始まりは静かに
理人が蓮華に引き取られ早5年。理人は蓮華からの指導のもと、修行勉学の過程を一通り終えていた。
「蓮華、その大量の荷物何?」
「お前の荷物だ。」
「は?」
「お前は一通り修行を終えた。もうそろそろたびに出してもいいと思ってね。まあ、下準備とでも思っていてくれ。今週中には行けると思う。」
理人はその言葉を聞いて、その荷物の量を見てこう思った。
(この人俺を殺す気だ……!!)
二日後。理人は唐突に蓮華から荷物を渡された。
(あの大量の荷物じゃない……。)
その量を見て理人は1人、安堵に浸かっていた。
「理人。」
そんな理人の気も知らず、蓮華が話しかけた。
「理人、私からの最後の教えだ。いや、忠告と思っていい。」
今までにないほど真剣な眼差しでいう蓮華を、理人も静かに見つめていた。
「旅をして、世の中を見て、何を思ってもそれは、現実だ。それが真実だ。真実はそれを見た人の数だけあるという。自分の意見に固執し、他人を受け入れなければ、お前はそこで終わる。来るものを拒むな。だが、警戒も怠るな。……最後に、下を向くなよ。理人。」
理人は、少し拍子抜けしたような顔をした。
正直、なんのことを言っているかさっぱりなのだろう。
だが、強く意思を宿した蓮華の瞳に、この言葉を心に止めるよう誓ったのだ。
「行ってきます。」
理人は静かにそう言った。いよいよ、本当の旅が始まる。