2.ゴーレム~
ユウは自分の憎悪に従い動き出した。
自分の力はこの魔物は倒せない。そんなことはわかっている。だが、自分を止めることができなかった。
ユウはためらいなく能力を発動させた。
あんなに嫌い、使うことを拒んでいた能力を発動させたのだ。
「死霊召喚ネクロマンシー!!」
その瞬間、地面から何かが飛び出した。
全身が体毛で包まれており、鋭い牙をはやした動物。…オオカミだ。
「いけ!!! 噛み殺せ!!」
ユウの命令を聞いた瞬間、オオカミはゴーレム目掛け走り出し、そのまま鋭い牙をむき出しにしながらとびかかった。
ガキンッ…
っという音があたりに響く。
次の瞬間、ゴーレムは自分に噛みついていたオオカミを引きはがし、そのまま手で握りつぶした。
ビチャビチャっとオオカミの血がゴーレムの手から地面に滴り落ちる。
「…傷一つ付かねーか」
それもそのはずだ。ゴーレムの体は硬い石で覆われている。
いくらオオカミの牙とはいえ、そんなものをかみ砕けるわけもない。
そんなことはわかっていたことだが、今のユウにできる事といえばこのぐらいしかないのだ。
ユウは諦めることなく、倒されるたびに死霊召喚ネクロマンシーを使い新たな動物を甦らしてはゴーレムめがけ攻撃させた。
しかし、ゴーレムはそのことごとくを蹴散らしユウの元へと近づいてくる。
「ちっ……死ね…死ねーーーー!!!」
ユウは怒りに身を任せ攻撃を続けた。
だが、すぐにその攻撃も終わりを迎えた。
ゴーレムは拳を振り上げユウに殴り掛かった。
その見た目とは裏腹に素早い攻撃にユウは避け切ることができずに、
バゴーーーーーッン
という音と共にユウは吹き飛ばされた。
今までに味わったことのない痛み。
口からは大量に吐血し、今にも気を失いそう。
力を抜いたらそのまま楽になれるんではないかという気持ちがあふれ出す。
だがユウはそんな気持ちをすぐに振り払った。
大切なものを奪われた恨みを思い出し、よろけながらもその場に立ち上がったのだ。
「絶対…に……許さない」
そう言うユウの顔は憎悪に溢れていた。
だが、そんなことに魔物が構うはずもなく、再びユウめがけてゆっくりと近づいてくるゴーレム。
もう一発ゴーレムの攻撃を受けたら立ち上がれないだろう。
ユウはそう思うとよろめき悲鳴を上げる体をどうにか動かし、村の奥に向かった。
(この間になにか…なにかあいつを倒す方法を考えなきゃ…)
ユウはそう思うとあたりを見渡し、朦朧とする意識の中、必死に策を練ろうとした。
するとその時、ユウは村のある異変に気付く。
村の人たちが一人も見当たらないのだ。
確かにこの状況なら生きていると考えるのは難しいだろう。
だが、死体一つ見当たらない。すべての死体がこの炎で燃やされたり、家屋の下敷きになったとは考えにくい。
(ならなぜ……………まさか!?)
ユウはその瞬間理解した。
全員…食われたのか?
その答えにたどり着いたユウは怒りに身震いをさせ、その場にとまった。
背後からはゴーレムが近づいてきている。
だが、そんなことはもう気にならなかった。
湧き上がる怒りをユウは爆発させた。
そしてユウはある賭けに出た。
今まで人間を操れたことはない。
(だけど……今だけでいい。力を貸してくれ)
ユウは持てる力、集中力をすべて使い、能力を発動させた。
「うおぉぉおぉぉぉぉお……」
ユウの体からは無理な能力使用の反動でいたるところから血が流れだす。
だが、ユウは能力を止めようとはしなかった。
全身全霊の力をぶつけた。
すると、不意にゴーレムが何かに苦しみ、その場に倒れ、暴れだした。
「グギャーーーーーーーーーン」
初めて聞いたゴーレムの声は何とも苦しそうな叫び声だった。
その叫び声と同時にユウは近くに落ちていた崩れた家の破片を手にしてゴーレムの顔の上に飛び乗った。
「やっぱり体ん中はそんなに固くねーのか。…喰らった人間にやられる気分はどうだ??」
この瞬間、ユウは初めて人間を蘇らせた。
ゴーレムの体内にいる村人を蘇らせ、体の中から攻撃させたのだ。
ユウはそう言い放つと手に持っていた木の破片をゴーレムの眼球めがけ突き立てた。
痛みに悶え、より一層暴れだすゴーレム。
だがユウは振り落とされまいと必死にしがみつき何回もゴーレムの眼球めがけ、木の破片を振り下ろす。
何度突き刺したろう。
次第にゴーレムは抵抗する力もなくし、その場で動かなくなった。
沈黙が流れた。
ユウの目からは涙がポロポロと落ちた。
「みんな…おじさん…」
そう言葉を漏らすとユウは力尽き、気を失った。
どれぐらいたったのだろう。
鳥たちはさえずり、きれいな太陽の光が辺りを照らしている。
ユウは痛む体を起こし、辺りを見渡した。
…やはり夢ではない。
その現実に気持ちが折れそうになった。
だが、ユウは気持ちを奮い立たせ、立ち上がった。
そして、ゴーレムの死体に目を向けた。
ユウはそのままゴーレムの死体に手を伸ばし、少し力を入れてみた。
すると何とも簡単に体の表面の岩は剥がれ落ちた。
どうやら、体の主が死んだことによってゴーレムの堅い体の効力がなくなったらしい。
ユウは次々と体の岩をはがしていった。
そして岩がなくなった所から、刃物で腹を切り裂いた。
中には何人かの村の人々が入っていた。
少し消化されたのだろう。なんともいたたまれない姿だった。
そしてその中に、おじさんの姿もあった。
ユウはその瞬間、歯を食いしばった。
もしかしたら…逃げ延びて生き残っているかも…
そんな淡い期待を抱いていたが、やはりそんなことはなかった。
ユウは拳を握り絞め、悔しさと悲しさに耐えた。
そして、ゴーレムに食べられた人たちを丁寧に取り出すと、一人一人丁寧に埋葬した。
そして最後、アジルさんの番。ユウは堪えきれずに涙を流しながらおじさんを埋めた。
「…ごめんね、おじさん。守ってあげられなくて。ほんとに…ごめん」
そう言いながらユウはおじさんを埋葬し終えた。
そして、ユウはおじさんの墓の前に一つだけ果物を置いてその場から歩き出した。
一つの強い気持ちを胸に抱いて。
…………俺は魔物も、卑劣な人間も許さない…………