憑依!S系教育男子出陣! その21
うっそうと茂る広大なメガス大森林。
現在の勢力図によればここはまだ人間界に含まれる。
ここから本格的な魔物の生息地、すなわち魔界まではまだ距離がある。
初めて人間界と魔界の勢力図を見た時に不思議に思った。
この森を避けるように魔界を示すラインが引かれていたからだ。
それゆえこの森は人間界とされていたが、人間もあまりこの森に触れたがっていない様子だった。
それはここに触れてはいけない強大な魔が住み着いているからだと知ったのはついこの前だ。
「コウスケの旦那、もう少しですぜ」
「ああ、そうだな。あらかじめ当たりをつけておきたいから、少し上空を飛んでくれ」
「えッ! い、いやあ…… それはそのー、ちょっと……」
「なんだ、出来ない理由があるのか?」
「あ、当たり前じゃねぇですか! あっこは魔界でも、人間界でもねえですぜ! 万が一があってもおかしくねえ!」
「いいから飛べ。制約を追加するぞ?」
「お、奥方様ーー!」
「えぇ?! わ、私、おくぎゃ ケホケホっ!」
「エシャリに助け舟を出してもらおうなんて十年早い。それに見ろ、動揺してろくに対応できてないだろ? 観念して仕事をしろ」
「くっそぉおおーー!」
飛翔トカゲと呼ばれる怪物の背に乗り、俺達はメガス大森林の上空をしばし遊覧飛行した。
これはいわゆるワイバーンの小型な物で、見た目は完全に竜だ。
しかし知能は高いが魔法を使えず、魔族ではなく魔物に位置づけられる。ランクはBで、そこそこ面倒な魔物だ。
俺達が幌馬車を使ってメガス大森林に向かっていた時に空から現れ襲ってきたが、残念な事に俺と目が合いそのまま従えられて足とされる運びとなったのだ。
しばらく上空から大森林を観察したが、明らかな建造物、人工物は見つからない。
不自然に木々が低くなって、森林に穴が開いているようなポイントがいくつかあった。
それ以外は本当にただの広大な森だった。
「ホント、こんな生きた心地のしない飛行は初めてでしたぜ……」
「すまんな。だがおかげで多少詳しくこの大森林の様子が知れたよ。ありがとう」
飛行しながら書き込んだ地図を見ながら礼を言った。
エシャリも飛翔トカゲの鼻筋あたりを笑顔で撫でている。
どうやらそれに気を良くしたらしく、顔を擦り付け、舌でエシャリの頬を舐めていった。
「おい、調子に乗るな」
「ギィっ! す、すいやせん!」
人間に危害を加えない、と言う制約をやや厳しめにした。
同意なく触れる事を禁じた事で罰が発動し、飛翔トカゲは身を強張らせて地面に伏せ、俺に許しを乞うた。二度はするなと念を押し、罰を解除するとのそのそと体を持ち上げ、後ろに下がっていった。
さて、ここからは例の呪霊王探しだ。
まさか本当にエシャリのとんでもない提案が早々に現実化するとは思わなかった。
戦力として連れて行こうと思ったが、飛翔トカゲは一緒に森に入ろうとしない。
確かに木々はよく茂り、コイツの体格では森の中を飛ぶ事が難しい。
飛ぶ事こそ本領の魔物にとって嫌な環境なのは理解できる。
だがそれよりも怖がっていると言うのが大きかった。
飛び回らなくても爪や牙、尾による攻撃力は高く、そこらの魔物や猛獣に後れを取る事はあまり無いはずのランクBの魔物が恐怖する森。にわかに緊張感が高まる。
「旦那…… 悪い事は言わねえよ。ワンダーレグスなんて探さねえ方がいい。俺達、魔王様の肩を持つから言うんじゃねえ。アレは本当にヤバいんだ。よくこの森が残ってるな、って昔っから言われてるんだよ」
「うん? どう言う意味だ?」
「言葉のまんまだよ。近くにあるモンの何もかもが死に絶えるんだ。今の魔王様だけじゃねえ、昔の魔王様全員から煙たがられて魔界から追放された化け物、それが呪霊王ワンダーレグスってヤツだ。悪い事は言わねえ、ワンダーレグスなんて見つけちゃダメだ」
「そうか。俄然興味が湧いたな。魔王を討つには必要なカードだ。何とかして協力させてみせるさ」
「旦那!」
「一応、万が一って事がある。この近くから離れるな。帰ってきたのがエシャリだけだったら、彼女を連れてすぐに人間の国に逃げてやってくれ。これは最優先の制約にする。わかったな」
飛翔トカゲはしぶしぶと言った表情を浮かべ、翼を開いて飛び去って行った。
俺達は道もない暗い森に足を踏み入れた。
中は不気味に静まり返り、この規模の森だと言うのに生き物の気配がとても少ない。ここの主に見つからないように息を潜めているのか。
そこそこ強力な魔物も噂だけで近寄ろうともしなかった。
さすがは世界に数体しかいないランクSSと言われる存在。
どんな化物か、今から会うのが楽しみだ。