憑依!S系教育男子出陣! その28
ぞっとするような美しさを持つ魔族が俺を見てわずかに首を傾げる。
普通の女性がしたのであれば可愛らしい仕草。ただそれだけだと言うのに何だこの圧力は……!
「男よ、お前は勇者アミカによく似ているな。お前がボルグルの報告にあった魔界の眷属を操る男か?」
「そうだ、と言えば……?」
ごくりと喉が動く。
尋常ではない迫力……! ワンダーレグスと対峙した時ですら感じた事がない!
魔王であることを無言で知らしめたこの女性は思いも寄らない事を言い出した。
「なるほど。報告には洗脳ではなく眷属が自由意思でお前に従っているようだとあった。人の軍の中で劣悪な扱いを受けているわけでもないと。どのようにしているのかは知らぬが、その事だけは礼を言う」
「礼だと? 何を企んでいる?」
「訝しむ必要はない。もともと我は人間と眷属を争わせたくはないのだ。我らの解放のために兵を挙げたに過ぎん」
「誰がそんな事を信じるか! 強力な暴力、莫大な魔力を操る魔物魔族は脅威でしかない、それは事実だ! 現にここに来るまで数多の犠牲が出た! その犠牲に報いるためにも人間は勝つ!」
「それは因果を見誤っているだけだ。我らはもともと搾取された側。それを是正する事は我らの存亡に関わる最重要案件。ゆえに立ち上がったのだ。だが人間の滅亡など望んでおらぬ。人間と我が眷属、それぞれが適切に関係を持つ事こそが我が理想だ」
「なん…… だと……?」
「だから礼を言ったのだ。お前の能力がどんな物なのか皆目見当がつかん。だがその能力により我が眷属と人間が共存できる可能性を見せている。うっすらとだが我が望んだ関係の礎がそこにあるのだ。惜しむらくは眷属の力が眷属に牙を剥いている事。我はそれを止めに来た」
魔王が求めている世界と俺の理想が一致している?
そんなバカな。それならば何故人間界と魔界の関係はこれほどまでに捻じれてしまっているのだ。
状況を飲み込みきれないでいた俺を、エシャリの叫びが現実に引き戻した。
「魔王ラファーガ……! 私は貴女を許せない! 今日こそ貴女を滅します!」
「娘よ、お前はエシャリか? その服…… 今もルファラ教徒のままか。お前、あの日の我の忠告を聞いていなかったのか? 今日この時までルファラの教えに一点の疑問も抱かなかったのか?」
「そんな事、関係ありません! 私はルファラ教徒の使命としてではなく、アミカ様の復讐のためにここまで来たのです! 私は今日この時までずっとそれだけを望んできました! アミカ様の仇…… 必ずとってみせます!」
復讐心に燃えるエシャリの瞳。ここまでの激情を彼女が見せた事は今までなかった。
ありがとうエシャリ。そうだ、甘言に惑わされてはいけない。心の隙間につけこむ事こそが魔の真髄だ!
「そうだな、お前には我を討つ動機がある。だがワンダーレグス、お前はどう言う事だ?」
「なあに、残りわずかな儂の寿命を儂がどのように使おうと自由じゃろ? お主を連れて華々しく最期を迎えようと思っただけじゃて」
「まさかと思うが、お前ほどの者がこの男の能力に後れを取ったとは言うまいな?」
「悔しいがそのまさかよ。なかなかの策士でのう、儂の驕りを突かれたわ。しかし不思議な事に悪い気は全くせん」
魔王は言葉を失いワンダーレグスと俺を交互に見比べていた。
俺と視線を交錯させているが、ワンダーレグスの時と同様全く反応を示さない。
カリスマとでも言うのか、この圧倒的な存在感。支配し協力させれば最大の効力を示すだろう。
しかしこの頭脳、そしてワンダーレグスを凌ぐ底知れない力。支配できても油断ならない。あまりにもリスクが高い。
強力な駒を失う事になるのは後ろ髪を引かれるが、危険因子は排除するしかない!
「ところでアミカに似た男よ。もう一つ聞きたいことがある」
再び戦意を昂揚させていた俺に、魔王が再び予想外の事を言った。
「まさかお前も地球の住人ではなかろうな?」
何だと?
ダメだ、こいつの言葉に耳を傾けるな。
すべてが俺を惑わす罠だ。
俺を絡め取ろうとする蔦のように忍び寄る魔性を振り払うために気合を入れろ!
「……アミカアミカとその名で呼ぶな! 俺はコウスケ、崎山耕輔だ! 生まれ育った地球で死に、そしてこの世界に送られた。俺はこのルファラで、俺の理想を実現させてみせる! そのために魔王! 貴様は舞台から降りてもらうぞ!」
警鐘を聞きつけ準備を整えた人間軍の戦力達が集まって来ている。
当然魔王も気付いているが、こんな敵地ど真ん中にその身一つでやって来ただけあり全く意に介していない。
「やはりそうか。たったの五年で三度異世界から我の命を狙う刺客が送られてくるとは……。一体何がこの世界に起きている? この戦いを望むのは誰だ? その果てに何があるのだ? 偏った平安は、本当に平穏なのか?」
何だ? この魔王は何を知って、何を警戒している?
いや、そんな詮索は無用!
その意図に違いはあるものの、ここに集結している者達の目的は一つ。
お前が倒れれば障害は無くなる!
さあ、世界を変えるための最後の戦いだ!