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嘘から出た実

作者: 出雲

「――隕石が落ちて、この周辺一帯に堕ちるらしい」




 それは、ほんの些細な嘘だった。ただ、その嘘をついた人物が拙かった。

 普段から誠実で、社交性も高く人望に篤い人で、生まれてから一度も嘘を吐いたことがないと、本人ではなく周りの親しい友人たちが断言するような生真面目な人間。


 そんな人間がぽつりと漏らした嘘。

 ちょうど、今日はエイプリルフール――つまり、一年でその日だけは嘘をついても許される。なら、今日くらいは自分だって嘘くらいついてもいいだろう。

 本人してみたらほんの冗談。今まで嘘を吐いた事がなかったので、かなり子供じみたものだったが、自分のような人間がこんな嘘を吐けば少しは面白いだろうという程度の気持ちだった。

 

 が、そう思うは当人ばかり。彼の口から漏れた言葉を聞いた周囲の人間は一瞬の内で青褪め、その嘘を真に受けたのか恐慌状態に陥る。泣き叫ぶものや気絶するもので阿鼻叫喚の光景が広がり、嘘を吐いた彼は絶句する。


 ――いくらなんでも、大げさじゃないか? そうか、彼らも僕を騙そうとしているのか。



 そう考えた彼は、さらに嘘を重ねる。さまざまなあり得ない嘘を吐く。途中から周り人間達のリアクションを見るのが楽しくなってきたのか、ますます嘘の規模がでかくなる。


 ――ん? 


 なにやら外が騒がしくなっていたことに気づいた彼は窓辺により、外の様子を見て目を見開き、頬が引き攣る。


 そうなるのも無理はない。彼が言った嘘の数々が現実として起きてしまっているからだ。

 そこで、彼は悟る。自分が言った言葉は現実に影響を齎す力を持っている。だからこそその事を知っていた彼らはあれだけ顔を青褪めていたのだと。

 確証のない、暴論にしか思えないのに、彼はそうとしか思えなかった。


 ――なら、このままじゃまずい。


 初めに吐いた嘘。

 アレが実現してしまったまずい所の話ではない。早急に対処しなくてはならない。


 ――では、どうすればいい?


 早くなんとかしなければ、大変な事になると焦るばかりで碌な考えが浮かばない。


 ――こんな、ことなら嘘なんかつかなきゃ……


 後悔してる場合ではないが、つい愚痴がこぼれる。周りの人達は縋るような目を向けてくるが、声をかけてくる人はなく、必死に一人で解決策を考え、解決策と言えるか自信はないが一つの策を思いつく。


 そんな事で、解決するのかは疑問だが、そもそも現在起きていることもほんの気紛れで出た嘘から始まったのだから、なんとかなるかもしれない。



 ごくりと唾を吞み、重い口を開く。



「――ごめんね、皆。今まで言った事は全部嘘でした」






 ――後日談。

 結果から言えば、成功だった。言った事が実現するならば、実現してしまったモノを嘘にしてしまうことすら実現させることは可能らしい。


 彼の一族で、希に生まれる異能――言霊使い。口にしたことを例外なく真実にしてしまうという、彼の考えたとおりの力だった。


 何故、その事を教えてくれなかったのか、そうすればこのような事は起きなかったのに、と家族に問えば、


『他者からその力を教えてもらった場合、その力は消失してしまうから、本人が自覚するまで待つしかなかった』


 というのが答えだった。

 だったら、こんな危険な力は失った方がいいとも思ったがそうもいかないらしく、これだけの強力な力が発現するということは、それだけの脅威が遠からず現れ、その解決にあたるのが彼の一族の昔からの使命らしい。


 傍迷惑な使命を授かってしまったと肩を落とし、ため息を零す。


「――そもそも、エイプリルフールなんて日、知らなけば回避できたかもしれないのに」


 家族もその日のことは敢えて教えていなかったらしい。確かに幼少の頃にそんな日を知っていればより悲惨な事になっていたかもしれない。


 たまたま、その事を話していた人の言葉がよけに耳に残り、つい嘘をついてしまったが、あれがなければ、こんな物騒の力を開化することもなく平穏な日常を謳歌できていたのではないかと思い、誰だかは知らないが自分にエイプリルフールを教えてしまった人物に恨み節を綴るのだった。


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