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作者: 斎藤魚

いま僕はやかんとキスをしている。

緊張で汗ばむ手にひんやりとした感触と少しの鉄のにおいがなんとも言えなくて眉間にしわが寄る。僕の口とやかんの口を合わせて中の汁をすすると懐かしい味がした。もう夏だっていうのに蝉の声もしなくなってしまって、ここ10年で時代は変わったものだなぁとしみじみ今になって思うよ本当。

人間に快適な環境を目指し過ぎて人間以外の生き物がいなくなった今、ここ地球ではアンドロイドとの共存生活が主になっている。アンドロイドっていっても値段はピンキリで、僕は当時今よりも貧乏だったから一番安かった「やかん」のアンドロイドを購入した。オーソドックスな金色の側面に黒い取っ手。僕のやかんは他のやかんと違って手も足もない一昔前のやかんだけど、ちゃんと言葉は話せるしお茶も自分で作ってくれる。やかんと生活していくうちに性別もわからないこの物体にだんだん惹かれていき、いまや恋人同士だ。

「......ん、また麦茶か」

やかんは決まって僕とキスする時は麦茶を中に入れている。

「キミのスキな味でしょ、麦茶。買ってくれた時そう言ってた」

「よく覚えてるな。そんな前から僕のこと好きだったの」

ちゃぷん、と中が揺れた。やかんに顔はないけど、たぶん照れているんだろうな。

「キミ、無自覚かい?あんまりいじわるしないでくれ」

「善処するよ」

もう一度キスをして、麦茶をすする。

ああ美味しい。やっぱり夏にはこれが一番だ。


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