憑依!S系調教男子出陣! その20
「むぅう! 人間、貴様何をした!」
「ふっ 何だろうな。お前は人間をなめすぎたな」
俺が支配した魔物の群れに取り囲まれ、一斉に飛びかかられた敵将が咆哮を上げながら元部下達を振り払っている。
「やめろ、貴様ら! 儂は貴様らの将、ボルグル伯爵であるぞ! 忘れたか!」
「ゲハハハハハハ! それならオデ達が勝てばオデ達の方が偉ぇってことだぁな!」
「オデ達は暴れられりゃあええんだ!」
「偉そうなおめえが気に入らねかっただ!」
「むおおおおおおお! 離れろぉおお!」
昆虫のような姿の、猿のような腕をした薄気味悪い魔物が無数に群がる。
敵将は鎧を着こんで巨大なメイスを持ち、身の丈3メートル近くはある白髪の猪の頭の化物だ。
見た目通りに怪力で、メイスの一振りで何体もの猿のような虫を薙ぎ払っていた。さらに時折火炎系の魔法を放ってまとめて蹴散らそうとするが、俺の能力の影響でステータスが上昇している魔物の群れは物理攻撃にも魔法にも何とか耐えて襲いかかっていった。その執拗さには俺も背筋に冷たい物が走るのを感じていた。
「おのれ、人間! これで勝ったと思うなよ!」
あまりにも数が多すぎ、現装備と戦力では対応できないと判断したのだろう。
使い古された捨て台詞を残して、白髪の猪はこの場から逃げ帰っていった。
「やった…… やったぞ!! 昆獣戦隊を打ち破ったぞー!!」
俺達人間側の軍からは大きな歓声が上がった。
と同時に猿のような腕をした虫の群れから勝利の雄叫びが発せられた。
今回遭遇した魔王軍を構成していたのは、ほとんどがエイプビートルと言う群れで行動する魔物だった。頑丈な外殻とその手には鈍器を持ち、戦場では常にぎらついた殺気を放つ。忠義よりも徹底した力関係が彼らの根底にあるようで極めて厄介だ。
俺の能力で味方に付けたが、本来とても人間と共存できるとは思えない。
たださっきの働きを見ての通り、非常に好戦的なこの魔物は、突撃兵だったり対魔将軍戦の尖兵としての価値がある。
早くも良い駒を手に入れた。
「それにしてもよお! オデ達、急に力がみなぎってきた気がするなぁ!」
「おお! あのクソ猪にも負けなかったで!」
「オデ達は強え! もっと戦いてえ!」
「コウスケって言っただか? おめえについて行けばええんだな? こんな気分がええのは久しぶりだ! ええぞええぞ、行ってやる! 人間相手にしてるよりずっとええぞ!」
「ああ。だがくれぐれも」
「魔界でもなかなかオデ達とケンカする奴らいねぐなったからな!」
「おお、おお! フヌケばっかだ!」
「人間は襲うなよ、襲ったら」
「戦争するっつったからあのクソ猪についてきたけんど、あんましだったかんなぁ!」
俺の言葉を聞く気があるのか!
さっき俺に話を振ったのはお前達だろう!
「少し黙れ、がちゃがちゃ騒ぐな!」
「おーう」
途端に静かになって俺の話を聞き始めた。
制約をかけているわけではないが、簡単な指示だったらその場で強制的に従わせる事が出来る。
戦闘力はあるがどうにも知性に欠けるこのエイプビートルの扱いはなかなか面倒くさそうだ。
夜、指揮本部で今回の戦果の報告会が開かれた。
連日通夜状態だったと聞いていたが、今日は異なり笑い声があふれていた。
好戦的種族で固められた魔王軍に非常に苦戦を強いられていた大陸西南部最前線の戦闘が、ほんの一日で敵将撤退と言う形で劇的勝利に終わった。
これまで多くの犠牲を払ってきた。それに報いることが出来たのだから、騎士団の団長やルファラ教の僧兵長も喜びに沸く気持ちも分かる。
だが今回、俺の能力もほぼ奇襲のような形だったため通用したような物だ。
軍団を構成する魔物が反旗を翻すと言う事を知った魔将軍は警戒し、これからは同じような作戦が通じない可能性が高い。
「今回は敵将ボルグルに逃走されましたが、今後敵将は確実に討ち取らなくてはなりません」
「だが相手はランクS…… 我々も犠牲をどれだけ払う事になるか……」
「コウスケ殿がさらに好戦種族を手懐けるのを待つか、対応される前にこのまま速攻をかけていくか……」
「くそ! ヒューイやアミカ殿のような戦力が今こそ必要だと言うのに!」
どの作戦を取るかは俺よりも戦争経験の長い指揮官達に任せるのがいい。
だが切り札、決定力が足りていないと言うのは全員の共通認識のようだ。
減少する一方だった戦力を現地調達できる俺の能力にかかっていると言っても過言ではない。
となるとやはり。
「呪霊王……」
俺が呟いた一言に全員が凍りついた。
「コウスケ殿、今なんと申した?! 死神を従えるおつもりか!」
「それだけはお止めなされ! ただの禍にござる!」
騎士団長と僧兵長が同時に声を上げた。
「いや、俺もできるとは思っていない。しかし確実な力を手に入れるのは喫緊の課題だ。違うか?」
全員が再び黙りこくってしまった。
だが長い沈黙を破って司令が口を開いた。
「……呪霊王は、この大陸西南のメガス大森林のどこかに祠を構えていると言われています。魔王と敵対するが故、辺境に住まうと。しかしその姿を見て生き残れた者はごく少数。そのような禍々しき物を従えられるので?」
「……わからない。だけどやってみなくては魔王も倒せないんじゃないか? 魔王は勇者二人を葬ったんだろう? それなら毒を持って毒を制するのも策の一つだと思うが」
「……わかりました。ただし貴方は人間軍にとって無くてはならない存在です。決してご無理だけはなさらぬように……」
こうして俺は、死神と恐れられるもう一人の魔王を探索する旅に出るのであった。