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バナナの皮は滑りやすい

本作品は、ボーイズラブです。ボーイズラブの意味が分からない方は読まない事をお勧めします。

 魔王(♂)は森の中を逃げていた。


「はあはあはあ、何故、我がこのような目に……」


 いい加減走る事に疲れ、木に手をつけて息を整える。

 そもそもの原因は、全部勇者のせいなのだ。

 勇者(♂)を自分の物にしたいが、最近特に勇者は力を付けてきているのでそろそろ経験値を村人Aレベルまで下げようと考えたわけなのだが……。


 宝物庫に経験値をゼロにする呪いの首飾りがあった事を思い出し、宝物庫を漁っていた。

 そしてその首飾りを見つけたまでは良い。

 ついでに首輪とか無いかなぁと変な欲を出して散策しているうちに、なぜか宝物庫に転がっていた黄金のバナナの皮に引っかかり、滑って転んだ。


 気がつくと呪いの首飾りが手の中には無く、魔王の首にかかっていた。

 しかもこの呪いの首飾り、自分では外せないどころか外し方すら分からない。

 困り果てていると直属の部下、四天王(全員♂)の四人が来たので事情を話せば、


「という事は、今は魔王様は何の力も無いという事でよろしいですか?」

「うむ、そういう事になるな」


 すると、四人はこそこそと何かを話し、最後に全員で頷いた。

 そして、ぐるりと魔王の方を一斉に見る。

 その時の魔王を見るめがやけにぎらぎらしていて、魔王は嫌な予感がした。

 後で考えると、アレは劣情を宿した目だったのだ。

 四天王が、魔王の周りを取り囲む。一人が意を決したように口を開いた。


「実は我々四天王は、密かに魔王様をお慕い申し上げていたのです」

「以前から勇者しか眼中に無い魔王様でしたし、我々も気づかれないようにしていました」

「けれどこのような事態になった今、守って差し上げられるのも我々です」

「そして魔王様に力が無いので、魔王様を手に入れるチャンスも我々にも巡ってきたというわけです。性的な意味で」


 いきなりの部下の下克上宣言。しかし、魔王とてだてに長い間魔王はやってはいない。


「まあ待て、お前達は四人いるであろう。まさか四人でとはいくまい」


 これで仲間割れを誘発し、全力で逃げようと思ったわけだが。


「その点は大丈夫です。我々四人は平等に魔王様を分け合う事にしましたから」

「なんだと?。それはどういう意味だ?」

「四人で魔王様を“可愛がる”という意味でございます」


 魔王は四人を相手にと考えて、血相を変えた。


「む、無理だそんな……」

「いえ、大丈夫なよう我々も精一杯お手伝いさせて頂きます」

「それに、複数人を相手にすることにことに不安があるようでしたら、調教用の触手の魔物が地下におりますのでそちらをまず試されるのも良いかと」

「……待て、そんな魔物の話は我も知らないぞ?」

「先代魔王の遺産でございます」


 きっぱりと部下が言うのは良いとして、なぜその事を魔王である自分に報告しなかったのか。

 恐ろしい考えがふつふつと湧いてくるのを感じて、魔王は考えるのを止めた。

 それにこれまでの問答から考えて、四天王は聞く耳を全く持たない。


 ゆらりと四人が魔王に向かって手を伸ばす。

 このままでは自分の貞操が危ない、と魔王は結論に達し慌てて逃げ出した。その時マントは掴まれたので取り外し、必死で逃げた。

 城の中にいるのも危ない。

 仕方が無いので先祖代々伝わる隠し通路を使い、外に逃げ出し、魔族用の転送陣を幾つか使って逃げたはいいが……。


「これからどうすればよいのだ」


 着の身着のまま出てきてしまった。お供もいない。しかも、今は村人Aレベルの力しかない。正直言うと、Lv、0である。

 いつ、人間側から、下手をすると同胞から攻撃される可能性すらもある。

 そこまで考えて、やはり城の中に戻ろうか、いや、だが城に戻れば我の貞操が……と魔王は頭を抱える。


 命の危険を考えると戻るが正解だが、戻れば下手をすると触手責めだ。

 同じ内容をぐるぐると考えて、魔王はしまいに頭にきた。

 それもこれも全部、自分のものにならない勇者が悪い。


「勇者の馬鹿――!」


 近くの茂みが、かさかさと音を立てた。


「魔王?」


 そこには紛れもなく勇者本人が立っていたのだった。








 魔王は全力で逃げた。逃げなければならないという直感が働いたからだ。

 だが勇者はそれにも勝る俊敏さで魔王の襟首を捕まえた。


「離せ、離すのだ!」


 じたばたと暴れる魔王。

 まずいまずいまずい、何故だがそんな予感がして必死で抵抗して逃げようとするも、勇者の力は思いのほか強く逃げ出せない。

 その内に、勇者は魔王を抱き寄せて、魔王の耳元で囁いた。


「お前、魔王だろう?。なんでこんな所にいるんだ?」


 魔王は固まった。しかし、


「イエ、ワレハマオウデハアリマセン。ヒトチガイデス」

「ほう、こんな変わった服装をした一般人が他にもいるのか」

「ソウナンデス」

「嘘をつけ!。確かに魔王のような魔力は感じないが、俺が見間違えるはずがない!」


 勇者の最後の行で、一瞬ドキッとしてしまった魔王だが、自分をしっかりと持てと意識を奮い立たせる。


「本当に一般人だ。これはこすぷれ?なのだ」

「いや、お前は魔王だ」

「何故そこまで強情なのだ!」

「強情なのはお前の方だろう!。本当に嫌なら魔法でもなんでも使って逃げればいいだろう!」

「ぎくっ」

「……おい」

「……」

「……まさかお前」

「……」

「……魔法が使えない」

「あーあー、聞こえないー」

「……へえ」


 楽しそうに勇者が笑うのが聞こえた。魔王は背筋がゾワッとする。


「つまり、今のお前は全くの無力、というわけだな」

「ぐ、悪いか。呪いの首飾りのせいで、我は今、一般の村人とそう変わらぬ」

「何でそんな事になったんだ?」

「しれたことよ。勇者が最近力をつけてきたので、自分のものにするためにはそのレベルまで下げて、首輪をつけて飼ってやろうと思……は!」

「……ほう」

「い、いや別に我は、最近勇者が他の仲間と仲がよいとか、マリス村の女の子に告白されたとか全然気にしていないのであって」

「……ずいぶん詳しいんだな」

「それはもう我の力があれば千里眼などたやすい。て、敵の情報を集めるのは当然だからな」

「敵、か」

「そうそう、て……んんっ」


 そこまでしか魔王は言えなかった。

 勇者にキスをされてしまったから。それも、舌が口の中へと潜入する深いキスだった。

 その初めての感覚に魔王は逃げ出そうとするも、顎を固定され逃げることが出来ない。


「んんっ……くっう……んっ」


 ぴちゃぴちゃと唾液の絡まる音が聞こえて、魔王は恥ずかしくて堪らないのに。

 体は芯の方から熱を帯びて、目頭が熱くなる。

 頭がぼんやりとして、魔王はこの快楽に身を任せてしまう。

 とうとう体から力が抜けて、勇者に魔王が寄りかかる形となる。

 そこで、勇者は唇を離した。


「あ……」


 上気した顔で、魔王は勇者を見上げる。

 その時魔王は自分では気づいていなかったが物欲しそうな顔をしていた。

 だが、勇者はそれを静かに見下ろすと、魔王の体を地面へと押し倒した。


「痛っ……何をするのだ……えっと、もしもし勇者……」

 魔王の両手を抑え地面に組み伏せて、見下ろす勇者の顔はどこか不機嫌だった。

 自分がこれからどうなるのかは、鈍感な魔王といえど予想は付く。だが、信じられなかった。


「……何を……する……つもりだ」

 所々か細い声になってしまうのは、不安の表れ。

 けれど、勇者はそれに対してつまらなそうに答えた。


「言わなくても分かるだろう?。子供じゃないんだから」


 勇者は魔王の首筋にそっと唇を押し当てる。

 魔王の体がびくんと震える。

 その様子を見て、勇者は小さく笑い魔王の上着を脱がし始めた。

 それに魔王は必死に抵抗する。


「なんで暴れるんだ?」

「いや、勇者よ、そういう質問するお前がおかしい!」

「俺の事が嫌いなのか?」


 そう、じっと勇者は不安そうに見つめるものだから、魔王も言い出せなくなる。

 それにそもそも魔王は勇者の事が嫌いでない。むしろ好きである。あるのだが……。


「ならいいじゃないか」

「良くない、はーなーせー」

「そうか、魔王は初めてか」


 勇者はふっと笑って聞いてくる。それがなんだか余裕で、魔王は悔しい。そもそも、


「わ、我は勇者よりもずっとずっと年上だ! そのような経験など、星の数ほどあるわ」

「嘘だな。もっとも、もし本当なら……」

「本当なら?」


 勇者の瞳がすっと細くなる。


「逆らえなくなるまで犯して、俺好みの、俺だけを感じるように体を調教してやる所だった」

「……」

「……」

「……冗談、か?」


 それがあまりにも真剣に言われた為笑い飛ばす事ができず、さりとてこの不穏な空気に耐え切れず魔王は聞き返した。が、


「冗談に聞こえるか?」

「はい」


 目が怖いので、取りあえず魔王は頷いておく。


「なら襲ってもいいよな」

「それとこれとは別の話だ!」


 そんな、生娘のような魔王の反応に勇者は溜息をついて、はだけかけた魔王の胸に顔を埋めた。

「こんなに慣れていない体で、経験があるわけが無いだろう」

「……慣れていなくて悪かったな。お前のように経験豊富ではないのでな」


 こんな事をするのは初めてだった。なのに勇者は経験があるのだと思うと、魔王は悲しくなる。だが、


「俺だって初めてだが」


 さらっと、勇者が言った。

 お互いに沈黙する二人。

 木々の葉がさわさわと風で揺れている。いい天気だ。


「魔王……お前、そんなんで俺を飼うとか、どうするつもりだったんだ?」

「いや、傍に居てもらえればそれで」

「……つまり、俺は生殺しにされる所だったんだな」

「む、心外な。口づけ程度は……」

「……いいから黙れ」


 勇者は限りない脱力感を感じた。しかし、気を取り直して、


「だが、ここまでやったら襲うしかないよな!」

「どうしてそうなった!」

「魔王のことを愛しているから、だから、駄目か?」


 反則だと魔王は思った。

 そんな切なそうに、愛してるとか。

 それに、捨てられた子犬のような目で、そんな目でこっちを見……。

 葉の隙間から光る目が四対、魔王の視界の端に見えた。


「……勇者よ、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「お前の仲間は何処にいる?」

「……」

「……」

「……大丈夫だ。愛してるから!」

「このエロ勇者! 何処からどう見てもそこにいるではないか! 他人の前でそういう行為に及ぶ奴が何処にいる!」

「ここにいる!」

「いばるな―――――!」

「いや、機会は有効に使わないと」

「我はベッドの上でしかやらない!」 


 言ってしまって、慌てて魔王は口をつぐむ。盛大な墓穴を掘った気がした。

 勇者が非常に嬉しそうに笑っている。


――まずい、このままだと我の貞操が危ない。


 冷や汗をたらしながら、魔王がどうしようと考えていると、


「……ベットの上ならいいんだな?」

「いや、えっとそれは言葉の文で……というより、もしかしたなら聞き間違いという可能性もあるのではないかなと我は思うわけで」

「いや聞いた。お前達も聞いたな?」


 その言葉に反応して、勇者の仲間達が、


「「「「はい」」」」


 と藪から一斉に顔を出した。

 全員、タイプが違うが見目が良い。

 もっとも勇者の仲間となると、実力の方も折り紙つきなのだろう。


「よし、そうと決まれば次の村はどれくらいだ?」

「ここから二日ほどいった所にある、カレットの村が一番近いですね」


 その中で一番年長ともいえそうな男が言った。


「よしそこで……」

「ま、待て。我が付いて行くとは言ってはいない。それに我は魔王で、勇者は勇者を倒すものであろう」


 そこで全員が黙った。沈黙が魔王には痛かった。

 勇者が、魔王の肩をぽんと叩いた。


「魔王、お前は今の自分が無力だと自覚しているのか?」

「いや、それは、おそらくは」

「倒す倒さない以前に魔王、お前は何も出来ないだろう。弱すぎて。倒すといって、せいぜい俺が出来る事といえば押し倒す位だが、良いのか?」


 良くないので魔王は大きく顔を左右に振った。


「だいたい、腕力だって全然無いじゃないか。下手をすると、ペンより重いものなんて持った事がないんじゃないか?」

「失礼な、ペンは剣より強しと言うではないか!」

「ペンで俺に勝てるのか?」

「……やり方による?」

「やっぱりこのまま襲うか」

「ゴメンナサイ、ダカラワレヲオソウノハヤメテ」

「どの道、食事やら何やら、生きていく術はあるのか、魔王は」


 魔王は考えた。何不自由ない、城の生活。たまに戦う事があるとはいえ、本を読む、魔族の書類の処理、等々。

 どうしよう。


「しばらく俺に囲われろ。いいだろう?」

「囲うって、我は……」

「逃がすつもりは無いから、もういい。こんな問答をしていても意味が無い」


 勇者が魔王の上からどいていく。

 その隙に逃げられないか、算段するも、経った瞬間に足払いをかけられてバランスを崩したと思うと、勇者にお姫様抱っこされていた。

 勇者が意地悪く笑って囁いた。


「俺から逃げられると思うなよ?」


 こうして、魔王の受難は始まったのだった。

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