憑依!S系教育男子出陣! その8
「よし、ザフとボーゴは何人か見繕って柵の移動と修繕だ」
「おーう、あんなモンまーたすぐ作ったるでよー」
「今度は入り口も作るんだぞ」
「入り口? んなモンこさえたら人間が勝手に来るでねーか。コウスケどんが来たら、そこ壊して入ってもらってまた作りなおせばいーべ? 朝飯前だぁ」
「いいから言う通りにしろ。悪い事にはならん」
「コウスケどん、オラぁ何をすたらええんだす?」
「今ある仕掛け罠を全部外せ。森全体に散らばせ過ぎだ」
「んでも、それじゃ獲物とれねーべ」
「狩りをするなって事じゃない。危ないんだ」
「危ない? オラぁ達にゃどこに罠があるか全部わかっとるで平気だ?」
「お前達がじゃない、俺がだ。まず外して、改めてポイントを絞って仕掛け直せ」
「んでもよー」
「いいからやれ!」
「おーう」
見た目はいかつく明らかに魔物っぽいが、アグリードワーフ達は素朴で指示によく従いよく働く。訛りはあるが言葉も通じ、手先も器用だ。
街道に沿って設置されていたあの柵はここのアグリードワーフが作った物だ。
なぜか早くも馴染んでしまって、ただの小さいおっさん達にしか感じられなくなりつつあるが、ちゃんと魔物だ。
最初は彼らも俺を見て襲ってきた。
森で見つけた狩りを終えた三人組の後をつけていった。三人だけではなくまだ仲間がいる可能性もある。どうせやるなら住み拠を特定して一網打尽に、と考えたからだ。
彼らが出たのは泉のほとりだった。そこにはなんと集落があった。
依頼任務がランクDだったので俺は敵は少数だろうとすっかり思い込んでいた。
とんでもない。個体数が百を超える集落だ。
泉の周りの木々はきれいに伐採され、簡単な家屋が作られている。
水汲みをしたり、火を起こしたり、狩りの獲物を捌いたり、もう完全にアグリードワーフの村だ。
これはどう考えてもギルドの調査不足、職務怠慢だ。出現したのがこの辺にあまりいないと言う低ランク魔物のアグリードワーフだからと言うことで、ろくに調査もしなかったに違いない。
だが俺は怯まなかった。うまくいかなくてもここなら逃げる算段も立てやすい。
どうどうと正面に飛び出し、集落に向かっていった。
「に、人間だぁ!」
「追い返せぇ!!」
近くにいた十人くらいで徒党を組み、それぞれ金属製の武器道具を手にして襲いかかってきた。
しかし俺は逃げない。
「アイスストリーム!」
俺の得意の冷と風の魔法の組み合わせだ。
都合のいいことに近くは水場だ。
つむじ風で巻き上げた細かい水滴を瞬時に凍らせ、さらに霧状に撒き、魔物達を取り囲んだ。
気温は一気に下がっていく。同時に襲ってきた魔物の体温も奪い攻撃性を下げた。
このまま威力を上げていけば凍死させる事だってできる。
だが目的は殺傷する事ではない。実証だ。
動きが鈍ったところで彼らを包んでいた氷の渦に飛び込み、俺は右手を前に突き出した。
襲ってきたアグリードワーフ一人一人と目を合わせると、敵意のあった目付きが速やかに穏やかになっていった。
「な、なんでぇ。別に悪ぃ人間じゃなかんべ?」
襲ってきた全員がすぐさま得物を下し、集落の同胞に向かって落ち着くように声をかけ始めた。
本物だ!
確かに俺には魔物の怒気を抜き、従わせる能力が与えられている!
あの記憶を散々疑っていたが、あの老人は言っていた通り神だったのだろう。
この世界の”ルファラ神”かどうかは確かめようがないが、これは間違いない!
俺は魔物使いと言う能力を身に付けている!
初めて魔法を使えた時よりも強い興奮が俺の中を電流のように駆け巡っていた。
一体この能力の効果や範囲はどれくらいの物なのだろう。
試したい事はたくさんある。