転生!物理最強勇者誕生! その2
あれ? どうなってるんだ?
声が出せない。
俺、トラックに轢かれて…… それからどうなったんだっけ?
目を開けてみるが全体がぼやけていてよく見えない。ここは病院か?
とりあえず体を起こそうとしてみるが、体が重くてとてもじゃないが起き上がれない。
随分重症のようだ。
何もできない現状がもどかしくて、何とか動かせる手だけを伸ばした。誰かが気付くかもしれない。
その時俺の手が目に入った。いや、実際はぼやけててはっきりとは見えないので、俺の手だろうと言う推測でしかない。
……指が極端に短い。
手首で段になってる。
いやいやいやいや。
俺はさすがに痩せているとは言えない体型をしているが、ここまでじゃないと言う自覚はある。
本当に俺の手か?
疑って手を握ったり振ったりしてみると、その太短い指とハムみたいな腕が、俺が動かそうとした方向にちゃんと動いた。
……俺の手だ! え? どうなってるんだ?!
訳が分からなくなって懸命に誰かを呼んだ。
呼ぼうとした。だけどやっぱり声にならない。
必死に、必死に声を出した。
誰か! 誰かいないのか?!
ここはどこなんだ、俺は無事なのか?!
「おぎゃー! おぎゃー!」
むむ、赤ん坊がいるようだ。随分近くで聞こえる。俺の声はやっぱり出ないが、俺がもがいているせいで驚かせてしまったようだ。って言うか、俺と赤ん坊を一緒の部屋に置いているってどう言う病院だ?
だけどそんな事構うものか。俺はもしかしたら一大事になっているかもしれないんだ。後で謝るから今は勘弁してくれ!
誰かー!
「おぎゃー!」
……
「……」
おーい、お願いだ! 誰か返事をしてくれ!
「おぎゃー! ふぎゃー!」
……変だ。俺が声を出すと赤子の声がする。俺が黙ると赤子も黙る。知らないけど、赤ん坊ってこんなに器用に泣くのを止めたりできるのか?
「よーしよし。ヒューイ、どうしたの? お腹空いたの? それともおしめかしら?」
めちゃくちゃおっとりとした澄んだ声が聞こえてきた。様子からして泣いている赤ん坊の母親だろう。よし、この人に何か聞けば分かるかもしれない。俺はもう一度懸命に腕を振り回した。必死過ぎて目を瞑ってしまっていた。
「あらあら、ご機嫌ななめなのねー? おしめじゃなさそうだから、おっぱいかしら?」
さっきと同じ声がすぐ近くでする。今だ! 赤ちゃんの方じゃなくて、俺の事の訴えに気付いてくれ! 目を開けた。
うわ! な、なななな、な?!
めちゃくちゃデカい人がいる!
とりあえずデカい! 何だこれ! 巨人?!
「あらぁ。ヒューイ、どうしたの? びっくりした顔をして」
その巨人は軽々と俺を抱き上げた。
言っちゃ悪いが、俺はそんなに軽くない事を自覚している。これはあまりに異常事態だ!
しかしその怪力を誇る巨人はそのまま俺を抱き上げ、胸元でかかえたまま俺の顔を見つめた。そこで俺の目のピントが巨人の顔にばっちりと合った。
……めちゃくちゃ綺麗な女の人だ。
ため息が出る。巨人は片手で俺のおでこを撫で、優しく微笑んだ。
「あらあら、ママを呼んだだけ? うふふふ。可愛い甘えんぼさんね」
訳が分からない。だけど俺は無理やりにでも納得するしかなかった。
トラックに轢かれたはずの俺。
動けなくなって、声も出せない俺。
ものすごく綺麗な、ママと言った女の人。
これはそう、転生だ。