憑依!S系教育男子出陣! その3
「ん…… ここは?」
「え……? きゃあああああ!」
お、おいおい。何とか這い出してみたら、とんでもない悲鳴で出迎えられた。
こっちは目覚めたばかりで頭が痛いんだ。静かにしてくれ。
しかも必死に出てきたところなんだ。
目覚めてみたが、そこは真っ暗闇だった。
神とか名乗る老人に会って、いきなり死んだと言われ、特別な能力を与えて異世界で別人の体で人生をやり直させる、なんて与太話をされたような覚えがあった。
夢でも見たか?
何て馬鹿げたことを、と思ったが、記憶にない景色や文字や言葉が俺の中を駆け巡る。あれが夢なのか現実なのか分からなくなってきていた。
とりあえず現状を把握しなくては。起き上がろうとしたが、俺が寝ていたところはやけに狭い。
寝返りを打ったり、がんばれば頭と足の位置を変えたりすることくらいならできる。
手を伸ばすとすぐに天井にあたる。さらに上下四方がすべて固く、石のような感触だ。
もしかして箱の中、か?
俺は死んで、さらに別の世界の死んだ女の体に乗り移らされた。
与太話と思っていたことが現実味を帯び始める。棺の中と言うなら合点がいく。
このままでいられるはずが無い。この箱の中からなんとか脱出しなくては。
押しても叩いてもびくともしない。
うつ伏せになり、両手両足に力をいれて背中で押し開けようとしてみた。かなり力を込めたら天板がバキリ、と音を立てた。ひびが入ったのか?
俺が力を緩めると天井から多量の土砂が流れ落ちてきた。
埋められていたのか!
幸い浅かったようで、土砂に埋もれはしたが大したことはなく、すぐに脱出できた。
考えてみれば十分に考えられる事態だ。目覚めたばかりで、しかも意外な事の積み重なりで正常な判断が出来なくなっていたようだ。今後こんな事は無い様にしなくては。
光だ! すごく久しぶりな気持ちがする。
土にまみれながらも爽やかな外気を胸に吸い込むと、ふつふつと生きていると言う実感がわいてきた。
しかし寝過ぎた時のように頭が重く、少し痛い。
やや呻きながら周りを見渡す。
その時俺のすぐそばから悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴を上げていたのは、金色の髪に小麦色よりももう少し濃くしたような肌の色をした緑の瞳を持つ女性だった。
まだ若い。俺の生徒達よりもやや年上くらいだろうか。
さして厚手でもない布地の服に身を包み、胸や腰つきなどは立派に女性を表していた。
初対面の人に対してもそう言うところに目が行ってしまう事は失礼に当たるかもしれないが、男である以上仕方がない。
「あー…… 君。ここはどこだ? ルファラってところで良いのか?」
「あ、アミカ様……? アミカ様!!」
俺を見て恐怖にも似た表情で驚愕していた女はだんだんと落ち着き始め、そして今度は信じられない物を見たと言わんばかりに目を丸くし、突然立ち上がって俺に抱きついてきた。
ずっと同じ名前を連呼し、泣きながらすがりついている。
これだけ美しい女性に抱きつかれて嫌な思いがするはずもないが、完全な人違いだ。訂正しなくてはならんだろう。
「あー。何か勘違いしているようだが、俺は君の知っている人間じゃない」
「そ、そう言えば…… アミカ様よりもずっと声が太いです……」
そう言って彼女はぺたぺたと俺の腕や腹を触り始めた。
「確かに腕も太くて、体も逞しく…… あの、失礼しますっ!」
突然彼女は俺の胸板に手を伸ばし、まさぐるように動かした。
「……殿方、ですね。大変なご無礼をお許しください!」
そう言うと俺からばっと離れ、深く頭を下げた。見た感じの年齢からは想像できないくらい礼節のしっかりした人物だ。今の日本人の少年少女がなっていないだけか?
今の彼女の行動と発言で、だいたいの事がはっきりした。
アレは俺が見た夢や妄想ではなくて現実だ。
記憶にない景色や言語は今俺が居る世界の物。
女の体を男に作り替えると言った自称神の言葉。
やっぱり俺は地球で死に、新世界「ルファラ」で別の人間として甦ったのだ!
だがどうしても気になる。俺の体のベースになった女と目の前の美少女は因縁浅からぬ関係だったようだ。ではこのベースの人間は一体どう言う人物だったのだろう。
「あの、すまないがその『アミカ』とはどう言う者だったんだ?」
一瞬きょとんとした顔を見せたが、従順に質問に答えた。
すばらしい、このようにすべてを兼ね備えている人間はそうはいない。
初めて触れる異世界で、さっそく俺が理想とする人材に出会えるなんてツイている!
だが俺の質問に対する女性の回答は、俺を二度驚かせた。
「アミカ様は…… 地球と言う異世界からいらっしゃった”勇者”です」