憑依!S系教育男子出陣! その4
はっきり言って驚いた。
この体はもともと”地球”から来た女の物だと言う。
しかも”勇者”だと? 何の悪い冗談だ。
だがしかしあの神を自称する老人、アイツは俺を送る世界には魔法や凶暴化した魔物が普通に存在すると言っていた。
今でこそ現実社会に通用する人材を輩出するべく教師をやっている俺だが、学生をやっていた頃は人並みにゲームをやったりしていた。それもあって魔法があったり魔物がいたりするような世界に勇者は付き物だとすんなりと受け入れられた。
だが考えるに、勇者が必要とされるくらい情勢は荒れていると言う事が容易に連想される。
一体どのくらいの状況なんだ?
「あの……」
そうだった。目の前の褐色美少女の事をすっかり忘れていた。
「貴方は、一体どなたですか? 何故アミカ様のお墓から現れたのですか?
これは…… 事と次第によっては悪戯では済まされませんよ?」
う、なかなかの迫力だ。きれいに澄んだ碧の瞳が俺を強く睨みつける。
どう説明すれば理解されるだろう。あまりにも突拍子がなさ過ぎて信じられるとは思えない。
はじめはいきなりのことに驚いて従順な様子を見せていたが、この少女には非常に強い芯が通っているのが簡単に感じ取れた。この体の持ち主である勇者に対する思いは信仰に近いだろう。
こう言うタイプの人間は非常に厄介だ。
だが心をとらえる事が出来さえすれば、誰よりも力を発揮するタイプだ。
であれば、ごまかしたり煙に巻くのは良くない。理解できるかは問題とせずにすべてを打ち明けるのが正しい。たとえ突拍子のない話だとしても。
「俺は地球で命を落とし、神によってこの肉体を与えられた者だ」
「地球? アミカ様の故郷と同じ地球ですか?!」
共通項に食いついてきたな。
話を聞いてくれる態勢になっているはずだ。あとは核心から話せばいい。
「ここはルファラで良いのか? その神は自分と同じ名前の世界に送ると言っていたんだが……」
今度は無言でこくこくと頷いている。
正直かわいい。とても素直で高いポテンシャルを秘めていそうだ。これは教育のしがいがある。
「る、ルファラ様から遣わされた方とは存ぜず、大変失礼いたしました!」
ルファラ”様”? あの老人、本当に崇められているのか。
あんなノリの軽い神だと知ったら信者は卒倒するんじゃないだろうか。
「あの…… ですがそのお体は……」
「ああ、これか? 神がもともとの性別に作り替えると言っていたのでこうなったんだろう。性別が変わると体の動かし方や体調の管理も全く異なるだろうからな。ん……? どうした?」
「い、いえ! 私の知るアミカ様は女性でしたから、男性になったらこんなお顔なんだなー、と……」
なるほど、この少女は同性ながら勇者に恋心に近い物を抱いていたようだな。
それならなおの事、俺の指導を受け入れるのに抵抗は無いだろう。
元の素質がかなり高いのだから非常に良い人材に成長するに違いない。
「戸惑わせて本当に申し訳なかった。俺は崎山 耕輔と言う。良かったら君の事を教えてもらえないか?」
「私はエシャリ、エシャーベスト ワーワル。ルファラ教の修道女です」
なんとあの老人、しっかりと宗教まで持っていた。
これは本当に大事になってきているような気がする。
偶然だったとしても、普通に地球の感覚に照らし合わせても大きすぎるファクターが早くも揃いまくっている。
「あの…… どうしました?」
何がよいセカンドライフを、だ。
もともと重い感じを覚えていた頭が更に重くなる。
眉間を押さえながら小さく呻き声が出てしまった。
あの老人、とんだ食わせものではないだろうか。
俺の知らないところで、何か大きな歯車が回っているのを感じた。