憑依!S系教育男子出陣! その9
俺の魔物使いの能力によって友好化したアグリードワーフ達は、俺の質問にいろいろと答えてくれた。
街道に沿ったあの柵はここのアグリードワーフが設置した物だ。
泉の近くに出来ていた集落も、彼らがわずかな期間で作り上げた。
持っている道具も彼ら自身で作った物だそうだ。
ここに来てからはまだ出来ていないが、もともとの生息地では金属加工も行っていたと言う。
十分な技術も文化も持って不自由なく暮らせていたのなら何故移住する必要があったのか。
すると彼らは意外な事を言った。
「そりゃよお、オメェ。人間に追い出されたんだ」
「オラぁ達普通に暮らしてただけなんだげどよ、急に大勢でやってきてよ」
「女子供も殺そうってんだ。オラぁ達、命からがらこごさ逃げてきたってわけだ」
「そりゃよお、オラぁ達だって魔界の端に住んでたからよお。人間の里の方にも行くごたぁあったべさ。でもよ、人間みたら追っ払うぐれぇで、逃げるヤツの命まで取らね。里も襲わね。それがオラぁ達の流儀ってやつよ」
「人間怖かったべさ、なぁ!」
「おお! すげえ形相でこっち来っからよ!」
何か、魔族との戦争中だからとはいえ不憫な思いをしたんだな。
関係ないとはいえ、それを聞いた俺はこのアグリードワーフを無理に追い出すのが酷な気がしてきた。しかしこのままだと任務未達成で報酬はおろか、ランクDの依頼もこなせない低級ハンターと烙印を押されかねない。
これだけの集落を作ったのに気の毒ではあるが、しかし町の人達にとってもこの泉は重要な資源だ。移住させる事はできないだろうか。
「子供や病人にゃ魔界の方がええんだげどよ、住めねぐなっちまったがらなぁ。こごさでねぇと、なぁ!」
「なんで魔界から離れたここなんだ? 他の水場ではダメか?」
「んだ! 悪ぃちゃ思うとるんだで? んでもオラぁ達追い出したんは人間だで、こん位ぇは我慢してくれちゃ」
「だから何でなんだって聞いてる。討伐依頼はお前達の蒔いた種だからな」
「お、おう。そら、このコケがあるからだぁ。これが生えてるって事ぁその土地に質のええ魔力が流れとる証拠だ」
デンゴと言うアグリードワーフが木の根元を指差して答える。うっすらと苔がむしていて、ほんのり発光している。
「魔界ならどこでも生えてるんだげどもよ、人間界には少ねぇなあ。こごさ見つけるまで大変だったんだべ?」
「子供や病人にはこういう土地でねぇとな」
「んだんだ! 魔界は暮らしやすかったなぁ」
「んだ! 魔王様のおかげだで!」
「今度の魔王様はとびっきり美人だしなあ!」
「勇者二人も倒して強さもすげぇんだで!」
魔王か。この体の持ち主「アミカ」も戦った相手だったな。
「お偉いさんの始めた戦争はイヤだけんど、人間追い出さねば平和に暮らせねぇで、しょうがねぇべ」
「んだんだ。人間怖ぇかんな。でもコウスケどんは人間だげど、悪ぃヤツでねぇだ!」
エシャリから聞いた内容と真逆である事に疑問を感じたが、人間にも魔物にもそれぞれの言い分があるだろう。
神からもこの世界の情勢の事を詳しく教えてもらっていないため、俺がこの目で確かめて行動していくしかない。学校教育と同じだ。
とりあえずは目下の課題を解決しなくてはいけない。
幸い能力のおかげで彼らは俺を敵対する人間とは思っておらず、俺の言う事をよく聞いてくれる。
俺の命令なら拒否しない可能性が高い。
地球でのノウハウを活かしてみるとするか。
「そうか? 人間はお前達を怖がってるぞ?」
「んなわけねえだ! 怖ぇえならオラぁ達の村を襲わねえべ! 関わりたくねえべ?」
「魔物の中には人間を好んで襲うヤツもいる。お前達も魔物だろう?」
「んだ。魔界の方が生きやすいしな!」
「だったら人間はお前達も同じように襲ってくるって思うだろうな。襲ってくるようなのが近くに来てほしくないだろ?」
「そうさなー。オラぁ達も人間が襲うかもしれねと思ってっからなー」
「な。襲われるかもって思うから攻撃するんだ。ならお前達は襲わないって思わせなきゃ変わらんぞ」
「そうさなー。じゃあどうすんべ?」
ノウハウと言っても子供に言い聞かせるだけの初級会話術なのだが、根が素直なだけに簡単に通用する。向こうから助言を求めてきたので、後はこちらの提案を実行させるだけだ。
柵を街道沿いから森の外周に移し、森の中に泉までの道を作る。
狩猟区を決めて、それ以外の場所には罠を仕掛けない。
森に入ってきた人間を追い払わない。
人間が入ってきたら出来るだけ集落に身を隠す。
まずはこれだけをやらせる事にした。
人間から攻撃してくる事を心配していたが、俺が人間の方に説明をするからと言う事で納得させた。
本当ならばこれだけの技術のある彼らを早期にもっと活用していきたいところではあるが、順を追って自主的にやらせるように仕向けていこう。
とりあえず作業を始めさせ、俺は一旦町に戻り、ギルドマスターに報告をした。
翌日、俺はマスターと一緒にまたワツヒの森に向かった。
柵はすっかり森側に移動し、新しく出来た泉への道の前には入り口がある。
森の中の道の脇の木々は伐採され、通りやすいよう分かりやすいように整備されている。
非常に仕事が速い。このアグリードワーフ達はとても優秀だ。
「これを、君がやらせたと言うのか……?」
「ああ。話の分かる連中で良かったよ」
マスターは信じられんと何度も呟いていた。
マスターもそこそこ鳴らしたハンターだったと言う。森に入ってからはマスターから感じる気配が確かに大きく変わり、ハンター経験者だった事を強く感じさせた。
しかし当然アグリードワーフが襲ってくる事はない。
言いつけ通り集落に戻っているのだろう。
何事もなく泉のほとりに到着した。泉の対岸にはずらっとアグリードワーフの住み家が立ち並んでいた。
昨日見たよりも数が増えている。どうなってるんだ、こいつら……
「こ、こんな数……! これがすべてアグリードワーフの物だと……?」
「ああ、そうだ。何か昨日よりも規模がデカくなってるけどな」
「これの任務ランクはB以上だ……。何て事だ……」
「調査班は何してたんだ?」
「む…… すまん、コウスケに回したのは俺の落ち度だ」
「いや、良いんだ。彼らにとってもそれが幸いだったと思うからな。おーい、俺だ! みんな大丈夫だぞ!」
俺が声をかけると家々からぞろぞろとアグリードワーフ達が出てきた。
誰も武装をしていない。
「おう、コウスケどん。この人間は?」
「ああ、この人は街のハンターギルドのマスターだ。この人が今回俺に依頼をしたんだ」
「するってぇと、コイツがオラぁ達を追っ払おうとしたんだな!」
「ひでえ奴だ!」
「オラぁ達行き場もねぇで困ってんのに!」
めいめいがマスターを非難する。気持ちは分からんでもないがこれでは話し合いが拗れてしまう。
本当に地球の生徒達と何も変わらない。切羽詰っていたのだろうが、幼稚と言えば幼稚だ。
「まあ落ち着け。今日はこの人にちゃんとお前達に敵意が無いってことを分かってもらって、街の人間と上手くやっていけるようにしてもらうから。マスターの言う事をちゃんと聞くんだぞ」
「おーう」
……さっきまで怒ってるヤツもいたのに、俺の一言ですぐに治まった。
これは俺の能力なのか? それとも彼ら自身の気質なのか?
よくわからないが、こうして俺の初任務は異例尽くめで幕を閉じた。