爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その31
トリ【・・・おぉ?お前達、こんな闇夜に、こんなところによく来たな。どこから来たんだ?・・・魔族じゃないだろうな?】
シル【え?やだな、人間ですよぉ。夕方にワツヒの森?の傍まで来たので、大急ぎで・・・】
トリ【本当か?お前達、よく無事だったな。あそこはもう誰も近寄れない魔物の森なんだぞ。確かにそれなら夜だろうと留まらず遠くに行かなくちゃならんな。無事で何よりだ】
ここはリッケンベートの街。
ぽつぽつと建物の窓から明かりが見える。
外壁とかから見ても規模はかなり大きいと思えるけど、その割にひっそり寂れていて、ゴーストタウン化してるのを強く感じる。
グレートホーンを倒したは良いけど、馬と馬車が見つかった時はもう辺りはすっかり暗くなっていた。
マップによればこの街まではもうちょっと。馬車で一時間もあれば十分着ける。
この距離で野宿するよりかは、と言う事で先を急いだ。
そしてこんな時もトラヴィジョン超便利!
今日の月は大きく欠けてるから周りは肉眼では全然分からない。ヒースが調節した閃光魔法で照らしてくれるけど、本当にごく身近な範囲しか見えなかった。
ところがトラヴィジョン使ってみたら、結構はっきりくっきり周りが見える! 色までは分からないけど。まるで暗視装置!
馬は夜目が利くのか、この程度の月明かり星明りでもちゃんと歩いてくれる。
周りを警戒しながら進んでいくけど、トラヴィジョン使用中に護衛をしてくれるヒースの剣はもう修復不能なレベルにまで損壊しちゃってる。
馬車(現在ただのリヤカー)の修繕よりも、こっちの方を一刻も早く何とかしないといけない。
第一街人のトリンダーさんに、どこか泊まれるところはないかと聞いたけど、すでにここでは宿屋の類は全部廃業してしまっているらしい。
街や教会を立て直そうと資材を運んでも、その度に周囲に生息するモンスターの襲撃を受けて計画が全然進まなくて、その影響もあってこの街を訪れる人は本当に少なくなってしまったそうだ。
農地は襲われなかったので辛うじて生活は成り立ってるけど、邪眼王の起こした争乱のせいで難民になったりでこの街の外から来た人達の多くは、空家や空き部屋で生活しているらしい。遅かれ早かれスラム化が逃れられない。
トリ【昔はハンターギルドの規模も大きくて、原生の魔物程度の襲撃だったら平気だったんだけどな・・・ コウスケ、いや邪眼王のせいでどれもこれも手に負えなくなっちまった。いい迷惑さ。教会もなくてルファラ様のご加護も絶えちまった。エシャリは酷く悲しんでるだろうに・・・】
トリンダーさんは昔この街で有力な商家さんだったそうだ。規模はかなり落ちてしまったけれど、生まれ育ったこの街を離れられず今もこの街のために物資の輸送などを続けているとの事。
そんな人情のあるトリンダーさんは、嬉しい事にあたし達二人なら泊めてくれるって申し出てくれた!
やった! 最初に良い人に出会えるって幸せ!
シル【ようやく一息つけるのーう。ね、ヒース】
あたしが声をかけたけど気のない返事しか返ってこない。窓辺に腰かけて、鞘から抜いた原型を失った剣を見つめていた。
シル【・・・仕方ないよ。連戦激戦だったんだし。新しいのを買お?】
ヒー【・・・あぁ。そう、だね】
シル【もー、ウジウジしてないで!形あるものいつかは滅びる!次の出会いへのチャンスと思うしかないじゃん】
ヒー【そう・・・だね。でもこれは先生からもらった物なんだ。すごい業物と言うわけじゃないんだけど、五年間ずっと助けてくれてね・・・】
あかん。あたしまた地雷踏んだ。
ヒー【エンチャントスラッシュを使うのは剣を保護する意味もあるんだ。それでもこれまでも何度も欠けたりする事があったから、その都度鍛え直してもらったりしてずっと旅をしてきたんだけど・・・。さすがにもうお別れかな】
地雷原広がり過ぎです。
惚れた人を安易に傷つけるような事言ってしまって、あたしは二の句を継ぐ事ができない。もう泣きたいよ。でも彼はこんなもんじゃないに違いない。
辛いんだろうな。寂しいんだろうな。それに申し訳が立たなくて、思いのやり場もないんだろうな。
ごめん、と一言謝るのが精一杯。そっと手を伸ばして、剣を握る彼の手を取って軽くキスを落とした。
びっくりしたヒースが手を引っ込める。うっかり窓から転げ落ちそうだったけど、空いてた手で枠を掴んでぎりぎりセーフ。
ヒー【し、シルフィー、ど、どうした、の・・・?あ、君の星の習慣?】
んなわけないでしょ!
戸惑うヒースは可愛かったけど、にぶちんなのはいただけない。
あー、こっちも顔熱い!
現在二、三日に一度ペースでの不定期連載中です。ご迷惑をおかけしています・・・