憑依!S系教育男子出陣! その11
「あらぁ? コウじゃない。ひっさしぶりね!」
「ホント! もっとうちに来てよぉ。そしたらサービスしてあ・げ・るっ」
「イリャ! 抜けがけは卑怯って言ってるでしょ!」
「あー、こう言うのが苦手なんだ。だから来ないんだ。もっと落ち着け」
「もう、いけずなんだからぁ」
いい加減体を擦り付けてくるのは止めろ!
何でマスターはこの店を選んだんだ。そもそも妻子持ちだろう!
「ははは、コウスケは本当に釣れないな。いやなに、こう言う店は存外大物が密談するのによく使うんだ。口止めがしっかりしているし、妙に噂が立つことはない。少し込み入った話なんでな」
そう言うとマスターはひとつの封書を俺に手渡した。話からすれば重要書類の可能性が高い。
だと言うのに胸や腿を強調した格好をしたイリャとムーシカと言う娘達が左腕と膝元に擦り寄っているままだ。しかし二人とも俺の手に取られた書に見向きもしていない。
なるほど、そう言う風に教育されているんだな。
「……なるほど。で、いつなんだ?」
「届いたのは今日の朝。お前に声をかけた後でギルドから使いを出した。急だが明日の昼前に司教様の一団がいらっしゃる予定だ」
「そうか。……人気者は辛いな」
「ははは! 言うようになったな!」
ついに来たか。そろそろ頃合いだと思っていたが、タイミングがいいな。
エシャリが上手くやってくれていれば非常に強い説得力を持たせることが出来る。
「もー。何? 新しいオンナの話?」
「こんないいオンナの相手もしないで、ヒドイ話ね!」
「まあ、遠からずも近からずってところか。ルファラ教会が俺に会いたいらしい」
「へぇ~。コウはイイオトコだし、司教様のお抱えにスカウトってとこかしら?」
「えー! コウってアッチ系だったの? あ、だからあたい達に見向きもしてくれないの?」
「それじゃあ、今夜はアタシ達が女のよさをたっぷり教えてあ・げ・るっ」
「馬鹿を言うな。俺は完全にノーマルだ。男娼になれって言われたら自害するね」
「きゃははははは! それじゃ、今夜はあたいの相手してよぉ」
「ムーシカ! アタシの方が先に目ぇつけてたのよ!」
思わずため息が出てしまう。こう言うやりとりは本当に苦手だ。
もっとも教育を受け直させたくなる瞬間だ。だがこの店はこう言う店だと分かっている。適当にあしらうに限る。釣れたらよし、釣れずともよしだ。
注文していた蒸留酒をくっと煽り、テーブルにグラスを置くとソファーの背もたれに深く身を預ける。俺に寄りかかったままの二人の女を見下ろすようにして口を開く。
「両方ともじゃダメか?」
「まっ コウってば! それは欲張り、ヤりすぎよ!」
「今夜はこ・れ・だ・け」
そう言って俺の頬や胸元にキスしていく。
俺だって男で、スケベ心はいくらでも持っている。だがこう言う女はどうしても苦手だ。かと言ってナメられるのも我慢ならない。
時間をかけて調教すれば変わるかもしれないが、いくら俺でもそのためだけにそこまでするほど気は長くない。
翌日ギルドに行き、応接室でマスターと一緒に司教を待った。
しばらくするとノックがあり、受付嬢がドアを開けて訪問者を導いた。
威厳ある前垂れをつけたローブと飾り刺繍を豪華にあしらった大きな帽子を被った中老齢の男性が付き人三人と入ってきた。おそらくこれが司教だ。地球のキリスト教もこんな感じだったな。文化と言うのはどこか似てくるもののようだ。
付き人は男二人と女一人だ。顔を隠すようにヴェールをの付いた質素な帽子を被っている。
全員が俺の方を向き、先頭の司教が恭しく礼をし名乗り始めたときだった。
「あ…… アミカ様?!」
付き人の一人が司教の声を遮り、俺の方に駆け寄ってきた。
間違いない、司教に同伴している女はエシャリだ。
「エシャリ、下がりなさい」
「ですがコラン司教! この方は……」
「アミカ殿は亡くなった。お前が一番よく知っているでしょう? こちらの方は別人です。よく見なさい、男性ですよ」
「ですが…… 失礼、いたしました……」
本当にこの娘は優秀だ。手放したくない気持ちがさらに強くなる。
エシャリの迫真の演技に合せて俺も初対面の体を貫き、改めて司教の方に向き合った。
「当教会の修道女が失礼いたしました。今日は貴方にお願いがあって参じたのです。よろしいですかな?」
用件は何となくだが察しがつく。
さあ、ここからまた忙しくなりそうだ。