になりたいから。みじめはいやだから。あの子に嫌われたいから。


「あの子、か。」

いつから名前で呼ばなくなったのか。きっと呼んでしまえばあの子の思い出が蘇るから。蘇ることはきっといいことなのだろう。今からでもあの子にあって謝って許してもらって―


「バカかよ。」

蘇ったら俺は?俺が生まれた意味がなくなる。俺が僕のように毎日嘘をつき続けるのか。

何度目になるかわからない思考を捨てるように首を振る。


あの子は俺が消したい過去で消えない罪。そして僕が好きだった子。


ああ、羨ましい。


あの子の過去を消す方法も消えない罪から逃げる方法も分かっている。

ただ臆病なだけだ。逃げたとしても、忘れられはしない。許してもらえない。

だからこそ嘘をつく。そうやって隠して隠れて。だから人を好きになれない。信用できない。

当たり前だ。僕自身が人を騙している。騙してくる人間を好きになるようなバカはいない。

やめられない。嘘をつくことがやめられない。もし嘘をやめて僕が出ていったら彼女であるユミだって、ヨシユキもカナコ僕を好きにはならない。離れていく。俺が築き上げた関係をすべて台無しにする。

だから嘘をつく。やめるには今からでは遅いのだ。


叶うのならば――最初に――


嘘をつく前に―――――――




呼ぶ声が聞こえる。僕の名前を。

「ハルト、ご飯できたわよ」

いつの間にか寝ていたらしい。カーテンの閉めていない窓から見える外は、暗く黒に染まっていた。自室のドアを少し開け、声をかけてきた母親を見て今行くとやさしく返答する前に声が止まる。


「ああ、わかった。」

冷たい声だ。母親の顔は暗い。そりゃそうだ。あの時からまともに会話なんてしていない。勝手に嫌ったふりをして、あの子の時のように嫌われたいだけ。本当は――




「あの日から――」

食事中に母親が突然口を開いた。

「ちょうど12年ほど経つのね。まだハルトは―――」


「うるさい!!」

「まだってなんだよ!あの子の話は俺には何一つ関係ない!俺は何もしていない!何もしてやれなかった!」


「は、ハルト。ご、ごめ――」


「もういい!」

持っていた箸をテーブルにたたきつけるようにし、座っていた椅子を蹴り飛ばすように立ち上り部屋を出る。その時母親が悲しそうな顔をしていた。あの時と同じように。



あの時あの子の味方をするべきだった。自分の保身だけを考えるだけじゃなく。いつもは人にやさしくできていたのに。大切なものと自分を比べたとき自分を選んでしまった。


もう一度――

もう一度――


そう何度も願った


もう疲れた。忘れられない、許されないのならばやはり逃げるしか道がない。

もうこれ以上は無理だ。


そっと両手を自身の首に持っていき憎しみを込めて、殺すように――

視界がどんどん周りが白んでいく。本能的に腕に入れている力が抜けてくる。それでも、それでも首を絞める。



――ああ、このまま死んで――


そして視界がすべて白く染まり、意識がだんだんと無くなっていく。









「木山!木山!!!」


「!!」


「木山!聞いているのか!この問題解いてみろ!」


「え?あ?え?」


「なんだ?寝ぼけているのか?しばらくそこで立ってなさい!!」


その言葉と同時に周りから甲高い声でギャハハハというように笑いが満ちる。

意味が分からない。どうして――


「何してるのよ、春くん。昨日ちゃんと寝たの?」


「どうして、きみが――」


僕が好きだった、嫌われたかった、忘れたかった、許してほしかった―

涙が零れる。


「え?ちょ、ちょっと大丈夫?ハルくん!?」

慌てている彼女が目の前にいる。

そう、目の前にいる。

ああ、――


「会いたかった、リン」


そして、地面が近くなる。その後頭に衝撃を受けたなとどこか他人ごとに思いながら、二度目の経験となる白い世界へと意識が向かう。

向かう前に聞こえたのはリンが慌てて駆け寄ってくる足音と周りが騒ぐ声。先生が僕を呼ぶ声だった。


黒板に書かれていた日付は4月20日。

僕が初めて嘘をつく日。


あの子を見捨てる日。


良ければ感想などよろしくお願いします。

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