転生!物理最強勇者誕生! その5
街道に出てしばらく行くと血の匂いがしてきた。
見れば街道には点々と赤い印が付いている。その跡は街道から隣の森へと続いていた。
それを追っていくと森に入って程なく、馬の死体を見つけた。脇腹を大きく裂かれ、太い腸が覗いていた。
おそらく聞いていた、アークデーモンに襲われた商隊の馬だろう。馬は人間なんかよりもずっと頑丈で、その腹をそんなに易々と切り裂けたりしない。それをこうも無残に引き裂くとは、想像以上の化け物である事は間違いない。
こんな深手を負って逃げられる距離はそんなに大したものではないはずだ。ヤツは必ずすぐ近くにいる。
そう思って俺は精神を集中したまま街道に戻って探索を開始した。
正直俺は魔物を探知したりする事が得意ではない。だからあえて身を晒し、敵に襲わせるスタイルをとっている。当然命がいくつあっても足りないから止めろ、と出会うハンター達が口をそろえて言う。
だけど都合上パーティーを組むことが出来ず、サーチャーのスキルを持っている仲間と行動を共にできないのだからこれで行くしかない。
命知らずの馬鹿野郎と言われるのは少し心外だが、おかげで実戦経験はパーティーを組む連中よりもずっと多く、戦闘のカンを養う事にも役立っていると感じている。俺にはこのやり方が一番良い。
探知は苦手だが、精神を集中して物音や臭い、気配に何か変化が無いかは常に探っている。森の方から得体のしれない獣臭が漂っていた。……近い。
俺は愛剣フィグムンドの鞘を引き上げ、右腕の力をわずかに抜いた。すぐさま抜剣出来る姿勢を整えて足を進める。そのまま何歩も進まない所でそれは起きた。
ブモォォオオオオオ!!
とんでもない咆哮と同時にバキバキと音を立てて、赤黒い巨体が森の中から躍り出てきた!
これが依頼のアークデーモンか!
木々をへし折る信じられない怪力の突進をひらりとかわし、すかさず抜剣して斬りつけた。
ギャリン!
アークデーモンが左手の爪でフィグムンドを受け止めた時に火花が散った。
野郎、想像以上の硬度と反射神経だ。ランクAに分類されるのも納得だ。俺もすぐにその場から飛び退いた。俺が飛んだところを丁度、丸太のような太い尻尾が薙ぎ払っていった。一瞬たりとも油断ならない相手だ。
このようなモンスターはランクがEからSSまで分けられている。Aまでは何とか個人のギルドハンターで対処が可能な物、Sは騎士団のような部隊が必要な物、SSは手に負えない、だ。
SSに遭遇する事はあり得ない。これは魔王と呼ばれる化け物の親玉クラスで、世界に数体しか居ないと言われている。
当然俺は騎士団のエリート、王家直属近衛騎士になる予定なのだから、ランクA程度の魔物に後れを取るわけにはいかない! しかし後学の為に色々と試しながら戦う事にした。
爪の速度はそこらの見習い騎士よりも速い。
角の生えた頭での突進は恐らく、町の家屋程度だったら問題なくぶち壊してしまう威力だ。
それよりも尾の一撃がヤバイ。何と言っても範囲が広いだけでなくその重さだ。
払われた地面はざっくりと抉られている。きっとこれに打たれたら俺が転生するきっかけになったトラックの一撃にも等しいダメージを受けるだろう。つまりは即死だ。
相手にとっては不足はない。だけどこの程度だったらどうって事はない。問題はこれが「デーモン」の種族だと言う事だ。
俺がヤツの攻撃をことごとく回避している事に業を煮やしたのだろう。アークデーモンは両手を点に向かって伸ばし、何やら理解できない言葉のような物を発している。
これが魔族の魔法か!
バチバチとその掌に電撃が集まっている。それが十分になった頃、俺に向かって両手を振り下ろした。空気が破裂する音とともに稲妻が俺に襲いかかってくる!
だけど俺も同時に閃光を走らせた。普通は稲妻を見た後に反応してももう遅い。俺は魔法を撃ってくる事を予期してすでに自分の剣先に閃光を集めていた。
「マズルフラッシュ!」
切っ先から稲妻よりも速いレーザーが放たれ、迫る電撃と一緒にアークデーモンの両手を貫いた。
手から血は噴き出ない。当然だ。焼き切られているのだから。
予想しなかった反撃にたじろいだアークデーモンの目に一瞬降参の色が浮かんだ。だがヤツにも中級魔族の意地があるのだろう。ギッと俺を睨みつけ、大きく口を開いた。ブレスだ!
その威力は極めて強く、俺がいた周辺は瞬く間に業火に飲み込まれた。草はあっという間に焼け焦げ、辺り一面が黒い煤で包まれてしまった。地面からは煙が上がり、炎とブレスの熱で陽炎が立っていた。
だが俺は軽い火傷一つ負っていない。自分の靴に魔法を発動させて高速移動したからだ。本当に俺の得意とするのがレア魔法である閃光系である事はありがたい。
アークデーモンは必殺のブレスをかわされた事にさらにムキになったようだ。もう一度大きく息を吸い込み口を開いた。回避するには十分すぎる時間があった。どうやらこれ以上コイツから学べることはなさそうだ。
高速移動してアークデーモンの後ろに回り込み、その背中を駆け上がる。デカい角の生えた頭のてっぺんに立って見下ろした。
「同じ技は二度使っちゃいけないんだぜ?」
完全に頭に血が上ったらしい。最初に俺の魔法で穴を開けられ、指を何本か失った手で俺を掴もうとする。それをひらりとかわして地面に着地し、すでに剣に纏わせていた魔法を一気に解放する!
「秘剣・竜影斬!」
必殺のエンチャントスラッシュの一つだ。下から上に向かって切り上げる。ただこれだけだがあまりの速さに回避する事なんて出来やしない。
股間から頭まで真っ二つに割け、アークデーモンは血を噴き出して倒れていった。おそらく切られた事にも、死んだことにも気付いていないだろう。
なかなか強い相手だった。だけどそれはあくまで攻撃力が高く俺を殺せる力があったと言うだけで、勝負になるような力量では全くない。
ランクAでこの位か。未知の敵だから慎重になっていたが、この手ごたえからいけばランクAの依頼でこれからは稼いでいけそうだ。
「おっと、忘れてた」
依頼を達成した証拠としてアークデーモンの角を切り取って行く事にしたが、固すぎて魔法を使わないとダメだった。
高ランクのモンスターは倒した証明をするのも一苦労だな。