憑依!S系教育男子出陣! その16
バルバロファングこと”牙の民”のオの一族をすべて仲間にし、族長を連れて俺は依頼を受けたノボの村へ戻った。
単体とは言え恐ろしい魔族がやって来たのを見て、村人は皆逃げて行ってしまう。お馴染みの光景だ。
逃げて行った先には村で俺を待っていたルファラ教徒の一団がいた。
俺が五体無事で帰ってきてはいるが、一団の僧兵が武器を構えて対峙した。遠見の術で監視していたはずで結果も知っているだろうが、念を入れての事だろう。
牙の民の族長は敵意がない事を示すため、四足歩行で尾を股の間に入れ、頭を低くし俺の後ろについていた。
こんなところまで地球の狼、犬にそっくりだ。異世界だと言うのに不思議なものだ。
「お疲れ様です、コウスケ殿。確かに見届けました。ランクAの魔族も物ともしないとは我々の期待以上です」
「やっぱり実力査定だったか。いやいい、気にしてないからな」
出迎えた司教と簡単な言葉を交わした後、俺は村人達に彼らがもう敵意がない事を説明した。
おとなしくなったからと言ってももともと他の魔物の脅威を退けるくらい強い種族なので、村人が彼らに報復を企んだりしなかった。
牙の民は見た目通りの獰猛な獣型魔族ではあるが、知性が高い分理解力にも優れ人里を襲う事はもうないだろう。俺が掛けた制約も二重のロックになっている。
「コウスケ様!」
僧兵達を押し退けてエシャリが駆け寄り抱きついてきた。
よかったと安堵の声をもらす彼女の頭をぽんぽんと撫でる。嬉しそうにするエシャリを見ると俺の表情も自然とほころぶ。
俺はここに来るまでの間に考えていたことを実行することにした。
これが成功すればいくつも大きなメリットが生まれるだろう。
「族長、この娘に魔法を指導してやってくれ。土系はお前達の十八番だろう?」
「良かろう。自然の声を聞けば造作もないことよ」
「わ、私がですか?! ルファラ教徒の私が魔族に?!」
「何だ? 出来ないのか?」
「い、いえ…… ルファラ様の教えに……」
「いいからやれ。ランクAの魔族から本格的な魔法を学べる機会はないからな」
「し、しかし……」
強情だな。これにはあんな老人の教えなどよりも余程重大な意味があるんだ。
信仰心の篤い彼女だが、俺に従わせるのは難しい事ではない。わざとらしくため息をついて、彼女の目を見ないように吐き捨てた。
「わかった、いいだろう。せっかくのチャンスを棒に振るとはな。がっかりしたよ」
「ま、待ってください! 分かりました…… やります、やらせてください。あの、コラン司教……」
ほら見ろ、エシャリにとっては期待に沿う事が何よりの喜びだ。信仰心が強いのもその現れだ。
だったらより現実的な対象から寄せられる期待の方が、彼女にとって優先度が高いに決まっている。
面白いくらい俺の意図通りに動き、そして俺の期待に応えようと必死になる。
エシャリほど俺の胸の中を堪らないくらいぞくぞくとした興奮に満たしてくれる者はいなかった。
俺は彼女の事が好きでたまらない。
俺の言うとおりにする事を選んだエシャリではあるが、信徒としての立場もあり、責任者である司教に最終判断を仰いだ。
「……わかりました。特例ですが、認めましょう。教義に反しますがコウスケ殿が従えた者は人に害意を持ちません。敵対者ではないと、ルファラ神もお許しくださる事でしょう」
当然だ。提案する前から分かっていた。分かっているから提案した。
俺をヘッドハンティングしようとしているのだから、司教の出す答えは決まっているのだ。
苦肉の策とは言え、魔物、つまり人間への敵対者を戦力に引き込もうと画策している者からすれば反対するはずが無い。まあ俺としては司教が何を言おうと無視して実行するつもりだったが。
エシャリはそこまで考えていなかったかもしれない。彼女はそのままで良い。
エシャリが外で族長からレクチャーを受けている間、俺は司教一団と世話になっているこの村の長者の家で依頼達成の手続きなどを済ませていた。すべての書類に記入を終えると報酬の一部が渡された。残りは街に帰ってから支払われる。
俺が司教から直接受け取ると、司教は笑顔を消して真剣そのものの表情で口を開いた。
「コウスケ殿、改めてご依頼いたします」
来た。おそらくこれが今回の本題だ。
俺も襟を正して、面と向かって司教の話を聞いた。
「聖戦に、参加していただきたいのです」