爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その42
あっちこっちで狼男と騎士団との戦いが繰り広げられている。あたしは後方で支援して、ヒースはあたしの護衛。
狼男ことバルバロファングは一ヶ所に固まらず留まらず、ヒットアンドアウェー。さらに一頭を複数の騎士さんが囲んでもその背後から別のバルバロファングが襲いかかって陣形を崩す。むしろわざと囲まれて、騎士さんの他の個体への注意を逸らしてんじゃないか?
一頭一頭も強力だってのに、ものすごくやりにくい!
素早い動きを止めることのない相手に対してあたしの補助魔法もなかなか行き渡らず、効果的に敵ステータスをダウンさせられない。
さらにバルバロファングは力もかなりすごい。回し蹴りで木の幹がへし折れ、パンチでも騎士さん達が身に付けてる鎧が簡単にひしゃげる。
負傷する騎士さんが後を絶たない。優先すべきは攻撃低下の補助魔法”ナーダ”だけど、それよりキュアールが求められる状況。さらに早め早めにマイティアの重ねがけもするけれど、旗色がよくない。
騎士さん達は決して弱くない。全員、一緒に仕事をした事のある中級ハンター達よりも強いと思う。それに数も敵の倍以上なのに、相手は物ともしていない。
あっちは全然数を減らしてないのに、騎士さん達は回復が追い付かず次々に倒れていく。地の利のあるバルバロファングは上手くあたし達を包囲して逃げ場を奪い、確実に戦力を削っていった。
前評価通りランクSの化け物だ。
援護に徹していたあたしも攻撃に参加しないと自分が危なくなりつつある。
群れを作るモンスターは、束ねるリーダーを潰すのが定石!
狼のリーダー、アルファはどこだ?!
牽制とともに無事な騎士さん達を援護するため、出の早めな単体攻撃魔法を各種撃ちながら観察を続ける。
ヒースとあたしは背中合わせになって戦ってたけど、どうにも援護射撃するには位置取りが良くなくて、魔法を撃つためヒースから数歩離れた。その時出来た隙間に、騎士さんの壁を突破した一頭が割り込んできた。
丁度チャージしてファイアーボールを撃った直後だったので反撃が間に合わない。
しまった! ミラージュリングの効果で初弾は当たらなかったけど、即座に右手を伸ばして腕をつかんできた。
あたしの腕をぎゅっと握った獣の手からは、少しつかんだだけなのにあたしをそのまま引き千切ってしまうくらい訳ないパワーを持ってる事が伝わってきた。血の気が引く。
魔法を撃とうとしても、魔法を撃つために集中するよりも相手が腕を振り回す方がずっと速い。詰んだ。
バルバロファングの裂けた口がさらにニィっと歪められた瞬間、あたしの体が宙に浮いた。
このまま木の幹に叩きつけられるのかな。それとも地面の方だろうか。
もしかしてそのまま口の中に放り込まれてしまうのかもしれない。一気に色んな想像が駆け巡った。
どっちにしたってこんなパワーのモンスターからダメージを受ければ、あたしの場合は一撃死。死ぬ時はもっと色々混乱するもんだろうと思ってたのに、「あ、そう」くらいの何か妙にあっさりした感覚しかない。悟りの境地かな?
一瞬の出来事なんだろうけど、随分たくさん色んな事を考えたような気がする。
ふわぁっとした浮揚感を覚え、木の間の曇天を見上げていると、ぼすっと背中から落っこちた。
何かちょっと硬いけど、木とか土とかの感じじゃない。ん? と思って首を回してみると、すぐ左上にヒースの顔がある。え? 何が起きた?
ヒースが見てる方へ引き続き目を遣ると、右腕を無くしたバルバロファングがいる。あれ? さっきあたしの腕をつかんだヤツかな。
あれ? ヒース、右手であたしを抱えて、左手で剣を構えてる? ヒースって右利きだったよね?
”小僧、二刀流か・・・!”
シル【え? ええーーーっ?!】
ヒー【・・・得意ってわけじゃない。けど、いざと言う時のために訓練してきた】
あたしを強く抱き締め、襲ってきた狼男に睨みを利かせる。もう本当に凛々しいナイト!
何この子カッコイイ!
彼の腕の中でボーッとしてばかりもいられない。
抱かれたまま、すぐさま目の前の隻腕バルバロファングにナーダをかける。
コイツらで気を付けなくちゃいけないのは防御力よりそのパワー!
火の粉の姿を借りた熱気が狼男を包む。魔法を喰らうまいとして俊足で逃げて行ったけど、この魔法は単体モードならロックオンした時点で追尾するからかわせないもんね!
戦闘不能の騎士さん達が増えてきたし、もう手加減なんてしてられない! 後で回復するから許せ!
ナーダに引き続きまして火の全体魔法、フレアボム!
シル【ぅ、痛!!】
右肩に激痛が走って、狙った方に腕を伸ばせない。途端に集中も切れて魔法が出なかった。
引っ掴まれて放り投げられた時に痛めたみたいだ。あー、もう折角まとまってたから一網打尽のチャンスだったのに散らばっちゃった!
シル【ンにゃろー・・・っ キュアール使ってる場合じゃねえ!喰らえアイシクルシュート!】
ヒー【】
イラっとして言動が粗くなったあたしにヒースが若干ひいて言葉を失ってる。
指差した左手の指先から氷柱の弾丸がバババッと連射された。こうすると広範囲に飛ばさず一点集中できるんだよね! 利き手じゃなくても問題なし!
狼男に向かってマシンガンのように氷柱が向かう。
この距離でこの連射速度で追われたらなら避けられまい! 串刺しになるが良い!
ガガガッとあたしが指差した線上にある木々に氷柱が突き刺さっていく。細い木だったら貫通して折れるくらいの威力だ。周りに身を隠せる物なんかないぞ!
追い詰められたバルバロファングが地面を殴った。直後土が波立って壁になってアイシクルシュートを遮った。
くそ! 範囲はあたしより全然小さいけど、アースウェイブ(※1)使うわけ?! めんどくさいなぁ!
アルファ探しも超困難。初見のあたしじゃ見た目で区別ができない。せめて色違いだとか、角が生えてるとか分かりやすい特徴付けててよ!
あー、もう! これ以上時間もかけてられないし、もうとにかく一から十まで手当たり次第にぶっ倒す!
~魔法の捕捉説明~
※1:アースウェイブ・・・物理障壁も兼ねる土系魔法。出が速くて使用用途も多岐にわたる便利な魔法の一つ。シルフィーさんもクリスタルドラゴンのブレスを防御する時に使用した。
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