爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その47
大陸北東部は現在魔王軍によって完全に制圧されていて、長大な防壁、砦まで建造されてしまって進攻不可能の状態だと言う。
あたし達が魔界へ入るには、霊峰ユリーミフのある山脈が切れる大陸西部の森林地帯を通らなくてはいけない。
この西部前線にいる人間の軍隊も二十年にわたる戦役によって疲弊しきっていて、魔界に攻め込むような戦力は無く、稀に押し寄せるモンスターの群れが人間界に入ってくるのを妨げるのが精一杯だそうだ。
しかし魔界側も大きく動く事は無い。ただ人間軍が死力を振り絞って攻め込んでも、十分な軍勢による猛烈な反撃にあってその度こっちだけが痛手を負ってしまう。魔王軍も疲弊して動けないって事ではないらしい。
あたしが魔王なら絶対侵攻するんだけどなぁ。
よく分からない世界情勢だけど、いつ魔王軍が人間界を侵食し始めるか分からない恐怖が世界を覆ってるのは間違いない。
魔王と言えば。
王様に謁見しに行った時に出てきたインフォメーションジェムによれば、魔王軍も脅威だけどそれ以上に魔王が強すぎて手に負えないって事だった。
もうあれだね、RPG元ネタにした少年マンガのラスボスみたいな感じ。確か初めから自分が動けば圧勝だけど、あえて軍を組織して戦争を起こして、その過程を将棋の駒を動かすように楽しんでるタチの悪い相手。
それなら軍隊同士をぶつけるんじゃなくて、大元の頭をやっつけるのが一番理に適ってる。
魔界までの道中であたし達が魔王討伐の遊撃隊だと知られると妨害が激しくなったり、西部の防衛戦力を厚く敷かれたりするかもしれない。
モンスターを一気に殲滅するチャンスでもあるけど、前線の兵隊さんへの被害が増大するのもまずいので、あくまで旅人を装っていかなくちゃならない。幸い王国王都に乗ってきた馬車を使えば、どう見ても個人で旅をしてる男女のペアにしか見えない。
多めに食糧や水を用意したけど魔界まではかなりの長旅になるので、物資の補給には人間軍の拠点拠点に立ち寄らなくてはいけない。そのための許可証明書を王国からいただいた。
王都を出て二ヶ月。やっと山脈の切れ間にたどり着いた。
ここに来るまでに軍拠点四つ、町を六つ経由した。
道中、現れたモンスターを退治してきたので現在レベルが上がって140。レベルキャップが近づいているのもあるし、馬車で移動中にエンカウントするモンスターだけではさすがに上がりにくくなっている。
それを補うかのように、町が近くなると毎回インフォメーションジェムが出て、その町が直面しているモンスター関連のトラブル解決ミッションがスタートした。大体ブーストモンスターによるトラブルだったので経験値がおいしく、レベルアップに役立った。
マインドだけ見ればカンスト値の19503に対して現在の数値は16998。ざっくり計算して最大値の90%弱。この状態でぶち抜けないほど魔法防御の高いモンスターはムゥト、ラオルグ、ヨメイ、アクースの四惑星に存在しなかった。もうこの時点でもほぼ最強だ。
だけどルファラのモンスターにはまだ未知数の物がいるだろうし、何より魔王の実力が全く知れない所があるから、万全を期してレベルはキャップにしておきたい。これからもインフォメーションジェムが出たミッションは積極的に受けて経験値稼ぎだ。
……マインド以外のステータスの上昇はスズメの涙程度だけどっ!
前線基地に到着したけどインフォメーションジェムは出なかった。でも魔界も近づいているし油断ならない。
門番をしてる騎士さんに許可証明書を見せるとすんなり入れてくれた。
この基地にいる騎士さんをはじめとした兵隊さんの顔色はあまりよくない。やっぱり心身ともに疲労が溜まりまくってるみたいだ。
中央からずっと離れているから物資だって十分じゃない。でもここが魔界の侵攻を食い止める最前線。みんな気力で踏みとどまり続けているんだろう。
厳しい状況を目にして気が引けてしまうけれど、司令官さんに事情を話してお願いすると色んな物資を分けてくれた。
物資の工面をしてくれている間、あたし達が待っているところにわらわらと兵隊さん達が集まってきてざわつき始めていた。
ざわつきに耳を傾けてみると、どうやら久しぶりに女の子(かわいい)が現れたので一目見ようと大挙して押し寄せたようだ。
だ、大分溜まってんな……。ちょっと引くわー……。
下心丸見えなオッサンもいるので、一応用心して常にヒースに傍にいてもらう。自分に防御魔法かけてガードする手もあるけど、反応は自動だから威力に加減がつけられなくて、今のマインドでは並みの人間だったら殺傷してしまう。
騒ぎを起こす意味はないので、ヒースに目を光らせておいてくれないか頼んだ。そしたらはじめからそのつもりだったって。
慰問に来たんじゃない事を説明しながらも愛想を振り撒いていると、さらに気を良くした兵隊さん達がこの辺りのことをいろいろと教えてくれた。
この基地は魔界へと続く広大な森林に西から東へ帯状に走る平地に作られている。
少し南に行ったところにも大きな森がある。メガス大森林と言うそうだ。
かつて魔王と反目して魔界から追放された、死を振り撒く化け物”呪霊王”が棲んでいたそうだ。今では呪霊王の脅威がなくなったので、この境界ギリギリのところで基地を構えられるようになったとのこと。
その呪霊王は”邪眼王”によって従えられた後は人間軍と手を組み魔王と戦ったと言う。
結局魔王に敗れたけれど、もしも魔王を倒していたとしても邪眼王と呪霊王の両者が生き残っていれば世界にはやっぱり暗雲立ち込めていたんじゃないかとの事だ。特に呪霊王は近くにいるだけで命を奪われるような化け物だったそうな。
おっそろしいモンスターが存在するんだな……。でもそれらを物ともしない魔王ってさらにとんでもない相手だ。
これから先に広がる魔界と言う未知の領域への言い知れない不安が胸の中に渦巻いてきたけど、ここまで来て四の五の言っても始まらない。
女は度胸! 男もだけど!
物資の補給を受けていよいよ魔界に進入だ。
デビ【魔界は中央に行くほど自然界に漂う魔素が濃い。魔力に抵抗性の低い人間ではすぐにあてられてしまって生活できないと言われ、ゆえに魔界と呼ばれている。逆に魔物魔族は活性化し、同じ種でも人間界に居たものより強靭になっている。気を付けるんだ】
忠告してくれた司令官さんにお礼を言って、山脈の切れ間に入っていった。
モンスターのはびこる魔界と聞いていたから、跳梁跋扈する原野のような未開地を想像していた。だけど実際のところはこれまでの道のり、つまり人間界と大差ない。獣道じゃなくてもっと幅広くてしっかりした、明かに人工的に作られた道まである。森林帯を出てもずっと続いている。
まあ、そうか。同じ大陸にあるんだし、人間界のモンスターだってアグリードワーフやバルバロファングみたいな知性のある種がいたんだから、本拠地の魔界に整地が得意なモンスターがいて道路を作ったって不思議じゃない。
ただしここは人間界に近い辺境地だし人間軍と衝突しやすい場所だ。警戒してなのかモンスターには全く遭遇しないし、生き物の影すら非常に少ない。
一応モンスターが仕掛けたトラップを用心してトラヴィジョンを使用してチェックし続けているけど、今のところ危険は無い。
魔界と言っても今のところ生えてる植物に人間界との大きな違いはなかった。
人間が暮らせないって言うくらいだから、お伽話や童話、昔話でイメージ付けられたおどろおどろしい退廃した光景を想像していたけど、今進んでいる所は全然そんな事はない。ふつーの平野だ。
ただ夜になると森の中に怪奇現象を認めた。
森がぼんやりと光っている。えーっ 何あれ!
おそるおそる近づいて観察してみると苔が光っているようだ。人間界では見なかった苔だなぁ。
トラヴィジョンで森の中を調査しても毒の発生などの危険は察知されなかったから、ただ光ってるだけのようだ。やっぱり魔界って変な植物があるもんだなぁ。
森に入ったり平野に出たりしながら三日間進んだあたりで気が付いた。太陽の見える方角が予定と違ってる。地図を開いて確認してみると、やっぱりこの道は地図にない方向に伸びている物だ。
いつの間に?! 昨日は全面曇ってたから気付けなかった。ヒースは平然と馬を進めてるけど……
まさか気付いてない? このままだと遭難だよ?!
シル【ね、ねえヒース、方角おかしくない?迷ってない?】
ヒー【・・・シルフィー、前僕が言ったこと覚えてる?】
え? 何? 魔界に入ってからの作戦? もっと魔王城に近付いてからじゃなかった?
心当たりがなくて首を捻っているあたしに、世の全てのおなごを虜にしそうな爽やかな笑顔を見せて、秘密の事だよ、と答えをくれた。
ヒー【この先に、あの時話せなかった僕の過去があるんだ。・・・僕は、魔界で生まれたんだ】
え? ヒース、一体何を?
人が住める土地じゃない魔界で生まれた……?
突然の告白にあたしのアタマの中は真っ白になってしまった。
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