転生!物理最強勇者誕生! その9
魔界に入ってからの戦闘はこれまでの比にならないほど激しい物だった。
俺が魔戦将軍を破った事で勢いを増した人間の軍は魔王軍を魔界と人間界の境界線にまで押し戻すことに成功した。
しかし魔界に入ってからは戦局が膠着した。ランクB以下の雑魚の魔物が強力になったのだ。
おそらく魔王の力が、雑魚の力をブーストしているのだろう。
ランクA以上は体力が増し、倒すのに手間取るようになった。ひどいケースでは一度倒しても蘇る事もある。
魔王を倒す事が戦争を終わらせることに他ならない。
俺は最前線に来ていた実力の確かな者達と少数精鋭のパーティーを組み、一気に本拠地、すなわち魔王城にたどり着いた。
王家直属近衛騎士の同僚、回復法術師、攻撃特化の魔法使いだ。誰もが認める実力者揃いだった。
魔族の頂点の城と言うことでおどろおどろしい物を想像していたが、非常に文明的で明るく、整っていた。
下手をすると俺の勤めた王城を凌いでいるのではないか。
しかし城内での戦いは壮絶だった。守る魔族はすべてランクA以上、ほとんどがランクSと見られた。
魔法使い、法術師が命を落とし、最後に残った同僚も巨大な魔族の将軍と刺し違え、帰らぬ人となった。
俺が至らなかったばかりに……
必ず魔王を討ち取り、平和を導いてみせる……!
とても広大な場所に出た。天井も高く、柱の一本一本も太い。シャンデリアや彫刻も豪奢で洗練されていて、きらびやかなのに嫌味もなくどれも目を見張るばかりだ。
魔族にもこれほどの文明があったとは……
いや、人間界から強奪したり建築家や芸術家を拉致して造らせてきたのではないか。
ここまでで犠牲になった仲間の事を思うとふつふつと怒りもわいてくる。
「我の城で騒ぎを起こしているのはお前か」
高慢で聞く者すべてを押し潰すような威圧を秘めた声が響き渡った。
そして気配だけで分かる。この声の主はこれまでに出会った化け物とは別次元にいる強大な存在だ……!
荘厳に飾り立てられた内装の中でもとりわけ映える、真っ白な手摺りを備えた赤い絨毯を敷いた階段に一つの影があった。
小さい。いや、それは俺が思っていたよりも、と言う意味でだ。
そう、ここまでで戦った上級魔族の将よりもずっと小柄だった。遠目で見ればまるで人間だ。
しかし燃えるように赤く輝く髪、左右対称に大きく生えた角、青い肌。そのどれもが人間とはかけ離れた異質の存在だ。
麗しい美貌に惑わされそうになるが、額に第三の眼が開いている。
これが、魔王……! 人類の敵か!
俺はすかさず竜神剛斬剣フィグムンドに閃光魔法を乗せた。いついかなる瞬間でも最大の攻撃を反射的に叩き込む用意を整える。
「そうだ! 俺の名はヒューイ、この戦いを終わらせに来た!」
「ヒューイ……? そうか、お前が『光の勇者』か。お目にかかれて光栄だ」
纏ったマントから出した腕は細く、その先に付いた青い爪の伸びる指も、それが力ある者の物であるとはとても思えなかった。
その手を自分の左胸のあたりに当て、俺に向かって恭しく頭を下げる。
ここまでの気品を持った支配者を、俺は知らない。
だが肌に突き刺さるようなこの感覚……
間違いなくこれは史上最凶と言われる魔王だ。
俺の最後の戦いが、今始まる。