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1.アルビアの町~



この世界には二種類の人間が存在する。

なんの力も持たないごく普通の人間。そして、不思議な異能力を持つ者〈アビリオン〉だ。

〈アビリオン〉は村や街などに現れる魔物と呼ばれる凶暴な生き物を倒し、その魔物が消滅する際に落とす魔鉱石をお金に換え生活する。そして、能力を持たない人間は〈アビリオン〉に守られた町や村で農業や商いなどをして生計を立てる。こうしてこの世界の人間たちはお互いを助け合いながら生活している。


しかし、まれに〈アビリオン〉の中にも魔物と戦わずに普通の生活を送るものがいる。

俺もその一人だ。





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俺の名前はユウ。今年で19歳になる。

俺は自分の力が嫌いだ。

俺の能力は死霊魔術師(ネクロマンサー)。死んだ者に一時の猶予を与え甦らせ、自分の命令を聞かせる。

死という絶対的な壁を超えることのできる能力。

こう聞けばすごい能力のように聞こえるが実際、今の俺が蘇らせることができるのはせいぜい小型の動物なら三体。中型の動物なら一体といったところだ。

こんな能力じゃ戦うことすら難しい。

それに何より…死んだものを蘇らせるといったこの悍ましい力事態を俺はあまり好きになれない。


だからこそ俺はこの力を隠しながら西の田舎村『アルビア』で一人で暮らしているのだ。

そして俺は今日も仕事に出かける。

小さな果物屋の手伝いに。


「おーう!! ユウ!! 来たか!!」


「おじさん! おはようございます!」


この人はこの果物屋の店主、アジルさん。

村に来たばかりのころ、仕事探しをしていたユウを見て逆にスカウトをしてくるという何とも不思議な人だ。


「ユウよぉ。ちょいと今日は頼みがあるんだがいいか?」


「…頼みですか?」


いきなりのことで少々驚くユウ。

しかし、間髪入れずにおじさんは話をつづけた。


「おう。ちーっと今日は果物の数が少なくてな。この分じゃ明日の分がなくなっちまう。だからよ、隣の街まで行って果物仕入れてきてくれねーか?」


「隣街…ですか…」


正直言うと行きたくなかった。

この村で静かに暮らしていたい。〈アビリオン〉だということを知られず静かに…。

もし街に行って何かの拍子に〈アビリオン〉だということがばれてしまえばこの平和な生活を送れなくなってしまう。

そんな思いがユウの中を駆け巡った。

だが日ごろから何かとよくしてくれるおじさんの頼みだ。

無下にすることもできず、結局ユウは街に行くことを了承した。


街までの道のりは馬車に乗って五時間程度。

決して近い道のりではない。

しかし、この長い道のりでも魔物に会う心配はない。

街の道中は〈アビリオン〉が巡回していて、近寄る魔物は根こそぎ倒している。

なのでこの道では魔物と会う心配はまずないのだ。


「…遠いなぁ。まあおじさんの頼みだし仕方ないか。アルビアから出るのは初めてだし…少しは楽しむか」


ユウはそういうとフゥっと息を吐きながら空を見つめ街までの道のりを楽しむことにした。


長い間馬車に揺られていた。

もう少しで日が落ちようというころ、ユウは街につき仕入れを済ませていた。


「このぐらいで大丈夫だろう。さてと、日も落ちそうだし早く帰ろう」


ユウはそういうと馬車に乗り込み街を出ようとした。

しかしそのとき、ユウの目に異様な光景が移った。

続々と街の出口に向かう人。その数はおよそ十五人ほど。恰好からして全員〈アビリオン〉だろう。


(しかしなんであんなにいっぱい…? 街では普通の光景なのか?)


ユウは少し不思議に思ったが他の街というものをあまり見たことがなかったため普通なことなのだろうと思い、気にせず馬車を走らせた。

来た道を引き返しユウはアルビアへと帰る。

少しづつ日も落ちてきて、アルビアまでもう少しといった時にはすでに辺りは暗闇に包まれていた。


「ずいぶん暗くなったな」


あたりを見渡しながらそう言う。

すると、遠くに見慣れない物が移り始めた。

ユラユラと揺れる大きく明るい何か。

その明かりのようなものを目にしたユウの胸はなぜか不安でいっぱいになった。


「あの方向…アルビアのほうだよな?………まさか!?!?!?」


ユウはこの嫌な予感が当たらないことを祈りつつ全速力で馬車を走らせた。

揺れる馬車。いくつかの果物が馬車から飛び出し道に落ちる。しかし、ユウは気にせず馬車をどんどん進ませた。

どんどんと大きくなる光。近づくにつれその光の正体が鮮明に映ってきた。

何かが燃えている。それも多くの何かが。そしてこの方向。もはや疑う余地はなかった。


村の前まで付くと町は炎に包まれていた。

燃え盛る炎。ユウは馬車を飛び降り村の中に入ろうとする。

すると、村から出てくる何人かの人影が。


「ちくしょう、早く…あいつらがやられている間に逃げるぞ!!」


ユウはその顔に見覚えがあった。

そう、街にいた〈アビリオン〉だ。

村から逃げ出してきた男たちは三人。

この状況から考えるに残りは何かにやられたのだろう。

……魔物?

ユウの頭の中をそんな考えがよぎったがユウはためらうことなく村の中に飛び込んだ。


村の中はいたるところが燃えており、ものすごい熱さだ。

ユウはそんな中、村を突き進んだ。


果物屋の前まで来たユウは言葉を失った。

無残に大破した家。そしてその家を燃え盛る炎が燃やしていく。


「お……じさん?おじさーーーん!!どこだよ!返事してくれよ!!」


持てる力を振り絞りユウは大きな声で叫ぶ。

するとその瞬間、ドカーーーーンっという音と共に少し先にある家がまるで何か強い力でも加わったように崩れた。


「!?!?!?!」


血の気が引いた。

そこには体長三メートルはあろうかという石でできたような体をした魔物が立っていた。


「ゴ、ゴーレム 何でこんなところに…」


そのとき、ユウはすべてを理解した。


ゴーレムは山の中に住む中級クラスの魔物。

通常、複数の〈アビリオン〉達で討伐するのが一般的だ。

そして、街にいた複数の〈アビリオン〉達。

きっと戦いずらい山の中からおびき出し倒すつもりだったのだろう。それが失敗し、生き残った数人がこの村を見つけ町の人を身代わりに…。


その真実に行き着いたユウは、その場に座り込み、頭を抱えながら叫んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


大切なものが奪われた。

ユウは悲しみに任せながら叫び続ける。

その声に気付いたゴーレムはゆっくりとこちらに近づいてくる。


とても大きな悲しみ。そして、すべてを奪った魔物。

その瞬間、ユウの中の何かが壊れ、ユウの中にはある感情が芽生えた。


それは、なんとも深い憎悪という感情だ。


村を身代わりにした人間が憎い。村の人たちを殺した魔物が憎い。


その深い憎悪に突き動かされユウは立ち上がり、ゴーレムを睨みつけながら一言言葉を漏らした。


「…殺してやる」









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