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新世界の神に俺はなる!  作者: レイモンド
第三部
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憑依!S系教育男子出陣! その12

 


 司教からの依頼は、実際に俺が魔物を使役している所を見せる事と新たに魔物を仲間に加える所を実演する事だった。

 それ以上の事は言わなかったが、その目で俺の能力を確認したら次は必ず俺を教会の傘下に加える事を目論んでいるに違いない。

 悪いがそれは俺の立てた筋書き通りだ。


 別に俺は大きなコネクションを持ちたいと願った訳ではないが、コネは大きい事に越したことはない。突然放り込まれた世界でこれからも上手くやっていくには好都合だ。

 それに妙な力を持った妙な人間を広く世界に受け入れさせるのはやはり大変な事だ。

 知能は優秀だが未熟すぎるゆえに独断に走る、他者との協調が取れないと言うような生徒の事例を何度だって経験した。

 当然その突出した生徒の、他者に理解させる努力を怠ったが故に鬱屈した性格にも問題はあるが、それよりもその生徒に対応できない周囲が非常に大きな阻害となるのだ。

 それをコントロールし本来の力を発揮させるには、指導する者が確実にその能力を見極め、それを適切に実行させる環境を与えなくてはいけない。


 正直言って今の俺はその存在、能力ともにこの世界にとって異端だ。

 神の力によって改造された元勇者「アミカ」の肉体を与えられ、不思議な能力を付与された。

 このままではまさに今出した事例と同じ道を歩むことになる。


 それを防ぐため、この世界において巨大な影響力を持つ組織を利用すると言うのは実に理に適った選択だ。

 ただそう言った組織に取り入るためには、事前に実績を作り、自分の持つ能力を目の前で披露すると言う二つのステップが必要だ。

 俺がこの世界に送り込まれてすぐにエシャリが教皇に合せようとしたのを止めさせた理由がこれだ。

 突然、死者がよみがえり異能を示したなどと言ったとしたら、まず間違いなくその場で処分される。

 力があったとしても、それが脅威と判断すれば切り捨てるだろう。組織が巨大であればあるほどにその可能性が高い。市教委も特殊な指導を行おうとする教師に対して掛ける圧力がすごかった。


 そのため面倒だがしっかりと手順を踏む事を選んだ。

 エシャリの部屋から街に出るまでが最大の難所だったが、そこをクリアしてしまえば後はご覧のとおりだ。


 エシャリと打ち合わせ、そして教会側で流れていたストーリーはこうだ。


 あの日エシャリは「アミカ」の墓参りに向かった。

 そこで見たのは崩れた墓地。穴が開いたようになったそれを見て、勇者が眠ると聞きつけた墓荒らしが現れたかもしれないと案じた彼女が教会の司教に相談。

 教会側の人間が崩れた墓地を直す事も兼ねて掘り起こしてみたところ、そこにあるはずの遺体が無かった。大して掘り返した形跡もないのに遺骨の一部も残さず持ち去られており、人間の手による物とは考えにくかった。

 教会の守る土地には神聖魔法による結界が張られていて、魔族や魔物が侵入すればすぐに分かるようになっている。よってその筋も消えた。

 遺体が自ら這い出しこの地を去ったと言う者、死した事で元の世界に戻ったと言う者もいたが、結局何故このような事が起きたのか説明を付けられないまま時間が過ぎていった。


 その事件があってから少しして、街の方で奇妙な新参のハンターがいると噂が立ち始めた。

 脅威である魔物をなだめ、これまで考えられなかったような魔物の使役を行っていると言うのだ。

 街は教会が管理しているので、結界が張られていて魔物の出入りはすぐにわかる。よって街に現れた新参ハンターは魔物ではなく人間である。


 それが一体何者なのか間諜を使って調べてみたが、記憶を失って彷徨さまよっている所を街の有力商家に助けられた流れの者であると言う事以外の素性は分からずじまい。調査を続ける中で特に魔王側に通じるような所も見つからない。能力以外に特筆するような事は無かったが、ただ、「アミカ」によく似ていると初めの頃に騒がれた。


 俺が街で見られるようになったのと、アミカの墓が荒らされた事件があったのはほぼ同時期だ。

異界から来たアミカとよく似た、素性の分からない俺。不可思議な能力も合せて、教会の興味を強く惹くのは無理もない。

 そして今日、実際に俺を見に来たと言うわけだ。


 ここまでほとんど、俺がエシャリと立てた筋書きの通りだ。

 スパイなどを用心して彼女とは一切連絡をとらないように徹底していたので、教会の事が今日まで分からないままだったのは一種の賭けだったが、思った以上にうまく事が運び安心した。


 エシャリが思っていたよりもずっとうまく芝居をこなしてくれていたおかげだろう。

 実際ギルドの応接室で俺と会った時も、実にエシャリらしい対応を初対面さながらに演じてくれた。本当にいい役者だ。

 彼女が勇者アミカに心酔していた事は有名なようで、そんな彼女の俺に対する姿を見て、教会側も一層に興味を深めたようだった。


 今日はこれまでに仲間にした魔物の中でも一番の脅威、グレートホーンを実際に使役するところを見せた。

 街の外で俺が笛を吹くと、遠方からもうもうと土煙をあげながらグレートホーンがやってくる。

 そこからはいつも他の魔物にもやっているように体に触れ、いろいろな指示を出してその通りに行動をさせる。

 獰猛で有名なグレートホーンが飼いならされた家畜同然の行動を取る所を見て、司教一行は強く衝撃を受けていたようだった。

 これだけでもほぼ合格点なのだろうが、司教は実際に俺が敵対する魔物を手懐ける場面を目にする事に拘っていた。何故かは簡単に想像がつく。魔界の脅威に晒されている世界情勢において、この能力は状況を一気にひっくり返す切り札になり得るからだ。


 その事をずっと隠したまま、司教は日を改めて任務を依頼すると言ってきた。

 おそらくその任務に成功したら、俺に対して正式に申し出てくるつもりだ。


 いいだろう。遠くない将来、平穏な生活から遠のく日が来るだろうが、あえてその策に乗っかってやろう。

 だがずっと教会の指示に従い続けているのも面白くない。

 交換条件を一つ飲んでもらおうか。


「そうだな…… それじゃあ、その日までそこのエシャリと言う娘をこちらに預けてくれないか? ダメならこの話は無かったと言うことにしてくれ」

「エシャリを、ですか? また何用で?」

「いや、特に用事があるって事じゃない。一目惚れだ」


 司教はわずかに考えたが、天秤が傾く事はない。


「わかりました。それでは後日ギルドを通しご依頼を届けます。エシャリ、くれぐれも粗相の無いように気を付けなさい」

「は、はい! コラン司教、ありがとうございます!」


 答えた彼女の声はわずかに上擦っていた。




 司教一行が彼女を置いて帰ってしまった後、俺達二人は久しぶりの再会を喜んだ。



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