五人の生贄
大盗賊ゴドムが西方の亡国をめざしたのは、ひとつの財布がきっかけだった。
それは手下のひとりがハン・ハリーリの市よりかすめてきたもので、なかにはいくらかの金貨と、お守りの水牛の歯と、そして数枚の地図がはいっていた。
「こりゃあ、シャダムの財宝のありかじゃねえですか?」
そう聞いてゴドムが地図をひったくると、そこにはかつて栄華を極め、いまは人知れず砂に埋もれていると伝えられているシャダム国の名があった。
ゴドムは思わず低くうなった。
彼は国一番の盗賊団の頭だったが、近ごろは増えすぎた手下への分け前のため、自分の取り分は減っている。また老年にさしかかろうという今にきて、心休まらぬ家業にいいかげん嫌気もさしてもいた。
大きな仕事をきっかけに引退を考えていたゴドムの目が光った。
「よし手下を全員集めろ、準備ができしだい出立だ!」
夜明けには、およそ五十人もの隊列による砂漠の横断が始まっていた。
地図は道のりを正確に記していたので、七日かけてのシャダム国への到達は容易だった。
だが財宝の眠る宮殿には多くの困難が待ちうけていた
巨大な廃墟の秘密の地下道をすすむにつれ、さまざまなワナが賊たちの命をうばっていく。
ある者は崩れる石壁の下敷きとなり、ある者はおびただしいサソリらの巣穴に落ち、またある者は地下水に含まれていた毒を飲んでしまい、そしてわずかでも道をたがえれば双頭の大蛇に頭をひとのみにされてしまうのだ。
あらゆる残酷な歓迎に手下の数は減っていったが、しかし地図をもつゴドムだけはそれらの仕掛けを知っていた。身近な幹部数名と、愛人のパーシャをそばにおいて先へ行かせないようにし、難なく罠をかいくぐっていく。
やがて大きな鉄門前へたどりついた。
地図の指示どおりに複雑な石像のパズルをやり終えると、轟音がひびき、門がゆっくりとひとりでに開いていく。
歓声をあげて盗賊たちがなかへ入ると、そこにはうず高くつまれた黄金の山と、その番人である黒い巨人ラクササがいた。
「よくぞたどりついた。では最後の五つの約束をはたすがよい」
この言葉の意味を理解したのはゴドムだけである。彼は地図に記されていることを、ほかのだれにも教えなかったのだから。
「五人の生け贄をささげる」とゴドムは言った。
しかし残っているのはもう、ゴドムを含めての五人しかいなかった。
彼はパーシャの背をつきとばし、そして言った。
「三人の手下に、この女、そして女の腹にいる俺の子をあわせてぴたり五人だ」
その言葉にパーシャは眼を見開き、手下らはゴドムへ斬りかかっていったが、
「よかろう」
と、一言で彼らの身は巨人へと引き寄せられ、五つの魂は食われてしまった。
「これですべての財宝は俺ひとりのもの!」
そう言ってゴドムは高らかに笑い、黄金へと歩みよっていく。
しかしその体をうしろからするどい刃が貫いた。
ふりむくこともできず、ゴドムは呆気なく死んだ。
剣を持ち立っていたのはパーシャだった。彼女の腹には二つの命、つまり双子が宿っていたのだ。
パーシャはその場でひざをついた。腹に手をあてしばらくほうけていたが、やがて同じ剣で自分の首をかききった。
巨人が煙となって消えると、鉄門は大きな音を立て、部屋はふたたび暗闇に閉ざされていった。
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