憑依!S系教育男子出陣! その17
地道に実績を積んでいた分、教会の俺への信頼はそこそこ厚い物になっている。
魔物のランクがAともなれば地方にとって脅威になる存在。
その魔族もまとめて従える力のある俺は、いずれ劣勢になる事が予想される人間側にとって是非とも欲しい存在だろう。
この支援要請はすでに予想されたもの。
俺としては拒否する理由はない。
もともと俺はこの力を使って、新しい世界の姿を作っていこうと思っていたのだ。
俺が地球で教師をしていたのだって、世界を動かしていくための力強い歯車を作るためだ。歯車が欠けるような事になれば世界が揺らぐ。それは何としても防がなくてはいけない。
歯車になることを嫌う者達は確かに多い。そう言う者達は皆、間違った自由主義に侵されているのだ。
真なる自由は世界が安定してこそ存在する!
個人の自由、意思、希望を叶えるためには世界を盤石なものにしなくてはいけない。
自分の居る場所で最大限の望みを叶えるために、人間は役割を果たすのだ。
その基礎である教育の在り方を変えていこうとしていた矢先に、俺は無理解な生徒によって命を絶たれた。こんなに無念な事があるか!
お前達は他人の望みを断っただけでなく、お前達の大好きな自由を手放したんだ!
あいつらがそれに気付いた時はもう遅い。
そして俺にはそれを正してやる事はできない。
ならば俺は、この世界で二度とそんな事が起きないようにしてみせる。
――よいセカンドライフをの!――
あの老人が俺に最後にかけた声が響く。
俺は世界を変える力がある。
新世界で、俺が本当の一歩を踏み出す機会がまさに今なのだ!
「わかった。俺で良ければ、力を貸そう」
「おお、ありがとうございます!」
俺の返事にコラン司教は表情を明るくした。俺の手を取り、祈るように司教の額に当てる。
信仰心が篤いのは良いが、本音を言えば、いい年をした男性にこれをやられても好い気はしない。
「ルファラ神のお導きで地球と言う異界より現れし勇者アミカのように、魔物を調伏する力を人々のためにお貸しください。これは私一個人の願いではなく、ルファラ教の現教皇、モーゼスからの依頼になります」
「地球? ……そうだ、俺は地球に住んでいた。だが突然別の世界に送ると声をかけられ、気が付けばここに……」
わざとらしく記憶が戻った芝居を打つ。その方が彼らの信仰心も相まって、さらに動きやすくなるだろうと踏んでの事だ。
「なんと! その声はきっとルファラ神のもの! 勇者アミカの肉体を通じ、神の奇跡の御力がコウスケ殿をこの世界に導いたのでしょう! ああ、何たること! この聖戦、今度こそ我らが勝利しましょうぞ!」
「あ、ああ。どこまで期待に沿えるかは分からんが、よろしく頼む」
司教の興奮ぶりに若干引いた。
だが有益となる不思議な能力を持つ人物が、神と崇める存在と直接関わっているかもしれないと知ればこうなっても不思議ではないのかもな。
それにしても、神から遣わされた世界を救う勇者、か。
予想以上に大事にしてしまったかもしれないが、動き出してしまった以上しょうがない。
あの老人、本当にとんだ食わせものだったが、せっかくだからその恩恵にあずからせてもらおう。