憑依!S系教育男子出陣! その2
ん? ここは……
辺り一面が白い。全体、特に足元に濃い霧のような物が立ち込めている。足場は何だかふわふわと不安定だ。
どこなんだ、ここは……
俺は確か課外授業で登山に行き、そこで……
そうだ、滑落したんだ。
いや、押された。間違いない。事故ではなく、俺の生徒達に谷底に向かって突き飛ばされたんだ!
一体誰だ、俺を突き飛ばす計画をしていたヤツらは……
くそ! あいつら、これから社会に出てから俺の教育の恩恵を存分に受けていくと言うのに。まだ不完全なままで何を考えているんだ!
嫌われる事なんて百も承知だ。だが厳しい指導がある事で拓ける未来の方が遥かにデカい!
そんな事に考えも及ばず、この年齢で明確な殺意を抱いて実行するなんて軽率すぎるだろう!
悪ふざけにも程がある。絶対に矯正してやる。
俺にはお前達を導く義務があるんだ!
しかし、本当にここはどこだ? 病院でも、転落した山中でもないぞ?
「いやー、すまんすまん! 手違いでお主を死なせてしもうた!」
なっ?! 死んだ? それも手違い?!
と言うか、お前は誰だ!
「ワシ? ワシは神様じゃよ」
神? キリスト教とかのアレか?
「キリスト教と言うと、唯一神信仰の教えじゃな。それの神とはちょいと違うのう。
神と言うのはいくらでもおる。
それぞれがそれぞれの民に恩恵を与え、試練を課し、そしてより幸福へと導いていく、独立行政なんじゃよ。
ただお主のおった地球にはワシの直接管轄部分は少なくてな。別の世界の方でメジャーなんじゃよ。
ワシが受け持っとるところでたまたま、そう、たまたまお主がおっ死んだんで、こうしてフォローにきたわけじゃ」
死んだ…… それは本当か?
「マジじゃ、マジマジ。大マジじゃ。
足元のそれ、雲じゃよ。
と言うかこの場所自体が地球とは別の次元にあるんじゃ。生きては来れんでな。
だがのー、お主の死はイレギュラーだったんじゃ。
本当なら途中の木の枝に引っ掛かって助かるはずだったんじゃよ。
それがまさかまさか。気を失ったところにスズメバチの巣があっての。お主、以前一回刺されとったじゃろ? 二撃決殺じゃわい、さすが日本で最も人間の命を奪う野生動物!」
ば、バカ野郎! 神だかなんだか知らんが、管轄内で手違いで殺しておいて悪びれもしないだと?!
「そ、そんな剣幕で怒らずともよいじゃろ…… さすがに申し訳ないと思うて、こうしてチャンスを与えに来たんじゃし……」
俺は、これから俺の教育で世界を良くしていこうとしていたんだぞ! 俺を失って世界は大きな損失を被ったんだ。保障するのは当然だが?
「初対面の神に向かってその物言いが出来るのは大したもんじゃ……
本当ならこの時点で全部ナシにしたいとこなんじゃが、ワシに落ち度があるからのう……
で、お主の望みを一つ叶えてみせるから、何なりと希望を言ってみ?」
そんなの決まってるだろ、生 き 返 ら せ ろ
「地球に?」
当然だ! これから俺はやることがあるんだ!
「すまんのー。もうすでにお主の魂が抜けた部分に別の世界の魂が入ってしもうての、地球には戻せんのじゃ。
手違いとはこの事なんじゃなっ てへっ!」
は? それなら俺はどうしたら良いんだ?!
手違いで殺され、戻ることもできないだと?!
ふざけるのもいい加減にしろ! てへぺろとか気持ち悪いわ!
「だ、だから別の世界でお主の夢を叶えてはどうかなー、と……」
そうか、なるほど。
「で、物件の相談なんじゃが……
生まれ直すのと、それとも近く亡くなった者の体を利用するのとどっちにするかの?」
うーん…… 生まれ直すと結局成長してからしか何も出来ないよな…… そうなると体の再利用だろう。
最近死んだと言うのは何歳の者なんだ?
赤ん坊や老人では困るんだが……
「優良じゃ! 幸い損傷もほとんどなく、十七歳のぴっちぴち!
身長174cm、体重53kg、スリーサイズは上から82、60、87のクールビューティーじゃ!!」
……ちょっと待て! 背が高いけどそれ、女だろ!
「そーじゃよ?
なにか問題でも?
あー、残念ながらビッチじゃったんでそう言うご希望には沿えんぞい」
いや、そう言う事ではなく、男の方が良いんだが…… 身体構造があまりに違うとその……
「あー、そうさな。大丈夫じゃ! そこらへんは神の奇跡で!」
男に出来るのか?
「もちろんじゃ! 神様ナめたらアカンぞ?
ただ、改造のためには体に入って一年ほど休眠してもらわんといかんが……
あー、もちろんその間にその世界の言語とかの基礎知識もぶち込んでおくから安心して良いぞい!」
それなら、入れ替わりの方で頼みたい。
「オッケーじゃ!
あとはサービス能力じゃのー……
もともとこの体の持ち主は変わった体質をしとったんじゃが、死んでしもうたのでそれは全部無くなっとる。どんなのが良いかの?」
そうだな…… 誰をも教育して理想の道を歩ませる能力と言うのはできるか?
「なかなか妙ちくりんな能力を希望するのう……
うーむ。
あ、これは先に言っとかないかんかったな。
これからお主の行く世界には魔物がおったり魔法があるぞい。
あー、心配せんでいいぞい。その世界では人間も魔法を普通に使っとるでの。
ただ危険なことに、最近魔物が理性を失って凶暴になっておる事が多いんじゃ。襲われる事もあろう。身を守る能力は必須じゃな……
……そうじゃ! 魔物を指導する能力と言うのはどうじゃ?!
魔物に正しい道を歩ませるというのは誰も成したことの無い偉業じゃぞ!」
それは良いな! ぜひ頼む!
「よーし、それではお主の特殊能力は魔物使いじゃ!
うまく使えば高等で強力な魔物でもお主の意のままじゃ!
魔物の意思を奪うタイプの能力ではないから、お主の元から解放されても更生されたままじゃ!
名トレーナーとなり平和な世界を築いていってくれい!
……それではワシがお詫びで叶えられる範囲はこの辺かのう。それではこの杖を通して神様パワーを注入するぞ」
イッタ! おい、なんで突き刺すんだ!
「だって、直でやった方が早いんじゃもん。早く魂を入れてやらんと入れ物の体が腐ってまうぞ?
……よーし、特殊能力、肉体性転換システムのインストール完了じゃ!!
ここから先はお主が自らの力で道を切り拓いていくんじゃぞ」
ああ、ありがとう。
不手際で殺されてどうなる事かと思ったが、これでまた俺の理想を叶えるチャンスが出来たと思えば儲けものだ。
たくさん無礼な口を利いてしまったが、許してもらえるだろうか。
「オッケーじゃ。何せワシの管理不行き届きのせいじゃからな。
それでは、準備はええか? 旅立ちの時が迫っとるぞ?」
ああ。……そう言えば、一つ聞いておきたかったことがあるんだが、良いか?
「何じゃい? もう願い事は叶い始めとるからキャンセルはできんぞ?」
そうじゃない。それぞれの神に固有の名前ってあるのか?
同じ太陽神などでも宗教ごとに名前が違うのが気になってたんだ。
「ワシに定まった名前はないぞい。信じる者がそれぞれ思い思いの名で呼んでおる。それでかまわんよ。
ただのぅ。お主がこれから向かう世界、そこの住人はその世界にワシの名前をつけておる。
実はワシはそれくらいありがたーい存在なんじゃよ。
じゃから、フランクに話ができるのはここまでじゃぞ?」
ああ、色々世話になった。繰り返しになるがありがとう。
「よいよい。こちらこそ、じゃよ。お主の向かう世界の名は、”ルファラ”じゃ!!
ではよいセカンドライフをな!」