表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の紡ぐ唄  作者: 鈴村 尊
3/6

旅立ち

ーーー


「『禁忌の子』?」


「そうだ。」


その単語が出た時、少し美月は耳を疑った。『禁忌の子』それは、この世界に伝わる言い伝え。

知らない人はいないだろうという言い伝え。だが、その言い伝えの内容は、禁忌の子についての容姿には触れていないのだ。あくまで伝わっているのは、その子がたどった道筋と、禁忌と呼ばれる由縁。


「禁忌の子に特徴が?」


「そうだ。最近、少々古い荒廃した小さな町が見つかってね。そこに一つだけあった書物の中に、禁忌の子についての大まかな外見などが記されていた。その町の名前は『ガルド』」


ガタッ……


『ガルド』という町の名前を蓮華が出した途端、何かを落としたような物音が響いた。


「理人?」


美月の呼びかけにやっと目を覚ました理人は、慌てて落としてしまったコップを拾う。


「ご、ごめん。手が滑っちゃって。もう直ぐできるから、待っててね。」


「すまないな。」


「客人をもてなすのは礼儀ですよ。」


気のせいか、理人のその声は少し震えていた。


「……」


蓮華はそれを黙って見つめた。理人が台所に行くまで。


(なるほどな。)


蓮華の考えることは、本人にしかわからない。




「ご馳走様。片ずけは私がやるわ。理人は休んでいなさい。」


「うん。ありがとう。」


美月は理人に微笑み、台所へ行った。

そして、リビングには蓮華と理人の二人きり。ただ沈黙が流れて行った。

それを先に破ったのは、蓮華だった。


「……理人。君、いつからここにいるんだ?」


理人はそれに答えようとしない。


「いい加減、ここの空気に浸るのをやめろ。………………禁忌の子?」


「っ!!」


理人は、蓮華が『自分』を呼びかけた呼び名。それが出た途端、理人は息を一瞬止めた。


「やはりな。君は、ここらで噂されている子だな。…噂のことは?」


「……知らなかった。ただ、ここ最近人の行き来が激しい割りに、付近の村や町に被害がないのが不思議だったんだ。」


蓮華は、「なるほど。」と呟いて、指に顎を置く。それからまた少しの沈黙が続いた。

「二人とも、フルーツがあるけど、食べる?」


「あ、うん。」


「いただこう。」


沈黙の中、明るい声で入ってきた美月によって、その会話は一時中断されることになった。




その日の深夜二時。美月の寝室に蓮華の姿があった。


「美月殿、少し頼みがあるのだが。」


「……ふふ、ええ。いいわよ。」


美月がそう言いながら自分隣へ蓮華を誘導する。


「ありがとう。」


そう、少し悲しげに言ったのは、美月だった。




次の日、


「理人。」


「はい?」


朝から洗濯物の取り込みをしていた理人に、蓮華が話しかけていた。


「私と一緒に首都へ行くぞ。」


「は?」


理人は、その唐突すぎる言葉を理解しきれず、しばらく固まっていた。

それを待ちきれなかったのか、蓮華は理人の服の襟を掴み、ひきづり始めた。


「って、やめやめやめ!いきなりなんなんだよ?!」


「心配するな。美月殿には許可も荷物も貰っている。」


「そういう問題じゃなくて!」


蓮華は、慌てふためいている理人を気にも止めず歩き続けた。

ただ引きずられる理人の口からは、永遠と文句と悲鳴が漏れていた。


ーーー



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ