a geme played in real earnest
――相手はどうでる?
表情からは、何も読み取ることが出来ない。
対戦相手の鈴木だって馬鹿ではない。いまさら表情によって手の内を晒すような愚かな真似はしないだろう。
思うように決着が着かず、鈴木との戦いも次で10戦目。
――まさか、ここまでもつれ込むとはな。
一筋の汗が頬を伝い、床へと落ちる。
緊張感、精神力共にお互いに限界は近い。
次こそは決着をつけたい。それは鈴木だって同じはずだ。
ここまで互角の戦いを繰り広げてきた。例え負けたとしても悔いは無い。
これは運の要素も多分に含まれる勝負だ。元より結果は神のみぞ知るところ。ならば、俺が最も好む手を奴に繰り出してやろう。
覚悟を決めた俺は、鈴木に向けて拳を繰り出した――
「俺の勝ちだな」
鈴木が不敵に笑った瞬間、俺は自身の敗北を悟った。
鈴木が繰り出してきたのは掌。
グーではパーに勝てない。
俺の負けだ……
「こいつは頂いていくぜ」
「好きにしろ。勝者はお前だ」
勝者の鈴木は、景品であるフルーツヨーグルトをその手中へと納めた。
同級生の田宮が風邪で欠席したことで余った、給食のフルーツヨーグルト。
それを巡る俺と鈴木のじゃんけんによる激しい戦いは、10戦目にしてようやく終わりを迎えた。
本音を言えばもの凄く食べたかった。フルーツヨーグルトは俺の好物だからだ。
だけど、負けたというのに不思議と気分は清々しかった。
激戦を繰り広げた末の、達成感のようなものだろうか。
久しぶりに燃えた。こんな気持ちは久しぶりだ。そういう意味では、対戦相手の鈴木にはむしろ感謝している。
たかがじゃんけんとはいえ、真剣勝負はいいものだ。
そんな感慨を抱きつつ、俺は席に戻った。
END