爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その35
道中何の危険もなく、無事に王国王都にたどり着いた。
ちょいちょいモンスターに襲われたけど、あたし達の相手にはなりません。レベルはまた一つ上がりましたが、やっぱり伸び悩んできている。もどかしいな。
王国に入ってから色んな手続きをして、早速泊まる所を探して、拠点を確保っ!
途中の町で食料、水など消耗品を購入したりしたので、到着時の所持金は25000メルドくらい。長期滞在になっても全然余裕がある。
さすが巨大な都市だけあって、商工会や農協、ハンターギルドがある。
人口がかなりあるので様々な依頼が各所に舞い込んでいるみたい。もしもお金が足りなくなりそうだったら仕事を斡旋してもらう事も難しくないね。
まずは鍛冶屋さんを訪ねよう。ヒースの剣を直さなくては。
途中の町にも鍛冶屋はあったけれど、そこではとても手に負えない損傷で、みんなが口をそろえて「王国でやってもらって」と言ってきた。ここがダメだったらこっちも打つ手がない。
鍛冶屋はこの城下町に何軒もあるらしい。
手始めに商工会の人が勧めてくれた、仕事が早いと評判の店舗へ行ってみた。店長さんはあたしのお父さんくらいの年齢のおじさんだ。
エド【うん?これだけ損傷した剣を直せ、って・・・?お客さん、冗談が過ぎるぜ。新しく打った方が早いな】
やっぱりこれまでと同じような対応だ。
それを分かって聞きに来てるんですよぉ。
見た感じ商品の数も種類も多いし、何人も従業員(お弟子さんかも)を抱えてるみたいだから、腕も良いんじゃないかと思うんだ。
あたしは食い下がって交渉する気まんまんだけど……。
ヒー【ですか・・・。やっぱり仕方ないですよね】
引き下がるの早ッ! ダメよヒース、男はもう少し粘って!
シル【いーや待って!おじさん、お願いっ!これ彼の相棒なんです!】
エド【って言ってもなぁ。さっすがにここまでの物を直しても、別物になるだけだからな】
ヒー【ですよね。わかりま】
シル【追加費用だったり素材だったらこちらで工面しますから!】
エド【・・・お嬢さん、いい加減にしてくれんか。やるだけ徒労だって言ってんだ。こっちだって忙しいんだ。出来ない相談なら帰った帰った】
シル【じゃー、やってくれそうな人を教えてください!】
エド【ったく、そんなに言うならホジキンって親父のとこに行きな。アイツに気に入られたらやってもらえるだろうよ。結構な変人だがな】
お礼を言ってお店を出る。
いきなり悪い噂が立つような真似をしちゃいけないから、引く所の見極めはしておかないと。
それに店長さんも真っ当な主張だったし。無茶をお願いしてるのはこっちなんだ。
でも納得ができないのは隣のカレシ!
シル【ヒース、どうしてすぐ諦めちゃうの!大事な剣なのに!】
ヒー【で、でも、さすがに僕でもこれは直せないってわかるから・・・】
シル【出来る人、請け負ってくれる人がいるかもしれないでしょ。一人にダメって言われても、別の角度から見たら違う解決法が出るかもしれないんだから。これ、クレーム解消の基本!】
あう、こんなところまで染みついてるとか……。
でもいいや! これでヒースのためになるって言うなら!
ヒースが上手くやれない事はあたしが代わりにしていかないと。
教えてもらった店舗にやって来た。
シル【・・・暗いね】
ヒー【暗いね】
店先には売り物である金属製品は一点も置かれてない。商売しようって気があんまり伝わってこないな……。
窓はあるけど店内に明かりを入れる役割を十分に果たしてない。
正直言って、怪しい……。意を決して声をかけてみた。
さっきの店長さん、ここの主人は変わり者って言ってたっけ。何か不安だ……。
シル【あのー、エドワーって言う鍛冶屋さんから紹介を受けて来たんですけどー・・・】
ホジ【なんだ?若造じゃねえか。剣のいろはも分かってねえガキ共に打つ剣なんざここにゃ無ぇよ。帰りな】
出て来たのは随分年が行ってそうな白髪の髭のおじいさんだった。
大きな体格をしてる。しかもかなりの筋肉質。この年でこれだったら、若かった時は一体……。
この風貌とドスの聞いた声にわずかにたじろいでしまったけど、こんな初っ端から挫けてなんかいられない!
シル【剣を直してほしいんです。見てもらうだけでも良いですから】
ホジ【うん・・・?小僧、おめえ、どこかで見たな】
あたしの言葉を聞いてるのかいないのか……。ホジキンさんの興味は完全にあたしに向いてない。
ヒー【いえ、僕はこの王国に入るのは初めてです・・・けど】
ホジ【そうか?・・・いや確かに覚えがある】
ヒー【ど、どこか別の町、でしょうか?で、あの・・・】
ホジ【俺はこの三十年、この国から出た事はねえ。間違いなくこの国の中でだ・・・。まあいい、その剣見せてみろ。まず抜けや】
言われるがままにヒースは鞘に手をかけ、ボロボロになってしまっている彼の愛剣を抜いておじいさんに差し出した。
ホジ【おい坊主。おめえ、片手剣がメインか?が、馬上長剣じゃねえ。剣速は随分速そうだ。筋も悪くねえ。良い手をしてる】
ぱっと見ただけで彼のスタイルを言い当てた。
聞いた事はあるけど、マジモンのプロはひとつの所作だけで相手の事が粗方分かってしまうってこう言う事なの?
ホジ【騎士、か?】
ヒー【いえ、違います。ただ、先生は騎士でした】
言葉少ないけど、要点と核心だけ確実に突いてくる。
眼光も鋭いし、すっごく緊張する……っ!
ホジ【・・・わかった、直してやる。ただ酷くやられてるな。随分短くなっちまってる。新しく素材と合せるとほんの一部にしか元の部分は残せん。いいか?】
やった! ヒースお手柄! 多分あたしだったらこの人と上手く交渉できてないよ!!
でも今の交渉だったの? わかんないけど通じ合ってたから良いよね!
ホジ【素材は、おめえの感じから行くと・・・。そうだな、ドルトン鉱山に行って鉱石仕入れてこい。あそこのは受注してからじゃねえと採掘されねえんだ】
それだったらお安いご用です!
無理難題を引き受けてくれたんだから、こっちもそれに応えないとね! 信頼の基本!
あ、そうだ。思い出した。アイテムパックを開いて、パックの肥やしの一つを選択。
シル【せっかくだから。これも使えません?】
”クリスタルドラゴンの爪”を手渡した!
キラキラ輝く竜の爪を見て、ホジキン師匠の顔つきが鋭く変わった。
え、なに? これに何かあるの? それともあたし、何かまずいことした?
俄かに不安に襲われるあたしをヨソに、師匠はまたヒースの顔を見て大きく頷いて口を開いた。
ホジ【・・・そうだ、スネークだ。小僧、おめえはあいつによく似てる。あいつの剣も俺が鍛えてやったからよく覚えてる】
シル【スネーク?全然別人ですよね?】
ホジ【ああ、今から二十年くらい前か。アースドラゴンを一人で倒した化け物のような男さ。その時欠けた剣を俺が直してやったんだ。最高の業物にな。あいつが光の勇者、ヒューイに間違いないと思うが・・・】
シル【光の勇者?】
ホジ【お前達も聞いた事くらいあるだろ?魔王を一時的に封じた男だ】
シル【へぇー。あたしずっと隔絶されたところにいたので知りませんでした。ドラゴンを一人で・・・】
ヒー【そう・・・ですか・・・】
あれ? ヒースが急に能面貼り付けたような顔になってる。どうしたんだろ。
この二人が話を始めると、妙な化学反応が起こって色々動き始めるんだよね。
ホジ【昔話が過ぎたな。おら、まずは鉱石取ってこい。続きはそれからだ】
師匠に急き立てられてあたし達は店を後にした。
ちょっとちょっと! どこなのその”ドルトン鉱山”って!
気付いて振り返った時には師匠はすっかり店の奥に引っ込んでしまって姿が無かった。
もー、仕方ない。受注がどうの、って言ってたから商工会に行って詳しく聞くしかないか。
シル【光の勇者かー。そんな人がいたんだねー。そんな人に似てるって、やっぱ勇者も男前じゃないと務まらないのかねえ】
とりあえず旅支度をするために宿に戻っている途中、ずっと黙ったままのヒースに話しかけた。あの件の辺りからなーんか様子がおかしいんだよね。
そんなヒースが急に足を止めて、周囲に特に人がいない事を確認して小声であたしに話しかけてきた。
ヒー【シルフィー、君にはホントの事を教えておきたい。光の勇者は魔王を封じてなんかいない。魔王が、約束を守っただけなんだ】
シル【え?】
ヒー【また、別の機会に話すよ。だけど君には信じてもらいたいんだ。僕は、嘘をついてない】
え、ちょっと。急に何?
貴方がウソを吐くわけないし、ヒースの事だったらなんでも信じる。
だけど一体何だって言うの?
これまでにない無言の圧力を感じて、あたしも言葉を継ぐことができなかった。
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