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新世界の神に俺はなる!  作者: レイモンド
第三部
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憑依!S系教育男子出陣! その7

 ワツヒの森にある泉までは街道に沿って南に徒歩でおよそ1時間。


 1時間と言ってもそれが地球の1時間と同じかと言われると分からない。

 1日は地球と同じく24等分されているのだが、俺は体感時間に自信がないタイプなので単位が同じでも同じ長さであるかは不明だ。

 ちなみにこのルファラの一年は360日で地球よりもわずかに短い。


 延々と歩き続けて行くが特に日陰もなく、水場も近くには無い。

 携帯している水を一口含んだ後で蓋を締め、腰に吊るし直した。


「それにしても皮袋の水筒か……。慣れるといいが」


 思わず愚痴が漏れる。加工されているおかげでほとんど気にならないとは言え、わずかに残る薬品の異臭が鼻をつく。

 日本でも飲用可能とは言えカルキ臭の酷い水道水もあるが、やはり日頃から慣らされている為かこの水筒の水に付いた臭いに比べたらマシな方だと感じてしまう。


 だんだんと森に近づいているが、若干街道の様子が変わってきた。

 すごく荒削りに柵が作られている。森を囲うように続いている。街道から森に立ち入れないようにしてあるようだ。

 ただ、柵としては低い。高いところでも俺の胸元辺りまでしかない。

 アグリードワーフが街道へ出てこないようにするため、か?


 現時点では街道を進む商隊が襲われたというような話は無かった。

 被害と言えば泉に生える薬草を摘むためや、狩りのために森に入った者達が魔物に見つかり、酷く威嚇されたために逃げ帰ったと言う程度だ。

 そのため討伐隊が編成されて掃討任務が行われると言うような事態になっていなかった。

 被害が広がっていないのはこれだけの柵を設置した素早い対応の賜物だろう。

 それならば先に討伐すれば費用もかからずに済んだだろうに。


 しかしワツヒの森は多数の薬草が取れる他、狩りの獲物から様々な加工品を作ったりと、資源が豊富で重宝される恵みの森だ。そこにいつまでも魔物が棲みついていては都合が悪い。

 とりあえず行動範囲が周囲に拡大していくのを未然に防ぐため、討伐はギルドのハンターに任されたと言うわけだ。


 任務のランクがDであるように、アグリードワーフはそれほど危険な魔物ではない。

 手練れのハンターからは雑魚の一種としか認識されておらず、当然報酬も低い。

 ただ一般人からみたら魔物は魔物。それも武器を手にするのだから町のチンピラ、またはそれ以上の危険性はある。

 初心者ハンターにとっては良い実戦訓練相手であるとマスターは言っていた。


 俺はこんなスポーツマン的な体格を得たが、格闘技系統は一切やった事がない。

 折角肉体に恵まれたようなのだが、武芸を物にするのはそんな一朝一夕な事では無い。

 かと言って時間をかけていくわけにもいかず、とりあえず俺は基本的な攻撃魔法を学んだ。


 ルファラの魔法の基本は火、冷、風、土の四属性。俺はそのどれもを普通に使う事が出来た。

 俺が得意なのは風と冷のようだ。

 基本以外のレア属性はほとんどが生まれもっての性質で決まっているようで、通常は使えないか、訓練を重ねて使えるようになったとしても適性者の威力に及ぶことはない。

 レア属性は、閃光、暗黒、神聖、死霊の四系統。

 神聖魔法はこの中で唯一訓練の末に使えるようになる事がある系統だ。ルファラ教徒の司祭以上の者に使い手が多い。

 死霊系は現在の人間に使える者はいない。魔族のごく一部に限られる。

 この辺りはあの神からもらった知識だ。


 もう森は目と鼻の先だ。

 森の泉はこの柵を越えていかなければ行けない。

 飛び越えるには高く、かと言って乗り越えようとしても先端が杭のように尖らされている。

 仕方がないので魔法で一画を焼き、穴を作って侵入した。俺が通ったあとはしっかりと消火した。


 森の奥に泉はある。

 近くに獣の気配はないが、鳥はよくさえずっている。

 緑の匂いが爽やかに胸を満たし、強い日差しは生い茂る葉に適度に遮られてとても心地よい。

 街の人達がこの森を魔物の手から取り返したいと思うのも理解できなくはない。


 今ここを占拠するのは魔物だ。武器を持つ知能もある。

 手練れのハンターは雑魚と一蹴しても、何らかの罠を仕掛けている可能性はある。用心しないといけない。


 進んでいくと何やらがさがさと音が聞こえてきた。

 さらに、ひょぉーとやや高い音が響き渡った。

 件のアグリードワーフかと用心し姿勢を低くして身を隠したが、その音は一向に近づいてくる様子はなく、また離れていくようでもなかった。

 慎重に音源に向かって足を進めると、宙吊りになった獣がいた。


 鹿……ではなく、馬……でもない。

 羽毛がびっしり生えた、四本足の蹄がある生き物だ。


 この世界にも馬はいた。厳密には地球の馬とは違うのだろうが、本当によく似ている。進化とは不思議な物だ。突きつめると同じような形になるらしい。だがこの獣は明らかに違う形をしていた。

 ともかく、この獣は後ろ足をロープに取られてしまい、じたばたと暴れている。

 助けてやりたいのもやまやまだが、いかんせん道具もない。

 とその時、茂みが揺れた。急いで身を隠して様子をうかがうと、その茂みの奥から茶色の三角帽子をかぶった、小さな物が出てきた。

 パッと見、人間だ。

 だが顔はいかつく、耳がとがり、髭が生えている。肌はやや緑がかっていて、そしてやたらとガタイが良い。


 おそらくこれがアグリードワーフ。三人だ。


 それぞれが手に道具を持っている。一人が槍状の物を手に取って、宙吊りになっていた獣の下に立った。

 そして獣が暴れるのを止めたわずかな瞬間を見逃さず、喉元から真っ直ぐ心臓に向かって一突き。獣は血を口からこぼして静かになった。

 もう一人がするすると木に登っていって、獣を吊るすロープを切った。獣はそのまま下に落ちたが、そこにはいつの間にか担架が広げられていた。最後の一人が持ってきていた物のようだ。

 槍の刺さった傷口からどんどん血が滲んでいくが、そこに詰め物をしてそれ以上血が垂れるのを防止した。そこまでの処理を終えると、槍を手にした者が先導となって担架に乗せた獣を運んでいく。


 俺は正直驚いた。

 ランクの低い魔物にも関わらず、人間と変わらず非常に高度な社会性を持っている。知能が低いわけでもない。

 個体のランクによって種族全体が低評価を受けているが、実はとんでもない脅威なのではないか?


 だが同時に、俺は”ありがたい”神様からのサービス能力とやらを試してみたい衝動に強く駆られていた。


 神の奇跡でこの体は女から男へと変化した。

 言語などの基本的知識も、目覚めた時から頭の中にある。


 となるとサービス能力も実際に使えるのだろう。

 もしそうであれば、これは大当たりなんじゃないだろうか。




……あくまで俺にとっては、だが。





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