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月の紡ぐ唄  作者: 鈴村 尊
2/6

旅人

東の果てにある小さな町。

人口が少なく、子供もあまりいないそんな町に、一人の男の子の影があった。


「理人、もうそれいいから、休みなさい。」


「はーい!」


理人と呼ばれた少年は洗濯物から手を離し、小さな小屋の中へと入っていった。


「あ、ありがとう、美月さん。」


美月というお婆さんからお茶を受け取った理人は、目の前にある古びた椅子に座った。


ここは、東の果てにある町、葛籠(つづら)

人口の中でも子供が少なく、質素で貧しい生活を強いられている。

この他にも町は多くあるが、貴族によって買われた町、賊によって焼かれた町。

この世界の首都とそれ以外、この貧富の差が生む被害は、世界中に拡大しつつあった。

だが、この町は未だに賊の襲撃も、貴族の買収もないまま、至って平和に暮らせている。

それがなぜなのか、それを考える人は少ない。というよりも、それを考えられる知識を持っている人物がいないのだ。


「……理人、貴方を見つけてここに置いてから三年経つわ。ここにいる子供はとっくに首都へ出ていった。貴方はいいの?」


「毎日言ってるじゃないか。俺は、美月さんへの恩を返したいんだ。」


理人のその言葉に、美月は呆れ顔で笑った。

そう。理人は美月に拾われたのだ。

美月はこの村に迷い込んだボロボロな少年を不思議には思わなかった。貧しい町ではよく起こるのだ。

だとしても、理人の容姿には少し特徴があった。

この地方の人は、だいたい茶色か黒の目に焦げ茶色の髪。だが、理人は蒼い瞳に真っ黒い髪。

はるか東、いつかの時代に、目と髪が真っ黒な人種がいるとわかっている。

が、この国で理人のような髪と目を持つものはいないはずなのだ。

周囲の人間は、それを気味悪がって理人を受け入れようとしなかった。そんな中、ただ一人、美月だけが理人を迎え入れたのだ。


「そんなことより、もう直ぐ夕食だ。準備するから……」


理人が言葉は、出入り口のドアからのノックオンで遮られた。


「はい?」


理人がドアを開けると、そこにはひどく汚れた布を被った、女性が立っていた。


「夜遅くに失礼する。すまないが、ここいらの旅をしていたら食料が尽きてしまってな。一晩でいい。泊めて欲しいんだ。」


その言葉に少し驚き、美月とアイコンタクトをとった。

美月は優しく微笑みながら頷いた。


「……どうぞ。大したおもてなしはできませんが。」


理人がそういうと、小さく礼をして旅人は中へ入って行った。


「私は、蓮華というもの。最近ここを見て回っていた旅人だ。いきなり訪ねてすまないな。」


蓮華はそう言いながら被っていた布を取ると、その容姿があらわになった。

綺麗なブロンド気味の髪に、それに映える暗めの茶色の瞳。とても綺麗な顔立ちだった。


「それじゃ、夕飯の支度をしてくるね。」


「ええ、お願い。」


美月のその言葉を聞くと、理人は小走りで調理場に出て行った。


「えっと、蓮華さん。どうしてこんなところまで旅をしているんです?」


美月は、純粋な好奇心で蓮華に聞いた。


「……実は、この地域の町に、『禁忌の子』と酷似した子供がいる、と聞いたのだ。」

「『禁忌の子』?」


ーーー

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