爆誕!ステ極振り魔法少女いっきまーすミ☆ その14
やみくもに道を進んでいくけど、これで良いんかいな。あー、足疲れた……
訳わかんなくて疲労度合いがハンパない。
今までPFOU NXプレイしてきて疲労を感じた事なんてほとんど無かった。
シルフィーになってるっぽいけど、このすべての感覚のリアルさ。
一体全体このルファラってステージって何なのさ……。
とりあえず町まで後どれだけ……?
いつもの癖で腰元のアイテムパック(水晶球)に手をやった。
シュイン、って音がしてメニューが開く。
あ、出た。ってこたぁやっぱVRか。
VRならVRで良いんだけど、リアルすぎるってばよ……。
マップを選択して、常に表示に設定。あたしの視界の右上で固定された。
その位置だと見にくいよ。そう思った途端に拡大されて目の前に移動。相変わらず使い勝手いいな。
マップの中心に赤い点がある。これあたしの現在位置。
これを見て、マップの端にある町アイコンを触る。
触るって言ってもマップそのものに実体はないから、触れた感覚は無い。
マップ上に町の場所が黄色い三角で表示された。三角の下に文字が書かれてる。
うん? あなたの徒歩で四十分?
遠っ?! っつーか、こんな機能今までなかったぞ!
え? しかもリアル志向すぎやしないかい?
あー、もう勘弁しておくれ……。喉も乾いたし足疲れた……。お腹は空いてないけど、あー……。
木陰でうなだれて座って一休み。
もー。常に視界の中心に居座るマップ邪魔。端っこの定位置に戻りんしゃい!
風にそよがれながら、きれいな空を流れていく雲を眺める。はー、気持ちいいなあ。でもどうなるんだ、これから。
近くに水場もないし、このままだと行き倒れ確実だよ。
っつーか、あたし体力なさすぎ。まさかと思うけど、体力ステってルファラだとここにも影響すんの? 毒や混乱とかの状態異常からの防御、レベルアップの時のHPの固定上昇値に関係するだけじゃないの……?
あー、もう。こうなるって知ってたらある程度体力に振ってたよー……。
早くもへとへとのあたし。
休憩しながらメニュー見て色々確認していく。
うーむ…… オール初期装備か。
アイテムもHPエイド三種とMPチャージ三種が各四つ。
お金0メルド(メルドはPFOUの通貨単位)……。
これでどーせいっちゅーねん!!!
途方に暮れたらまた喉乾いてきた。
チクショー。そう言やHPエイドって”回復液”だったな。一個取り出して付属のストローをパックに刺してチューチューする。
あ、うめえコレ。全部飲むのもったいないからこのくらいにしとこ。
もう一回アイテムパックに収納してみる。
HPエイド(飲みかけ)×1って表示が増えた。
おお、便利だなこれ!
よぉーし! ちょっと元気でた!
気力が削げて同時にHPが減ってたのが回復したに違いない。
まずは町に向かって前進だ!!
休憩して復活したあたしは再びマップを確認して町に向かい始めた。
あと四十分かー。結構遠いと思うけど、気付いたら到着してるっしょ。
でもなー。何か乗り物とか欲しいなぁ。町に着いたら相談してみようかな。
とことこ歩いてしばらくすると、何やら柵に囲われた土地が見えてきた。
おや、人工物だぞ。って事はそろそろ人里が近いって事だね。
それにしてもこの柵の向こう、超荒れてる。草はぼうぼうに伸び放題。人里が近いのにこんな風に荒れ地で放置するなんておかしいよなぁ。そもそも用途はなんだろ。
草をかき分けて入ってみると、どうも畝が作ってあった跡がある。って事は畑だよね。休耕地なのかな? でもほったらかしにはしないよな……。
よく分からないけど、とりあえず町へ行こう。この事も町で聞けばいいさ。
左右から背の高い草が押し寄せてきている、元畑の間を伸びる道をひた歩く。
だんだん疲れてきた……。いやマジで体力なさすぎだろ、あたし。
とぼとぼ歩きながら左手首のブレスレッドに視線をやって表示されたゲージを見てみると、ホントにHPが減り始めてる。これ死活問題だ……。レベルアップ以外で体力ステが上がる方法を見つけないとまずいぞ。
アイテムパックからHPエイド(飲みかけ)を出してチューっとすると俄かに元気が戻ってきた。
やべえこれ、変なクスリじゃないだろな。クセになる味だし。
マップをもう一回見てみると、町まで徒歩で十分だと。よし! もうちょっとだ!
HPも回復してHPエイド(飲みかけ)をしまい、気を奮い立たせて足を運ぶ。
すると急に左右の茂みがガサガサ揺れた。
あ! 野生のトラ……? が飛び出してきたぞ!!
じゃねえ! うわ! 急にモンスターエンカウント!!
しかもなんかでかくない?! 動物園で見たトラよりもでかいぞ!
そのトラから急にポップアップが出た。
”キメラタイガー”
むむ! 初見のモンスターだ。ルファラは他の四惑星には無い生態系なんだな。
見た目とデカさとかから判断しても危険な猛獣に違いない。
弱点とか分かんないからとりあえず間違いのないファイアーボールで手付け(※1)!
ぼしゅっと勢いよく火の玉が飛んでいく。いつもと変わらない感覚だ。
ファイアーボールが直撃してキメラタイガーがノックバック(※2)してひっくり返った。
よーし。シルフィーちゃんの超マインドは健在だ!
レベルが150から100に戻されてるけど、これくらいなら十分戦えるぜ!
ひっくり返ったキメラタイガーの出方をうかがってると、びょーん!とジャンプしてこっちに向かってきた。あたしの頭の上を通過できるくらいの高さだから、攻撃するつもりないね。
そう油断してたら、通り過ぎる瞬間に装備してた”木の枝”が手から離れた。木の枝はキメラタイガーの尻尾にくっ付いて持っていかれてる。
あ! アイツ尻尾が蛇じゃん! そのまま茂みに隠れていった。
うむむむ…… 盗られたのが上等な装備だったら追跡して八つ裂き間違いなしな所業だけど、まあ木の枝だから追いかけなくてもいいか……
それよりも問題はどこからまた襲いかかってくるか分からないってとこ。
すごく腹立たしい事にいいタイミングで風が吹き始めて、草ががさがさ音を立てちゃってアイツがどこに行ったのか判断が付かない。
あー、もう。一発ももらえないHPって事は重々承知してるから、どう考えてもあたしが不利。
でもこう言う時だって大魔法使いシルフィーちゃんは対応できるのです!
そーれ、アイスエッジ!
貫通力のある氷の刃を四方八方に打ち出していく。
回転して飛ぶそれらは草刈り機よろしく辺りの背の高い草をきれいに刈り取っていった。
草むらの奥からぎゃう、と声が聞こえた。よし、そっちだ! 範囲魔法のサンダーストーム!
広い範囲にバリバリと電撃が走りながらつむじ風が発生する。それが治まると、手あたりしだいの魔法を受けて満身創痍のキメラタイガーが茂みから出てきた。
いまだにガルルとうなり声を上げてあたしを睨んでる。
後足に力が入り始めた。今度は真正面から組みついてくるつもりだな!
向こうの本気がどのくらいの速さか分からない。こっちも速い一撃で応戦しないとダメだろう。
さあ来い!
一瞬身を沈めるような体勢を取った。今だ! 信頼と実績のファイアーボール!
真正面から撃ち落とす。ファイアーボールをまともに頭部に受けたキメラタイガーは弾き飛ばされ、巨体が宙を舞った。
どさん、と重たい音を立てて道の真ん中に落ちたキメラタイガーはもうピクリとも動かなかった。
よっしゃ! ルファラ初戦を華麗な勝利で飾った!
魔法少女シルフィーの伝説の始まりである!!
~注釈ないとちょっとつっかえる単語解説~
ーこれがわかるって事はとそこそこゲーム経験ありますね?編ー
※1:手付け・・とりあえず一発ダメージを与える事。こうしておくと他プレイヤーが倒しても経験値の一部が手に入る。手付けのはずが思いのほか大ダメージになってモンスターを倒してしまい、逆に他プレイヤーからひんしゅくを買う事もある。
※2:ノックバック・・攻撃を受けてのけ反ったり、後方に押し戻されたりする事。上手く発生させることで敵の攻撃をキャンセルしたり間合いを開いたりさせられる。逆にこちらがダメージを受けた時これが起きると軽くイラッっとする。これが起きない状態をスーパーアーマーと呼んだりもする。